第12話




 飛知和さんの死体を、土の中に埋葬し終わり、僕は勢いよく伸びをした。

 体がバキバキと鳴り、少し楽になったような感じがするが、それでもだるさが残った。


「これからどうする?」


 お昼まではまだ少し早いが、何をするか予定は無い。

 僕は緋郷にどうするのか聞いて、特に決まっていなければ行きたいところがあった。


「そうだなあ。そういう風に聞くってことは、どこか行きたいところでもあるんでしょ?」


 そしてその考えは、全てお見通しで、向こうから聞いてくれたから僕は行き先を告げる。


「許可はもう貰っているからさ、灯台を見に行こうよ」


「誰かと一緒に行く必要があるよね? 誰と行くかは決まっているの?」


「……あ、千秋さんに頼むのを忘れていた」


 今度こそ緋郷は、僕に呆れた顔を向けてきた。





「すみません、何か……先ほど頼むのを忘れてしまって」


「いいえ、構いません。ちょうど、灯台に行かなくてはならなかったので。タイミングが良かったです」


「そうなんですか? 何か用事でも?」


「ええ。お二人と同じく、灯台に行きたいという方がおりまして。その方は、現地集合なのですが」


 何ともタイミングが良いことだ。

 昨日も一緒にいたから、今湊さんだろうか。


「それは誰ですか?」


「遊馬様です」


 その名前を聞いて少し帰りたくなったけど、千秋さんを連れていく必要がある手前、わがままは言えない。


 嫌だなあ、行きたくないなあ。

 遊馬さんは、どうして千秋さんに頼んだのだろう。

 もしかしてお気に入りにでもなったのか。


 本音を言えば、緋郷と二人きりで調べたかった。

 千秋さんがいることでさえ、あまり歓迎していない。りんなお嬢様が条件に付けたから、仕方なく案内してもらっているだけだ。


 そこに、遊馬さんがプラスでついてくるとなると、更に気を遣うことになる。

 緋郷の思うままに、調べさせてあげたいが、それは無理なのか。

 今回は軽く、そして時間を空けてから、別の人を連れて調べる方が良さそうだ。


 灯台は島の端にあるので、随分と歩かなければならない。

 僕達は無言で足を進める。

 千秋さんも疲れているのか、少し遅い足取りで一番前を歩く。


 緋郷は、僕の隣で何かを考えていた。

 飛知和さんのことでも思い出しているのか、その口元は笑みが含まれている。

 考えていることは、どうせくだらない。

 こういう時に話しかけると、推理の邪魔になってしまうので、何も出来ない。


 誰も話をしてくれないから、僕も黙るしかない。

 僕一人だけが寂しく、灯台へと向かった。





「あ? お前達も来たのか?」


 灯台から少し離れたところに貼られている規制線のすぐそばに、遊馬さんは立っていた。

 この島ではなかったら、きっと足元には煙草の吸い殻がたまっていたはずだ。

 軽く貧乏ゆすりをしているので、吸えない禁断症状も出ているのかもしれない。


 あのりんなお嬢様であれば、携帯灰皿を持って入れば、外で吸うことぐらいは許可してくれそうだが。

 遊馬さんが、そんなものを持っているはずもないだろう。

 自身の準備不足だから、同情はしない。


「はい。お供させてもらいます」


「はっ。邪魔だけはするなよ」


 それは、こっちの台詞だ。

 僕達からすれば、遊馬さんの方が邪魔である。

 そちらがそういう態度をとるのであれば、こちらだって優しくする理由は無い。


「それで千秋さん。どこまで入って良いんですか?」


 遊馬さんの存在を無視し、千秋さんに話しかける。

 今まで口を閉ざしていた彼女は、灯台を見上げて、そして指し示す。


「この規制線の中に入りまして、灯台の周りを見ることは可能です。しかし、灯台の中は絶対に入らないでください」


「何か隠しているんじゃねえのか? 例えば、誰かの死体とかよお」


 挑発的な遊馬さんの言葉の中には、確実に夕葉さんのことが含まれていた。

 この島の中で、屋敷に隠さないだろうから、規制線が張られ立ち入りを制限している、ここに夕葉さんに繋がる手がかりがあると踏んだのか。

 それはそれで分かりやすい気がするのだが、本人がそう思っているのは、僕がとやかく言うことではない。


 千秋さんが、ほとんど言いがかりに対して、どう対処するのか、次の言葉を期待して待つ。


「いえ。こちらは修繕をしておりませんので、崩れる可能性があるだけです。もしも入って何かがあった場合は、責任を取ることは出来ませんので、あらかじめ了承してください。分かっているとは思いますが、不慮の事故があり亡くなってしまっても、警察は入りませんし、一緒に埋められるだけですよ」


 これほど効果のある注意は、他には無いだろう。

 さすがの遊馬さんも、無理やり入るのは止めたようだ。

 僕も、一応は守ろうと思った。今のところは、だけど。


「私が近くにおりますと、気まずいと思いますので、ここで待っております。どうぞ、気が済むまで見てください。ただし、帰る時はお声をかけてくださいね」


 千秋さんが付きっきりではないのは、こちらにとって好都合だ。

 遊馬さんのことは、全く気にしなければ、緋郷と二人きりと変わらない。


 そうポジティブに考えて、規制線の中へと入った。





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