プロローグ
僕は物語で言うところの、脇役にしかなれない運命だった。
主役になれるほどの華は無く、勇気も運も行動力もない。
しかしそういう人の方が世の中には多く、そういった人に紛れて、このまま平凡な人生を送るのだと思っていた。
可でも不可でも無い大学に入り、大企業ではないが安定した会社に入社し、容姿は普通で性格が良い女性と交際し、そのまま結婚を、郊外に一軒家を建てて二人ぐらいの子供と犬を一匹飼う。
反抗期などに手を焼くことはあっても、事件に発展はせず。
最期は子供や孫に見守られながら、ひっそりと死んでいく。
そしてその死が、ニュースになることは決してない。
そんな面白みのない、でも平和な人生を送るのだ。
自己評価としてはこんな感じなのだが、あながち外れてもいないだろう。
昔、何をしたいのかを考えることもなく、高校に通っていた頃。
当たり障りのない人間関係を築いていた中、ほどほどに親しくしていた友人に言われたことがある。
「お前って、結構印象に残らないよな。悪い意味じゃなくてさ。平々凡々ってやつ? 別に、悪い意味じゃないんだけどさ」
二回言っているのだが、本当に悪い意味じゃないのか。
そんなどう考えても褒められてはいない言葉に、僕は怒りを全く覚えず、むしろ感心してしまった。
彼が下した評価を、僕は納得したのだ。僕のことを、正しく理解している。そう思った。
そして僕のことを理解しているのは、彼だけではなかった。
卒業アルバムのとあるランキングに、僕は名を連ねたのだ。
『将来、普通に幸せになっていそうな人』
そんな誰をターゲットにしたのか、よく分からないランキング。
僕はそれで、二位に選ばれるという快挙を成し遂げた。
特に当たり障りなく学生生活を送っていたら、こんな評価を得ていたというわけだ。
これだけでも、僕の人となりというのがだいたい察せられるのではないか。
このランキングで一位や三位になった人は、風の噂で普通に幸せになったと聞いた。
だから信憑性は、とても高いのであろう。
普通、それは僕が生きていく中で、ずっと一緒にいる言葉。
彼と出会うまでは、そう信じて疑わなかった。
彼は、まさしく物語の主人公になるべく、この世に産まれたような存在だ。
そこにいるだけで場が華やぐ、圧倒的な存在感。カリスマ性。目的のためならば手段を選ばない合理的な考え方。
順調に歳を重ねていけば、歴史に名を残すぐらいのポテンシャルを彼は持っていた。
しかし成人して数年たった今、彼は歴史に名を残すような可能性が低くなっている。
彼が凡人に成り下がったからではない。
むしろ、彼の能力は開花していた。
その開花した能力を、発揮する場もある。そして、何度も発揮している。
しかし開花した能力と、彼の性格が壁になってしまった。
彼の活躍を表舞台で発表出来ない状況に、自然となってしまうのだ。
それに対して本人に文句がないのだから、余計だった。
僕はそんな彼と出会って、衝撃を受けた。
平凡でしかない僕と違い、非凡なものしか持っていないのに、その事実を多数の人が知らない。
普通の人、いやそれ以下だと認識されることも多い。
絶対におかしい状況なのに、本人に気にした様子はない。
彼には彼なりの譲れないものを守ることしか、重きを置いていないせいだ。
それがもどかしくて、そして彼の中にある多くの闇に惹かれてしまって、僕はすぐそばにあった普通を捨てた。
彼と一緒にいることで普通の幸せが送れなかったとしても、構わないと考えたのだ。
それから彼と一緒に過ごすことになり、僕の普通は無くなった。
しかし、全く後悔していない。
僕が普通だったのは、自他ともに認める事実だったが、そのことが僕にとっての幸せではなかったからだ。
今は、とても幸せだ。
脇役は脇役でも、主役のそばにいられて、その活躍を披露する場を用意してもらえたのだから。
これ以上の幸せはないと、心から思っている。
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