主役にはなりたくない〜田中司(41歳)がやりこんだゲーム世界にモブキャラとして転生して世界を救う件について〜
もりし
第一章 モブキャラカシムは婚約する
第1話 タイタンソードマジックオンライン
物語には終わりがある。
ただそれは物語の終わりであり、俺達にとっては始まりでもある。
世界規模の話をしよう。世界は大きな厄災を払い平和へと近づいた。
惑星タイタンは大きなダメージを負い東西南北に亀裂が走り、大きな地殻変動にさらされた。その線は深く、惑星の中心部付近まで及んでいて、いずれこの星の生命は終わるであろう。
だが、明日にでも終わるというわけではない。惑星タイタンは強力な自己治癒能力を持っている。俺たち
例えば人間の大きな傷口は縫うことで塞ぐ。それを惑星規模で俺たちが行った。その後は惑星自体が修復を行う。それはかさぶたのように火山灰が覆い被さったり、大量の海水が流れ込み大陸を分断される。
世界の至るところで、有毒なガスが吹き上げ、異常気象が起こり惑星表面に存続する生命は生き延びるのに必死だ。俺たちだって、明日どうなるかなんて分からない。それは生物にとっては大変な損害を被る現象であったりするのだが、それでも俺たちは互いに協力しあい生き延びていかなくてはならない。
はるか上空の彼方には
これからは残された者達で前を向いて生きていく。俺はあの
そのために俺はこの町が見渡せる彼女との思い出の展望台へやって来たのだ。
ここからまた始まるのだ。
暮れなずむ町の日に照らされた指輪が光っていた。異常気象で起こる雷が時折、指輪を激しく明滅させる。
「ラーナ姫、俺と結婚して下さい」
ひざまづいた俺がそう告げた。
プロポーズのために俺が世界各国を飛び回って集めた宝石で作った指輪だ。一つ一つの宝石は小ぶりだが、色とりどりで日に照らされて美しく輝いていた。
「はい、喜んで」
頬を赤らめた彼女はそれを受けとる。
ラーナ姫はアーモンド型の瞳を潤ませる。白銀の髪が風に揺れた彼女の姿は美しい。この世界にこんな美しい女性がいるのかと、俺が初めて彼女を見た時に思ったものだが、今でもそれは変わらない。
俺は彼女の手を取り、指輪をはめた。
「マイト、私、ほんとうに幸せよ」
伸びた二つの影が、寄り添う。
fin
◆◆◆
「やっぱりこのエンディングはサイコーだな」
エンディングロールを見ながら俺は呟く。
浸っていると、視界内に通信が入ったと知らされる。
俺はそれをクリックした。それは【kldy】からの着信であった
『やあ、クリアしたかい?』
noimageのアイコンだ。
「今しがたな。何だよ、感動のエンディングに浸ってたのに」
『どうせ、ラーナ姫とのハッピーなエンディングだろ? 何回も見てるじゃないか』
「何回見ても良いものは良いんだよ」
『いかれてるな。世界ランキング十五位の【t-nak】がそんなベタなエンディングがご趣味とは誰も知らないだろうな』
「そりゃ。良いだろ? そんな【kldy】はどんなエンディングを?」
『世界は終わったよ』
「なんだって? バッドエンディングじゃないか」
『まあ、【t-nak】にとってはそうだろうけど、俺にとってはハッピーエンドさ』
「どういう意味だ?」
『言葉通りだよ。ボクは世界の破滅を望んでるのさ』
「イカれてるな」
『ありがとう。サイコーの褒め言葉だ』
そう言って【kldy】は通信を切った。
「おかしなやつ……」
俺はVRゴーグルを外す。
VRアクションロールプレイングゲームである【タイタンソードマジックオンライン】を八年も遊んでいた俺だ。
社会人である俺は、激務の傍ら毎日のようにと遊んでいたのだが、今月をもってのオンラインサービスの終了に伴い、最後に自分の好きなエンディングをもう一度見たいとゲームのクリアを目指した。
ただクリアといってもこのゲームは自由度が高く果てしなく遊ぶ事が出来る。
家を建てたり、武器も自分でデザイン出来る。AIが組み込まれていてNPCとの会話も出来る。
エンディングも各種ある。攻略する女性も何人もいて俺は、その度に徹夜でゲームしてはそのエンディングを見ていた。何度クリアしても自由度が高すぎて楽しめて終わらないのだ。辞めるタイミングを見失っていた俺は、今回のオンラインサービスの終了に伴ってここで、区切りをつける事にした。
主人公と姫のハッピーエンドというのはベタであるが、やってる本人としては楽しいモノだ。とはいえ、このゲームの難易度は年々上がっていて、今回は特にハードモードになっていた。まるでメーカー側がエンディングを見せないようにしているとしか思えない。まあ、オンラインサービスを終了する程人気が落ちてしまったのだから、製作者がそういう設定に変えてしまったのか。
『クリア出来るならやってみろ』
そう言っているようだった。まあ、クリアしたけど。発売当初は爆発的な人気を誇っていたゲームであったが、次々と発売される新しいタイトルにユーザーが飛び付くのは仕方ない。徐々に人気は陰りを見せて、俺や【kldy】のようなヘビーユーザーしかいなくなった。世界ランク十五位になったのだって、発売当初から遊んでいたからであろうし、ここまで毎日【タイタンソードマジックオンライン】しかしないゲーマーもいないのではないか。十五位になるのも当然であろう。だが世の中上には上がいる。
結局一桁台までランキングが上がる事はなかった。
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