息子飯
雲水
息子と私をつなぐもの
先日反抗期の息子と大喧嘩した。自分の意見が通らないと息子は私を老害扱いし、一生わかりあえないと突き放す。こうして成長していくのだろう。わかっている。勝手にしろと、どしんと構えた。息子は無反応だ。無反応を装おっているのかもしれないが、平気そうに見える。何事もなかったかのようにスマホを眺めている。もしも一生このまま距離が離れて行ってしまったら。突然私は不安に襲われた。成長したなとほほえましく思うことなどできない。小さい頃の息子を思い出す。かわいいなぁ。
寂しい!猛烈に寂しい!
私は何食わぬ顔をして立ち上がり、息子のスマホの画面を背後から凝視した。
ほう。釣りか。釣りに興味が出たのか。というより、お前はこの状況で釣りの動画を見ていたのか。燃えたぎるような熱量を持った私の心情と息子の無関心さに温度差を感じながら、私は自室にこもり「釣り 初心者」と検索した。
数日後
道具を揃え、にわか知識を詰め込んだ私はあれから目も合わせなくなった息子に声をかけた。無視されたらどうしようかと内心ヒヤヒヤしていたが、行く!とあっさり返事をもらえた。
車内で会話がなかったのは二人とも初めての釣りにドキドキしていたからであろう。もっとも、ワクワクの方のドキドキしていた息子に対して、不安でいっぱいの私のドキドキは似ても似つかないものだが。早朝防波堤に場所を取り椅子を二つ並べた。手際よく竿に道糸を通し仕掛けを結ぶ息子を背に、繰り返し見た動画を思い出してもたつく私だったが、横からスッと手が伸び、「貸して。」と手際よく結んでくれた。二人でのんびり竿を下ろしながら話そうと思っていたのだが、椅子に座る暇もないほど釣れる。これが入れ食いというものか。楽しい。嫌気がさすほど釣れるではないか!興奮して気付かなかったが、いつの間にか息子と笑顔で喋っていた。
帰りの車内では、あの時のあたりが凄かった、隣のおじさんがガチだった、次は○○へ行こう!と大いに盛り上がった。帰宅して道具を二人で水洗いし、大量の魚を小袋に分け、ご近所にお裾分けしに行くように言った。「うん。」行くのか。最近はなるべく挨拶しないですむようにわざとスマホを見ながら足早に通り過ぎていた息子が意気揚々と出かけて行った。幼い頃から息子の成長を見守り続けてくださっているご近所の方々は今頃さぞかし喜んでくださっていることだろう。たくさんのお菓子やジュースを照れくさそうに持ち帰った息子が、スマホ片手に残りの魚をさばき始めた。悪戦苦闘する息子の背中を眺める贅沢な時間。お世辞にも綺麗とは言えない魚肉のかたまりを嬉しそうにスマホで撮影し、運んできてくれた。まずはイワシを一口。
うまい!!
息子飯 雲水 @panipanipani
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