ボクんちの先生。もとい、先生んちのボク。

紫 李鳥

第1話

 


 うちの先生は、毎日、うちにいます。


 たまに出かけるとしたら、散歩ぐらいです。


 ごはんとか掃除は、近所に住んでる通いのお手伝いさん、通称、ワテさんがしてくれます。


 なんで、ワテさんて言うかと言うと、いつも自分のことを、ワテって言うからです。


わてがしますがな、とか、わてもですがな、とか言います。


 先生がなんの先生かって言うと、小説家です。


 なんでも、歴史物が得意なんだそうです。


 んと、ボクが知ってる小説は、『吾輩わがはいは○である』です。


 設定からして、そういうお前は猫だろうって?


 そんな、夏目先生の二番煎にばんせんじじゃないですよ。


 じゃ、犬かって?


 えへへ。……チュー


 げっ! ネズミかって?


 えへへ、実は。


 この原作者はネズミが好きだなって?


 ってか、ボクを含めた毛深い系(哺乳類)が好きみたいです。


 ボクは大して毛深くありませんが、それでもなんか好きみたいです。


 それと、♪仲良くケンカしな~、の『トムとジェ○ー』も影響してるかと思います。はい。


 登場動物が偏ってて、どうもすみません。原作者さんの代わりに謝ります。


 では、先生の話に戻らさせていただきます。


 先生のペンネームは、岡目八目おかめはちもく。通称、〈オカメ〉です。


 え? 男じゃないのかって?


 先入観は捨ててください。


 先生はれっきとしたレディです。





「ったくよ。なんで明智は信長を殺っちまったんだよ。信長がもうちっと長く生きてりゃ、歴史は変わっていたかも知れねぇのによ。どう変わったか、見たかったなぁ」


 オカメさんは、ボサボサの頭をポリポリ掻くと、ピース缶から両切りを一本抜きました。


「おう、ちゅー、ライター」


「チュー」


 オカメさんは、ボクのことを〈ちゅー〉と呼びます。


 ボクは、座卓の近くにある使い捨てライターを鼻先で押して、オカメさんが座っている座椅子のとこに運んでってあげます。


「おう、悪いな、くつろいでっとこを使っちまって」


 オカメさんはそう言って、ボクの顔をチラッと見ます。


「チュー」


「ゴホッゴホッ! 両切りはやっぱ、キツイな。吸い慣れたメンソールにすっか。タバコと枕はやっぱ、慣れたのがいいや」


 と、ま、こんな具合です。




「先生、夕食ができましたえ。どうぞ、召し上がっておくれやす」


 も、お気づきでしょうが、ワテさんは京都の出身です。


 なんでも、娘さんが東男あずまおとこのとこに嫁いで、ワテさんを一人、京都に残すのは心配だからということで、娘さんのご主人宅に同居してるんだそうです。


「あら、美味しそうやわ。いただきます」


 オカメさんは、ワテさんと話す時は、ワテさんに教えてもらった京都弁を使用します。


 さっきまでとは一変しますので、ご注意ください。


「わての味付けは、だし濃くの薄味どす。先生の好みの味どすえ」


「ん~、ほんま、美味しいわ。大根にだしがしみて、それでいてしょっぱくなくて。大好きやわ、ワテさんの味付け」


「ゲヘッ。料理のことなら、このわてに任せておくれやす。うまいもんをぎょうさん作りますよってに」


「おおきに」


「ほな、時間どすさかい、おいとましますえ。お風呂、沸いてますよってに」


「おおきに。気ぃつけて」


「へ。ほな」


「さいなら」


 オカメさんは、ワテさんが帰ると、ボクを呼びます。


「ちゅー、めし。一緒に食おうぜ」


「チュー」


 オカメさんは、ボク専用の皿に惣菜そうざいを小分けにして入れてくれます。


「はいよ」


「チュー! がぶっ」


 ほんと、美味しいです。


 皿をガタガタさせながらペロッと食べちゃいました。


「早っ。ちゃんと味わって食べなよ。さて、テレビでも観っか。ちゅー、リモコンの電源オン!」


「チュー!」


 と、ま、こんな具合です。

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