../書記:03月24日
何かがおかしい。
ここ最近の記憶がない。
脳が不要な情報を削除するのは機能的に当たり前のことだが、流石に二週間まるごとの記憶がないのはどう考えても異常だ。
誰かに連絡し、状況を伝えようとも考えた。しかし 気がつくと数日が経過する。記録として残るのは私の意識があるときに書いたこの記録だけだ。
記憶がないだけであるならまだいい。しかし一番の問題は、記憶がない間にも私が行動していることだった。
記憶がない間の私は何をしているのか?
私の知らない間に、研究が進んでいる。
私の知らない間に、講義が終わっている。
私の知らない間に、機材が増えている。
そして私の知らない間に、彼が増えていた。
一体誰がこんなことをしたのか。チームに問うても、私の指示だという答えしか返ってこない。
私の手で、私の声で、私の姿で、私ではない何者かが私のように振舞っていた。
これは明らかな異常だった。だが、どうする? 警察にでも通報するべきだろうか?
……いや、それはできない。この研究は秘密裏に行われている。もしここに捜査が入れば、これまでの研究成果は押収されてしまうだろう。
それだけはなんとしても避けねばならなかった。
ならば記録しかない。筆記でダメなら今度は視覚情報の映像を残してみる。これならば、自動的にインナーユニバース上に記録が残り、私が意識を失っている間の出来事もこれで分かる筈だ。
私を語る何者かの思惑が、これで分かるだろう。
私の記憶がない時間は日に日に増えている。こうやって日記に向かっている時間だけが、私が私であると確認できる貴重な時間だ。
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