僕の冒険が純文学風に書かれていてなかなか冒険が進まない

Lie街

無慈悲

僕は選ばれた。そこにはなんの作為もなく、或いは造作もなく。僕は初代勇者の末裔だった。運命というやつはそうやって僕の首を絞めたがる。そんな、なんの意味もなさない理由で僕は2代目の勇者に選ばれた。

城までの道中、僕は空を見上げた。何年ぶりだろうか、こんなにも青い空に心を打たれているのは。海を写し取った空に真っ白な陸地が浮かんでいる。あそこに逃げれればどれだけいいことかと、自分のことながら苦しいくらいに不憫に思った。

どこまでも続くような──続いて欲しいレッドカーペットを歩く。なるべく失礼のないように恭しく真面目に丁寧に歩く。豪華できらびやかな、権力の象徴のような椅子にふくよかなこの国の王がドカりと座っている。

「よく来たな勇者よ」

よく響く低い声が部屋いっぱいに羽を広げる。その声には妙な説得力があり、もっともらしい大義名分をひとしきり喋り終えたあと、僕の顔を上げさせ王様は召使いを呼んだ。

「勇者よ、これをさずけよう」

王様は子供が使うものよりも少し質のよく、大きさの大きい木の剣と、物持ちの良さそうなまな板をくれた。そのまな板をよく観察すると木の盾だったことは言うまでもないだろう。もし、これが冗談のつもりならばこれ以上ないくらいに笑ったかもしれないが、生憎、王様の顔は仮面でもつけているかのような澄ました表情を崩していなかった。

僕は王様のさもしさを腹立たしく思った。もちろん、僕も人の事をとやかく言えるほど賢者ではないし、人並みに下卑た所はあると思っていたが、王様のそれはあんまりじゃないか。僕は今から命を賭してこの国を救わんとするのに、あなたがさずけてくださるのはチャンバラごっこをするような木の剣ではないですか。もしも許可が出るのなら、僕はその場に打ちひしがれていたかもしれない。でも、僕はその気持ちさえも押し殺して、できるだけ低姿勢にそれらを受け取った。それから僕が念入りにお礼を言い、元の場所へ膝まづくと王様は更に信じられないことを言った。

「勇者よ、酒場に行き仲間を集めるのだ」

その後に仲間は3人だとか、僧侶だとか戦士だとか言っていたが僕はその王様の適当加減に嫌気がさし、王様に嫌悪感に似た感情さえ抱き始めまともに話を聞くことが出来なかった。

仲間を集めろ?昼間っから酒屋にいるようなやつを仲間にするのか。それならば、城の兵士を幾人か連れていく方がどれほど良いか。そんなことを思いながら兵士のこわばった顔と王様の声の残響を背に城を出た。

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