第62話 二周目悪役令嬢は、一味違ったらしい02
そんな風に考えていたらウルベス様が、口を開いた。
いつも変わらない表情ながら彼の微妙な心中を表すかのように、複雑そうな様子で、だ。
「彼の事を話題に出す度に思うのだが、猫……と呼ぶのは少々心苦しい。かといって本名で呼ぶわけにもいかない。何か呼び名を考えた方が良いのではないだろうか」
「そうですわね。確かに……」
町中で話している分には、ただ変な人だと思われるだけだろうが、両親や使用人たち、警戒中である騎士の前でうっかり名前を漏らしてしまったら全てが大惨事だ。
何か代わりとなる呼び名を考えた方が良いだろう。
だが、邪神に付けるような名前など、そうそう思いつくはずもない。
「困ったわね」
数分間揃って頭を悩ませるものの、一向に何も思いつかなかった。
「あ、お嬢様。髪にゴミが、風でとばされてきたようですね。少々失礼します」
その内に風が吹いて、トールがそんな事を言ってきた。
だが、身を寄せようとする彼の動きを制する様に、私を挟んだ反対側にアリオが陣取った。
「あ、ずるい。俺の方が近いのに」
「そういう問題じゃない。アリオのような無遠慮な手でお嬢様の繊細な髪に触られると、お嬢様の髪が可哀想だろう」
「何だよ、それ。トール最近俺に対してちょっとひどくない!?」
「別に普通の事だ」
そして、そのまま左右でケンカを始めてしまう。
間に挟まれているこちらはたまったものではないが彼等二人のやりとりは、アリオの言う通りほんの少しだけ以前より気安いもののように思えた。
そんな彼らの様子は、はた目から見ると言い合っている様にも見えつつ、仲良くなっている様にも見えるので、止めるのが躊躇われてしまう。
だが、そんな事をしている間にウルベス様が漁夫の利を得てしまったようだ。
「ふむ、葉っぱだな。他にはないから安心すると良いアリシャ殿」
「あ、ありがとうございます」
そう言って、私の背後からこちらの後頭部に手を伸ばして、迅速に問題を解決してしまった。
「「あっ」」
活躍の場がなくなってしまった事に、左右の二人はうなだれるしかない。
対抗心を燃やしているトールと、純粋にこちらの身を思ってくれているアリオの態度は対照的だ。
「ウルベス様、油断ならないお方です」
「お嬢の役に立てなかったなぁ……」
こうして賑やかしく話ができる事を私は改めて嬉しく思う。
少し前なら、三人が揃って一時を過ごすなんて事は考えられなかっただろう。
けれど今、目の前にその景色がある。
私はヒロインでもないし、主人公になるようなガラでもないと思っている、むしろ悪役の立場だ。
それでも、自分にできる事をやり遂げられたという、ひそかな達成感があった。
「ミュートレス様の名前、良いものを考えておかなくちゃいけないわね」
たまに屋敷にいると、誰も演奏していないのに楽器の音が聞こえる事がある。
その事実を私達は、きっと都合の良い方へと解釈しても良いはずだ。
ヒロインの様にさっそうと解決する事もできなくて、この日常を守る事で手一杯だったが刺殺エンドの先へ行けたこの状況を見るに、乙女ゲーム世界で二周した
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