終章

第61話 二周目悪役令嬢は、一味違ったらしい01



 取りあえず様子からして、最後の攻略対象に殺される事は無くなったはずだ。


 あれから数日。

 その後、騎士団とかの説明やら荒れた屋敷の後始末やらで大変になったが、誰も死ななかったのでいつも通りの日々が過ぎていった。


 ここ最近奔走していた目的がなくなって少し寂しい思いもしたが、それは無事だったからこそ味わえるものだろう。


 そもそも死んでいたらまた三周目がスタートしていたかもしれないし、神様の気が変わったらそのまま二周目が強制終了という事もありえなくなかった。


 妥協するような形で場を治めたが、私はこれで良かったと思っている。

 ミュートレスの思いを否定する様な事は逆効果だし、あの一瞬で彼の復讐心の全てを無くす事などできない。


 ただの人間である私にできる事は、ただ少しの歩み寄りとこれからの猶予の時間を作る事だけなのだから。

 完璧なエンディングを望まれていたのだとしたら、あの時点でまた二周目は終わっていたかもしれないが、これまでの様子を見てそれはなさそうだった。


 今はとりたてて大きな騒動が起こっているわけではなく、静かなものだ。

 だけど、それで良いと私は思うのだ。

 暇だとか退屈だとかいう感情も、平和な証拠だから。






「厨房の食べ物が最近よく無くなる?」


 たまたま時間が出来たという事で、もうすぐこの地方での活動が終わるらしいアリオの公演を見に行った帰り。

 私は、偶然同じ場所に訪れていたウルベス様と合流し、アリオやトールも交えて公園で話し込む事になった。


 話題に出るのはトールからもたらされた最近の食堂事情だ。


 それは例の一件の事で、少しだけ垣根をこえて周囲に歩み寄る気配を見せているトールが、厨房で働く者と話をした時の事だ。


「はい、大した被害ではないのですが。何でも小さな食材ばかりが狙われているとか」

「それって……」


 頭の中に浮かんだ可能性を私が思い浮かべれば他の者達も同じ事を考えていた様だ。


「何だ、あの猫まだいたんだね。お嬢の事好きになっちゃったのかな」

「神話で話される邪神が一貴族の食堂の材料をつまみ食い……、にわかには想像できないが」


 アリオとウルベス様がそう意見を言えば、私は彼等に今まであって事を思い出して伝える。


「そうでもないかもしれません。何というか……、屋敷の周りに住み着いている時も、時々お腹空かせているような様子でしたから。それで心配した使用人達が、餌となるようなものを用意して向かった事もあるんですけど……」


 そう話してみせれば、実際に向かって引っ掻かれた事のあるトールが反応。顔をしかめながら会話を引き継いだ。


「ことごとく返り討ちにされて、被害者が続出したんですよね」


 と、以前引っ掻かれた場所である手の甲をさすりながら、内容を口にした。


 邪神……であるのは今更疑わない。だが彼は、猫の姿をしているせいなのか、生存の為のエネルギーを自力で補給しなければ生きていけなくなってしまってるようだ。


 今までは猫らしく、そこら辺にいる鳥とか野ネズミとかを捕まえていたらしいのだが、何かが吹っ切れたのか最近は頻繁に屋敷の中に侵入してきて、厨房を漁っているようだった。


 事情を知らないお父様達が駆除依頼……というか討伐依頼を出してしまっているので、様々な所から警戒されているはずなのだが、毎回凄腕の泥棒のようにそれらをすりぬけて犯行に及んでいる。


 私を間接的に殺そうとしていた時は、数々の証拠を残していったにも拘わらず。


 もしかしたら彼はずっと、自分の行動を止めて欲しいと無意識に思っていたのかもしれない。


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