第45話 とうとう邪神と正面からご対面です
その使用人は大声を発して、他の者達に火災が起きた事を知らせてくれる。
「中からお嬢様達の声が。閉じ込められてる! 鍵を持ってこい、急げ!」
トールが着ていた上着を脱いで炎の上にかぶせれば、さらにその勢いは小さくなっていたが、後々どうなるかはまだ分からない。
火が燃え移っている他の品々はまだ健在なので、危機的状況は変わらなかった。
部屋の中が、煙で見渡せなくなっている。
「お嬢様、煙を吸いこんではいけません。姿勢を低くして、これを」
「トール……でも」
かがむ様に言われて、姿勢を低くする、するとその上からさらに、こちらの身を護る様にトールが自分のシャツ脱いで、私にをかぶせてくれた。
「恰好悪い所を見せてしまったんですから、守らせてください。疑った事については、使用人達に後で謝らなければいけませんね」
つい最近あった出来事で、アリオにしっかりケジメをつけさせたトールだ。
他人に厳しい彼は自分にもそうだった。
たとえそれが他から見て分からない事であっても、彼は公平に己を裁くのだろう。
しばらくすれば、物置のドアがガチャガチャと音を立てはじめる。扉の付近が人の声と足音で騒がしくなったと思えば、数秒もしない乱暴に開かれた。
「良かった」
「これで外に出られますね」
私はトールに守られるようにして、部屋の外へ。
新鮮な空気と煙のない視界に安堵する。
低い姿勢になって、できるだけ煙を吸わないようにしていたが、トールがかけてくれたシャツを見るとすすだらけだった。
「トールは大丈夫?」
「平気ですよ。お嬢様こそ」
心配になったが、多少すすけてはいるもののトールも無事の様で、心の底からほっとした。
物置の中を見てみると、扉側はともかく奥側は真っ赤になっていた。
扉が開いた事で、風と共に新鮮な酸素が入ったからだろうか。
再び火が大きくなっていた。
だが、そんな灼熱の物置の中から歩み寄って来る存在がいる。
先程瓶を投げつけてきたあの猫だ。
ゆっくりと、熱さをまるで感じてないようなその足取りで、その歩みには迷いがない。
あの姿を見てただの猫だと思う人間は誰もいないだろう。
私の言葉を聞いて、私を殺そうとした犯人が使用人ではないという結論に至ったトールも、実行犯が猫であるという事実を受け入れがたかったはずだが……。
これを見たら信じざるを得ないだろう。
計らずともその証拠となるものが向こうから飛び込んできたため、これで犯人捜しは解決したが。
未だに、命の危機は継続中だった。
一周目の時に、私を刺殺した黒猫の姿をした最後の攻略対象。
我が家に住み着いていて、人に中々なつかないあの黒猫。
「二度目だけど、やっぱり邪神なのね……」
だがその正体は創世神話で語られている邪神ミュートレスだ。
あの黒猫の正体は最後の攻略対象であり、乙女ゲーム「ラブ・クライシス」でも、この世界でもかなりの重要人物。
女神ユスティーナの手にかかって、封印されているはずの
彼は、ここ最近でようやく、長い間力を蓄えて黒猫として活動できるようになった存在。
そんな彼は、女神ユスティーナと全ての大元である、争いの原因を作った
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