第3話 冒険の始まり②


「ここはどこですか?」


またも返事はなかった。


「なんで黙ってるんですか? 信用できないとでも?」


「しっ! 静かにしてくれ。そうではないよ。だが君には無理だ」


この人は俺を侮っている。裕福な家庭に育った子どもの常として、翼は子ども扱いされるのが大嫌いだった。


「自分が子どもだからですか? 」

「だから声を抑えて。君だから、というより、無理難題だ。君は神さまじゃないだ「おい! お前うるさいぞ! 」


その時怒鳴り声がして、土牢の蓋を開けて、若い男が顔を覗かせた。


「まずい…… 」


報セは翼とシイ神さまを隠そうとしたが、遅かった。翼が驚いている間に


「何だ、そのガキ?と人形?」


男は翼達をつまみだそうと、梯子を降ろして土牢に降りてきた。酒に酔っているようで、翼が半透明なことにも気づいていない。翼は応戦すべく、男に摑みかかろうとした。すると翼の手が触れた瞬間、急に眠りに落ちたように、男は倒れた。翼の中で驚くべき事柄が渋滞を起こした。けれど現実は翼の驚きを待ってはくれず、


「どうした? 」


ともう一人、男が顔を覗かせた。


「うわぁ! 」


と不恰好な掛け声とともに、今度は翼が梯子を駆け上り、殴りかかった。男はまたも悲鳴もあげずに倒れた。息はしているので、気を失っただけのようだ。


土牢に戻って翼は言った。


「何がどうなっているのかわかりませんが、見張りは倒してしまったようです。このまま逃げますか?」


報セはしばらく呆気にとられていたが、


「いや。見張りの他に、近くに根城があるから下手に動くのはまずい。中に戻っておいで。作戦を立てよう」


と答えた。土牢の中で倒れた男を外に運び出して、梯子を畳んで隠すと、報セは簡単に身の上話を始めた。


 自分は報道写真家であること。先に取材に入り行方不明になった、恩人の写真家の手掛かりを探して、氷上帝国最北の島、ここ菱の島に来たこと。案内人に騙されて、菱の島で反乱を起こしている『独立革命軍』に捕まったこと。どうやら身代金が目当てらしいが、数少ない友人達の他は天涯孤独の身の上で、身代金を払ってくれる当てがないこと。肝心の恩人も、どうやら同じ境遇であること。


「そういえば、君の名前を聞いてなかったね。改めまして、僕は報セ《しらせ》山藤。よろしく」


「あ、そうでしたね。黒キ翼です。南風はえ市立中学、三年二組です」


「丁寧にありがとう。正直なところ、とても頼りにしているよ、黒キくん。無事に帰れたら、お礼をしよう」


そのまま手を差し出す。握手がしたいのだろうが、生き霊の翼には無理なので、握っているように手を近くに寄せた。


「翼でいいですよ。皆そう呼ぶので」

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