第21話 彼女との出会い⑤
リンが台所から去ると、報セはシイ神さまに耳打ちした。
「彼女はどう見えます?」
「……失礼な女なのだ」
シイ神さまはムスっとした表情を崩さない。
「異教の神を敬え、というのは無理があるでしょう。彼女らにとって、貴方は一人の霊にすぎません。僕がお尋ねしたかったのは、彼女の魂についてです。僕は彼女は信用しても良いと判断しましたが、貴方のように魂を感じとることはできません。翼は女難の相があるようですし、表には見えない何かがあるのなら、教えていただきたい」
要は万難を排するために意見が聞きたかったのだ。報セは自身の判断に他人を介在させることはない人間だが、安心材料は多ければ多いほど良いと考えていた。
「少なくとも人殺しではないな。見た通りの人物と考えて良いだろう。遠慮がなく、親切だ」
「それなら良かった」
「しかし、あの女と翼の女難の相になんの関係が?」
不思議そうに尋ねるシイ神さまに、報セは皿を洗いながら尋ね返した。
「貴方は、魂に現れるなんらかの特徴を、人相や手相に例えて女難の相とおっしゃられたのでしょう?」
「いかにも。その通りだ」
「でしたら、翼は女性関係には気をつけた方が良いのでは?」
シイ神さまは眉を寄せた。
「これは異な事。女難とは女に振り回されたり、厄介な女に好かれたり、色仕掛けに引っかかったりする災難の事ぞ。お前はあの女が
色仕掛けを使ったとでも言うのか?」
報セは首を振った。
「そうは思いませんが、なんといいますか、翼が好意を寄せているようなので、気になっただけです」
「ああ、なるほど。翼が一方的に惚れてるだけだからそれほど気にする必要はないのだ」
「それはそうですが、一方的と言い切るのは翼が気の毒ではありませんか」
「では問うが、お前は翼の恋が成就すると思うのか?」
報セはまた首を振った。
「いや。それはあり得ないでしょう。彼女が今の翼を恋愛対象として見ていたら、僕だって気づくと思いますよ。これは両思いだってね。色々と問題ですが」
「それ見ろ」
シイ神さまは胸を反らした。
「しかし粘ればあるいは……」
「現実的ではあるまい。考えてもみよ。子どもの頃、特定の人間にのぼせあがるのはよくある事なのだ。麻疹みたいなもので一か月もあればケロリと治る」
洗い物を終えた報セとシイ神さまは、台所を後にした。食卓では翼がある種の熱を帯びた真剣な表情で、リンの話を聴いていた。翼に悪いと思いつつも報セはある種の微笑みをうかべ、シイ神さまはやれやれとため息を吐いた。
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