第38話。初授業

 


 一番最初に行われた算術の授業。テストで小学校卒業レベルの問題を普通に出していたくせに、簡単な足し算引き算から行われた。

 いや、算術ってそういう初等計算を指すのはわかってたけど!


「8+3、わかる奴挙手……って、わかんない奴居るわけないよな。やめだやめ! 少数の計算教えてくからちゃんと付いて来いよ」


 リカルド先生のものぐさ、ここに極まれり。小学生問題をすっ飛ばして、いきなり小学校5年生で最初に習う計算からスタート。

 まぁ、このクラス全員があの入試成績上位者だ。正直今更、足し算引き算からやらされるのは辟易していたところ。皆あからさまにホッとした顔をしている。


「あっと、そうだった。もしわかんない奴いたらアレだから、一限ラストに小テスト配るぞ。満点未満が1人でもいたら最初っからやる。心してかかれ」


 んむむ。これは単純な計算ミスすら出来ないな。

 算術から算数に進化した授業は、城で専属教師に教えられるより断然楽しかった。








 4限目、魔道具学の授業。

 ここまでで座学を受けてわかったこと。どうやら教える先生は、どの授業でもリカルドから変わらないのだ。

 中学校は先生がいちいち変わるらしいけど、俺は小学校までしか通ってなかったので、こっちの方が馴染み深い。でも流石に中等部や高等部は専門的な知識が必要になってくるし、ころころ変わるんだろう。


「魔道具についてだが、基本はダンジョンの中から出てくる。これはまぁ、知ってるよな。んじゃ、もうひとつ入手方法があるのは知ってるか〜〜」


「「「魔道具士による生産です」」」


「そ。職業魔道具士を持つやつが上手く作れる。ダンジョン出土品の方が性能いいんだが、滅多に出てくることはねぇ」


 本当に滅多に出てこない。

 1つの国のダンジョンで、1年に片手で足りる個数が限度。だから街の街灯や冷蔵庫とか、簡単な構造の魔道具は全て魔道具士の手によるものだ。


「ダンジョン出土品で有名なのは、無限収納とかテレポート魔法とかだな。魔法は魔道具じゃねぇが、それの習得法が書かれた巻物を読むだけで使えるようになっちまう。だから一応魔道具の括りだ」


 テレポートは是非とも入手したい。飛行魔法でもいい。遠くまで移動するのに毎回魔導列車を使わねばならないのは少々面倒なのだ。


「せんせー! 先生はダンジョンの魔法持ってるんですか? 見たいです!」


「おー、んじゃちょっとだけだぞ。実体分身!」


 リカルドが増えた。1、2、3……10体は居る。


「せんせーすごい!」


「まぁ、どうなっているのかしら」


「あの教師、やるわね」


 クラス中から感嘆の声が巻き起こった。

 ミシェルが質問を飛ばした時は何を言ってるんだと思ったが、習得していたのか。


 ダンジョン魔法の巻物は普通、市場に出ない。真っ当な手段で買う方法は無いと言っても過言ではないレベルだ。ということは、リカルド本人がダンジョンで入手した可能性が高い。


「この魔法は、水魔法の分身や闇魔法の幻覚と違って実体を持つ。一度に10体しか作れねぇし燃費も悪いが破格の性能だ。俺が昔冒険者やってた時に、ヒシュリムのダンジョン最下層近くで見つけた」


 10体しか作れないとしても、ダンジョン最下層に行けるくらい高ランクの冒険者が10人に増えるなら相当な戦力になる。現役やってそうなリカルドが何故教師になっているのか気になるな。


「リカルド先生、何故冒険者を辞めたんですか?」


「あー、子供が好きだからだな、うん」


 おう……人は見かけによらないな。いや、性格によらない? このリカルドが子供好きとは意外すぎる。照れを隠すようにガシガシと頭を掻き回していた。









 5限目、選択実技槍の授業。

 実技試験を受けた校庭に、俺達は集まっていた。他にも校庭があるのか、槍の生徒しかいない。


 選択は他クラス合同のようで、A組では見なかった顔が複数いた。A組が俺を入れて3人、B組が4人。

 2選択できるからもっと多いと思っていたのだが、案外少なかった。普通はメインウェポンとサブで格闘を選べば十分だし、1授業しか取らない生徒もいるからこんな人数なのだろう。


「ふむ、揃っているようだな。自己紹介しよう。私はジュディ。槍の授業を受け持っている。私の指導は厳しいが、諸君らが付いてくることを期待している」


 男装女性教師、ジュディが数本の槍を抱えてやってきた。彼女は右目に眼帯をしており、その隙間から爪で割かれたような傷が見えている。


「最初は基礎体力を計測する。身体強化は禁止。校庭トラック2周のタイムを計る。並びたまえ」


 カイン学園のトラックはめちゃめちゃでかい。1周500mはありそうだ。それを2周だから1kmか。


「用意。…………始め!!」


 一斉に走り出す子供達。一定レベルで武芸を習っている子ばかりだから、スタートダッシュで全力疾走する者はいない。

 俺は軽く走っているのだが、魔族のスペックのせいかどんどん引き離してしまう。更に手を抜こうとすると、ジュディが1つしかない目で睨み付けてくるのでそれも出来ない。


 結果、他の子が5分ちょいのタイムで走りきったのに対し、俺は3分台になってしまった。これでも軽く走っていたのだから、本気を出したら目も当てられない。


「1人想定外が居たが他は概ね平均。よろしい、槍技について教えよう。自分の槍を持っていない者は?」


「はい」


 どうやら俺だけのようだ。


「こっちに来たまえ。槍を選んでやろう」


 俺が前に出ると、ジュディは抱えていた槍から1本を選んで俺に持たせた。


「少し長いな。こっちでどうだ。……うむ、いいだろう。これから授業中はこれを使え」


 それからは全員で型の確認をしたり、経験者同士は模擬戦を行ったりして今日の授業は終了した。








 5限が終わった後の初等部1年A組の教室。授業が終わったら解散かと思いきや、教室掃除とHRがあった。

 皆でわちゃわちゃしながらの掃除はすごく楽しくて、すぐに終わってしまった。


「掃除おつかれだったな、お前ら。夏休み前の遠足行きたい国アンケート取るぞ〜〜」


 国外遠足! 流石はカイン学園、スケールが大きい。

 配られたアンケート用紙を確認してみると気になる国を見つけた。


「今までは獣王の許可が取れなかったんだが、今年は許可が降りたから獣人国も行けるぞ。来年は取れないかもしれないから、行きたいやつは選んどけよ」


 前王が許可を出していなかった理由も気になるが、それよりも、ルーシィの話によると別次元に強かったらしい謎の新王が何故許可したのか。これは何かありそうだな。


 父様の伝言についても調べに行きたいが、ルーシィは行きたがらないだろうし迷う。ルーシィの方を見てみると、彼女は迷いなく獣人国を選んでいた。


「ルーシィ、いいの?」


「いつまでも逃げていられないわ。これ、あいつが絶対に何か企んでる」


 小声で聞いてみたら、真剣な顔をしたルーシィが強い瞳で俺を見つめ返してきた。

 その雰囲気を感じ取ったのか、ミシェル達が次々に会話に参加してくる。


「どうしたの? あ、エミルとルーシィは獣人国にしたんだ! じゃあ僕もそうしよ!」


「では私も……」


「ドワーフ国も気になるけど、来年行けないかもしれないなら僕も獣人国にしようかな」


 A組15人中、5人が獣人国。どうなるかはわからないが、行けることを願うしかないだろう。選んでくれた友には感謝しかない。


「書けたやつから教卓に用紙置いて、帰っていいぞ」


 アンケート用紙を提出して今日の授業は終了した。



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