第31話。入学試験-実技-

 




 廊下の反対側の壁に設置されたドアを開けた試験官に付いていくと、200mトラックがゆうに3つは入りそうな程広い校庭のような場所に出た。


「魔法が得意な受験者は右。武芸は左へ行け」


 よかった、分かれてる。当然俺は左へ行った。


「剣士はこちらに並んでください」


 別の男性試験官の誘導に従って並ぶ。 ルーシィは格闘技の試験官の列に並んだ。


「一番前の受験者から、名前を言って切りかかってきてください。当たらないので遠慮はいりません」


 人間の魔法士は少ない。約50人のうち5人しかいないようだ。剣士はかなり多くて30人は居る。


「次」


「エミルです。お願いします」


 試験官は俺が攻撃してくるのを待っているようで、動かない。

 困ったな。動いてきてくれるならどの程度力を入れて良いかわかるのだけど。

 攻撃に移るため、構えをとり集中したのだが。


「やめ。君はもういいです。次」


「うぇ?」


 どこぞの漫才よろしくズッコケそうになった俺。

 次の子が訝しげな顔をしながら出てきたが、俺だって何がなんだかわからない。そのまま戦闘技能試験は終わってしまった。


「次は魔力測定。この水晶に触れるだけだ」


 魔力測定もあるのか。まずい。

 俺の魔力は神魔国を旅立った時点で推定ではあるが、魔法が得意なエルフの200倍はあった。アドルに鍛えられたから更に増えているかもしれない。


「エルフ用はこっちだ。そこのお前、来い」


「……はい」


 台に置かれた水晶に触れる。

 良かった、何も起きな…………。


 ――――パッキーン――


 やらかしてしまった。直径20cm程の水晶が割れる音が高く響きわたり、受験者や試験官の目が一斉にこっちを向く。


「おまっ、手が……」


「あ、切れちゃってますね。すぐ治るので大丈夫です。それより他の子の試験を続けてください」


 水晶が割れた時に飛び散った破片で切れてしまったのか、所々手のひらに血が滲んでいる。別に深いわけでもないので直ぐに治るだろう。


「そういうわけにいくか。手当してやるから保健室行くぞ」


 本当に必要ないんだけどな。けれどここで再度断るのも申し訳ない。

 先程の教室を通り、廊下へ。結構近かったようで、すぐに着いてしまった。


「エルネスタ、居るか」


「リカルドォ? 今あたし眠いんだけどにゃあ」


「仕事だ。手当してやってくれ」


 黒髪ゆるふわロングで、なんというか……かなりグラマラスな体型の美女。子供の目に毒だが白衣を来ているところを見る限り、保健室の先生のようだ。

 俺を連れてきてくれた男性試験官はリカルドという名前らしい。


「わぉ、随分可愛い子じゃない。それならそうと早く言いなさいよ。君、どこを怪我したの?」


「これです」


「うん? 血はついてるみたいだけど、傷なんてどこにもないわよ?」


「はぁ? そんなわけあるかよ……って、ホントに無いな」


 やっぱり。廊下を歩いていた時点で痛みが消えていたので、治ったのは感じていた。


「ちょっと俺、傷の治りが早いんです」


「それのどこがちょっとなんだよ。切ったのはついさっきだぞ? しかもお前ハーフエルフだろうが」


「怪我がないならいいわ。治ったんならさっさと戻った方がいいんじゃない?」


「試験は魔力測定で最後だ。俺は教員会議に参加しなきゃならないが、お前はもうそのまま帰っていいぞ。明日9時頃結果発表があるから遅れずに来いよ」


「了解です。お騒がせしました」


「気をつけて帰るのよ〜」







 保健室を出て一度校庭に戻ってみたのだが、既に受験者は解散したようで誰もいなかった。ルーシィを探しながら校門まで来たら、柵扉の横で待ってくれていた。


「ルーシィ! ごめん、待たせちゃって」


「別に待ってないわよ。それより手大丈夫?」


「大丈夫。保健室に行った時にはもう治ってて驚かれちゃったよ」


「へぇ、傷の治りが早いってホントなのね。エミルが怪我してるとこなんて初めて見たわ」


 言われてみれば、ルーシィの前で血を流したことなんてなかったかもしれない。ダンジョン内は数の多さに苦戦せれども、強さには苦戦しなかったし。


「でも、治癒力が上がってる気がするんだよね。前なら保健室着いてやっと治ってるくらいだと思う」


「それもアドルとの訓練の成果なのかしら?」


「聞いてみたいけど、ここじゃダメそうだね。1回宿屋に帰ろうか」


「そうしましょ」








 宿屋に戻ってきた俺達。アドルに色々聞きたいが、それより気になっていることが俺にはある。


「ルーシィ、筆記試験はどうだった?」


「山が当たりまくったわ! あの問題集凄いわね」


「そうなんだ! 結果はまだわからないけど一安心だ。実技は確か格闘技に行ってたよね。俺はなんか戦う前にもういいって言われちゃった」


「あたしもよ! 何かしちゃったのかしら」


「それはないと思うんだけどちょっと不安になるね」


 ひとつ考えられるとしたら、俺やルーシィの構えを見て、試験官が危険と判断したとかか。

 考えていてもわからないので、無限収納袋から刀を取り出してアドルに話しかけた。出さなくても話せるが、その場合ちょっと集中しないといけないのだ。


「アドルさん、俺凄いことになってたんですが」


(まぁそうだろうね〜。俺もビックリしてたくらいだし。もうあんまり教えることないから、ステータス見てもいいよ)


「そうなんですか!? てっきりまだ続くのかと」


(本当はもっと教えたいところだけど、ここから先は君次第だよ)


「俺次第、ですか。頑張ります。それじゃあ……ステータスオープン」






 ☆名前

 エミル・スカーレット・シルフィ

 ☆職業ジョブ

 セルシウス神魔国第二王子、魔法剣士、魔弓士

 ☆種族

 ヴァンパイアとエルフのハーフ、不死身エルフ

(種族特性)

 他種族の血を飲むことで回復。精霊魔法が使える。長寿。不死身。


 ☆スキル

 剣技SS

 弓技S

 体術S

 身体強化A

 全属性魔法SS

 複合魔法S

 精霊魔法F

 魔力操作SS

 戦闘感D

 強制誘導E

 気配察知A

 礼儀作法A

 健康EX


 ☆恩恵ギフト

 熟練速度上昇

 幸運

 アースガルド神の祝福

 シュメフィール神の祝福


「なにこれ……。想像はしてたけど、そんなのどこかに置いてきたみたいなステータスね」


「これは俺も予想外だよ……」


 全体的にスキルランクが上がっており、新しく色々増えている。職業は魔弓士。スキルは戦闘感、命中。恩恵は幸運。

 この世界のスキルランク最高はSだ。勇者アドルは生前間違いなく俺より強かった筈なので、見てはいないがS以上を複数持っているだろう。


「戦闘感は技能系スキルで補正されないセンスが補正されるのかな。強制誘導ってなんだろ。」


「センス上昇なんて聞いたことないわよ! ホントにどうなってるの。けど、強制誘導は聞いたことあるわ。矢でも投擲でも、放ったものならなんでも補正が付いて、当たるまで追いかけるやつよ」


 なんでも……。例えば飛斬系でもかな。原理は違うが、前世で言う自動追尾や誘導弾のようなものか。


「かなり便利そうだね。どのくらい補正が効くのかな。真後ろ向いて撃ったら流石に当たらないだろうけど」


「それは試してみないとわからないわ」


「幸運は文字通りだよね。魔弓士は魔法剣士の弓バージョン。こんな感じかな」


(確認が終わったなら、軽く体を動かして来なよ。ギルドで討伐依頼を探すといい)


 時刻はまだ昼過ぎ。今から狩りに行っても問題ないだろう。


「そうします。ルーシィも行く?」


「もちろんよ!」


 刀をしまって、俺達はギルドへ向かった。



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