雨垂れの庭

ネギま馬

傘びらき

 ふらりと散歩している途中に雨が降った。仕方なく近くにあったコンビニで安いビニール傘を買う。

 ビニール傘を少し激しめの雨が叩いた。

 ポツポツ、いや、カツカツなのかもしれない。間をとってポツカツにしておこう。なんて面白くもないことを考えながら雨が地面に落ちる飛沫で中がすっかり濡れてしまったサンダルを引きずりながら歩く。

 昼間にしては暗かった。雨の姿は見えないはずなのに、僕たちはこれを雨だと認識している。もしかしたら神様の小便なのかもしれないのに。と面白くないことをまた考えて、そういえば神様なんて存在しないんだ。と思い直す。

 歩道のすぐ側を車が急かすように通った。ヘッドライトが照らす先に雨の輪郭が見えて、やはり雨だったのかと少々がっかりした気分だった。

 神様の存在がないのだから神様の小便もないじゃないかとまた面白くないことを考える。

 カツポツ、ポツカツとビニール傘を雨が叩く。

 雨の音で音がかき消されて、無音の世界。余程大きい音がならない限り、その音は雨にかき消されてしまう。寂しいなと安直ながら思った。雨の音以外に何も聞こえないのだから、暗く厚い黒雲の下では僕は他の誰も声も、姿も認識できずにひとりぼっちだ。もしかするとテルもこう言う気持ちだったのかな。

 結局、最後まで言えなかった。

 寂しい。

「寂しい」

 ふと、声が聞こえた。自分が考えていることが声に出てしまっていたかな、と少々恥ずかしくも思ったが自分の声よりも一オクターブほど高く、しかも酒灼けしてしまった僕のガサツな声とは違い伸びやかな声だったため、自分の声ではないのだと気がつく。それと同時に懐かしく思う寂寥に駆られた。

 声が響いた方向へと顔を向ける。

 テル、照美がいた。

 少し痩せ型で、線が細く、背中まで伸ばした長髪と薄い唇が特徴的な彼女。

 彼女は傘をささず僕の前に突っ立っていた。

 彼女の濡れた髪のひと束が頬に張り付くのが見えると同時に彼女の頬が少し震えて、唇

が少し紫がかっているのが見えた。彼女の乳白色の肌が熱を奪われ、白く染まる。少し上気した息遣い、混濁して濁った瞳が官能的な色香を漂わせていた。滑らかな肌が伸びた右手が僕めがけて伸びていく。そして僕に向けて人差し指を指し、口を開いた。

「どうして、とか聞かないんだ」

「聞く必要もないかなと思って」

「どうして」

「そう聞かれたら困るかな」

「身勝手な人」

 彼女が微かに笑う。笑いながら下ろした右手から雨の雫が伝って落ちていった。

「帰ってこれたの。今日が雨だから、かな」

 彼女が憂いを帯びたような視線を遥か上空に浮かぶ黒雲へと投げかけた。彼女の顔面に雨の粒が落ちた。その粒が頬を伝い、彼女が視線を僕へと戻すのと同時に顎へと伝い、落ちていく。

「家、寄っていってもいい?」

 そういえば部屋に好きな女優の写真を飾っていたなぁ、と思い出し部屋に入れることを躊躇ったが、ここで断ってしまってはもう二度と彼女に会える気がしなくて、首を縦に振る。

 少しだけ、胸の奥が疼くのを感じた。

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