迷探偵・海道白志事件簿【かいどうはくしじけんぼ】

キャラ&シイ

序章【貧しき日々は、安全な日々とは限らない】

(あぁ....今日もまた平穏なる日々が訪れるか....。

だがしかしそれ故に、私の財布の中身はーー。)


白志は切なげな表情を浮かべながら、黒い財布の中を確認する。


しかしーー。


(........やっぱり何回数えても三百五十円しかないな?

さて....どうやって今日一日を凌ごうかな?)


白志は少しばかり困ったなといった表情を浮かべながら、取り敢えず古びたデスクの引き出しを開けてみる。


(シーフード味のカップラーメンが二つに紅茶のティーパックが四個。

それに昨日、閉店間際のパン屋で買ってきたパンの耳が一袋か....。

切り詰めれば三日は持つな?

それと後はーー。)


ーー妄想あるのみーー


そう......妄想こそ、最大の調味料にしてオカズ。


海道白志にとって、それは必然的な行いであった。


例え、食い飽きたものであろうとも例え、ありふれたものであろうとも、そして例え、それが味気の無いものであろうとも、妄想すれば全てがご馳走と化す。


それはまるで、マッチ売りの少女がマッチに火をつけ満ち足りた幻覚を見るかの如きであった。


そして、白志は自らの妄想に身を預けお湯をパンの耳入りの注いだばかりのカップラーメンに視線を移す。


(ふふふ、今日もご馳走だな。)


それは次の瞬間だった。


目前のカップラーメンが、豪勢なフカヒレ入りラーメンへと早変わりする。


(ふふふ、至福なりーー。)


白志は満足げな表情で、先ずは一口目の麺に口をつけた。


ズルズルズルッーー。


(うーん、マッタリとして実に濃厚な味わい....。

これぞフカヒレ!)


白志はラーメンに舌鼓を打ちながら、一気にすすり上げる。


当然と言えば当然だが、貧乏生活が長い白志がフカヒレの味など分かろう筈もない。


しかし、今までに食べた最高に旨いと感じた昆布だしの味噌汁と刻み昆布をベースに、白志はフカヒレを妄想した。


その結果、海道白志流妄想フカヒレラーメンが白志の脳内にて、見事に再現される。


(旨い、絶品だ!)


そんな感じで白志は、妄想フカヒレ入りラーメンを見事に平らげると、満足げに空のラーメンカップを見下ろす。


そして、不意に妄想から覚めた白志に、突如として世知辛い現実が突き付けられた。


(あ....あぁ、後三日は持つとしても、後半につれキツくなるよなコレ?

そして、三日後には飯も無し。

十日後にはガスや水も止まる....どうする俺?)


貧困どころの話ではない。


明らかに生命の危機に直面していた。


そして、白志は不意に気付く。


(そういえば、この数ヶ月あまり飯らしい飯を食べた記憶がないような?)


白志はふと過去を振り反る。


(確か、二ヶ月前に一度だけ食べた豆腐入り猫まんまが、一番の贅沢品だったのではなかろうかーー?

うん....あれは最高だったな....。)


しみじみと、そんな幸福感に浸る白志。


だが、そんな幸福感は長くは続かなかった。


何故なら時間が経てば経つほど、状況は悪化するからである。


五日後にはガスが、そして二週間後には水が止まり、更なる困難が白志を襲うだろう。


つまり、このまま行けば餓死による生命の危機は確実。


(しかし、なんだな....。

そろそろ迷い猫や迷い犬捜索の依頼でも来ないだろうか?

依頼の一つも無い事には、私は本格的に望まぬ断食をすることになってしまうのだが?)


白志は迫り来る生命の危機を、断食という一言で片付けつつ、物思いにふける。


しかし、そんな孤独な時間は突然響き渡ったドアのノックにより終わりを告げた。


そう....それは言うまでもなく待ちに待った依頼者の来訪だったのである。

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