第2話 大賢者がイジメられるって、どういう事?
今日から高校生だ。中学の時は真面目に授業を受けなかった。だけど、高校は真面目に勉強したいな。
中学に上がる時は低レベルな勉強をするよりも本を読んでいたかったのでママに反抗したのを思い出す。
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「ママ、中学も行きたくないよ。行かなくてもいいよね。」
「だめに決まってるでしょ。義務教育よ。」
「もうそれに反論するのも疲れたよ。そもそも英語って何?アメリカ旅行に連れて行ってもくれないのに英語勉強しても無駄だよ。まるで海に潜りもしないのに背中に毎日酸素ボンベ担ぐようなものだよ。」
「アメリカから来た人に道きかれた時に英語知ってれば英語で答えられるわよ。」
「日本に来たんだから日本語喋れよって言って追い返すよ。だから英語勉強しない。」
「体育も必要でしょう。走るのが速いとモテるわよ。だから学校行きなさい。」
「どんなに脚が早くてもフェラーリ乗ってる奴の方が速いし、モテるよぉー。」
「フェラーリ無いんだから、脚を速くするしか無いでしょ!」
「国産車だって脚で走るより速いよ。あー行きたくない。」
「莉々菜ちゃんに嫌われて一緒に行けないからそんな事言うんでしょ。」
「違うよ、莉々菜は関係ないよ。お互い違う道を歩いてるんだよ。ママとの朝の会話を楽しんだから僕は学校へ行くよ。」
「早く行きなさい。」
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そういう会話があったけど、高校はそれなりに有益だろうと自分で進学を決めたのでもうママに反抗することもない。
今日が高校初日だ。
クラスへ入ると他の中学から来た見たことのない生徒が半分以上いる。それぞれの知り合い同士で固まって楽しそうに話している。
俺は学校ではいつも本を読んでいたから仲良く話す友人も少ない。席について黙っていた。
クラスメイトを見回す。
勉強が好きそうなメガネを掛けた集団。
化粧の濃い派手なギャルの集団。
ヤンキーの集団。
普通の生徒。
俺のように一人で黙り込み緊張している生徒。
色々な生徒がいる。
未だ名前も知らない。
何の因果か疎遠になった莉々菜も同じクラスだった。莉々菜は小学生の頃は可愛い顔だったのだが、あの頃から成長し大人びた美人になった。
黒かった髪を茶髪に染め薄い化粧を施しクラスの中でも目立っている。
もう3年は話していない。
俺の席は何故か一番後ろで、周りをはた迷惑に騒いでいるヤンキーが占領している。俺は絡まれないよう気を使い存在を消して席に着いている。
存在を消しているといっても認識阻害の魔法をかけるわけでもないので結局ヤンキーに存在を認識され絡まれてしまう。
「おい、そこのでかいヤツ。お前だよ、お前、こっち向けよ。」
俺は中学の卒業時には180センチはあったので、でかいと言えばでかい方だろう。
俺に声をかけたやつも身長が高い、その上筋骨隆々でゴリラのような印象だ。更に金髪と強面が周りを威圧しているようだ。
「なんですか?」
俺は、気弱を演じ怯えた表情を貼り付け隣の席の俺に声をかけたヤンキーの方を振り向く。
とはいえ、前世の記憶がある俺は怖い怪物や魔王と戦っていた記憶があるので子供の脅しは可愛いとさえ思えてしまう。
「何怯えてるんだぁ?へへへへっ。おい、ジュース買って来い!もちろん、お前の奢りだぞ。」
堂々と恐喝しながら俺の座った椅子を何度も蹴り続ける。
おっ!お決まりのパシリいじめのパターンだ。反論すると更に目を付けられるから反論したくはない。あまり目立ちたくはないな。
強そうなやつに魔法を使い対抗することもできる。しかし、魔法を使って目立ってしまうとびっくり人間としてテレビで話題になってしまう。それだけは避けたい。それでなくても小学校の時に受けた知能テストで250という数字で神童と呼ばれ目立ってしまった。それに、頭はそれほど良くないのを魔法でブーストアップしたズルだからバレると困る。
でも、素直に買いに行くのも癪に障る。
「え?勘弁してくださいよぉー。お金そんなに持ってないし。」
バキッ!!
殴られた。
「はぁー!?だったら財布出してみろ?俺が調べてやる。ほら、早く出せ!」
恐い顔を更に恐くし大きな目で俺を睨みつけながら怒鳴る。そんなに怒鳴らなくても良いと思うのだが、怒鳴ることで相手を畏怖させアドバンテージを取ろうとしているのだろう。
計算というより、昔からの癖で恐喝していると感じる。
「いやですよ。どうして見せなくちゃいけないんですか。っていうか持ってません。」
バキッ!ドスッ!
「おっ、高橋、やれやれ。」
顔を殴られた上に腹まで殴られた。
周りのやつは囃し立てるし。
しかし、このいじめっ子は高橋というのか。郷田じゃないのか?いじめっ子の名前は郷田だと相場は決まっている。
仕方ない、財布を見せて納得してもらうか。
「これ財布です。」
「持ってるならさっさと出せ!!お前嘘ついたな。偽証罪だ!罰は財布の中身の没収だ。」
はい?それどこの法律ですか?しかし、いつの間にか教室の注目の的になっている。みんな俺達を、い、いや、俺を見てる。
うっ、莉々菜が、哀れみの目で見ている!痛い!こっ、心が、心が痛い!
「なんだこれ?1000円札が一枚しか入ってないじゃないか。俺の今日のゲーセン代はどうするんだよ?くそが。ちょっと、ジャンプしてみろ?」
それって、あの有名な『小銭ジャラジャラ確認』というやつですか。
俺は言われるがままジャンプしてみる。
し、しまった!ポケットから小銭の擦れる音がしてしまった。
「ほら、持ってるだろが。お前、証拠隠匿罪だ。刑罰は罰金刑だ。明日から毎日1000円持ってこい。俺のゲーセン代だ。忘れるなよ。」
えーっ、そんな法律いつできたんですか。
「ほら、その金で俺らのコーラ買って来い!早く行け!遅れたら履行遅滞で遅延損害金が毎分1000円発生するぞ。ほら、早く行け。このくそ債務者が!」
よし、断固拒否しよう。
俺は、コーラを買いに教室を出た。やはり波風は立てたくなかった。
「ちょっと待って。」
教室を出たところで女子に呼び止められた。
良く見れば物凄い美人だ。
クールビューティーだな。
ギャルの茶髪と違ってきれいな黒髪をしている。
「何?」
「あなたね黙ってパシリやってると、いつまで立ってもいじめられ続けるわよ。そのうち今以上の金を親から盗んで来させるし、自殺したくなるまで追い込むわよ。あいつら前科があるから分かるの。なのに一切懲りてない。あなたは毅然とした態度を取らないと駄目よ。体格だってあいつらと変わらないくらいデカイし、毅然としていればイジメられなくなるわよ。」
腕を胸の下で組みつつ横長の綺麗な二重の大きな目を細めて説教された。この娘親切だな。よし、愛人候補に入れよう。
「大丈夫だよ。」
俺は笑顔で答えた。
「あなたね、今は未だ余裕でしょうけど、今対処しないと、その内どうする事も出来なくなるわよ。分かってるの?へらへらして。」
「いや、ヘラヘラじゃなく笑顔だったんだけど・・・」
「はぁー、まぁ、その内わかるでしょ。頑張りなさい。」
教室へ戻っていく彼女の長い髪を見えなくなるまで俺は見つめていた。
おっといけない。
早く行かないと、借金が増える。
数分後、コーラを持った俺は教室へ戻ってきた。
「遅い!!10分の遅刻だ。1万円な。明日まで持って来い!!遅れたら法定利息のトイチだからな。」
えー、いつ法律が改正されてトイチが法定利息になったのでしょうか?
っていうか、未だ買いに行ってから5分くらいしか立ってませんが・・
どういう計算で10分の遅刻になったのでしょう。
う~~、言えない。波風立つから言えない。
「それ、冗談だよね?」
俺は申し訳無さそうに訊いてみた。
「はぁー、冗談なわけないだろ。」
「おい、もうやめろ。そもそもお前が悪いんだろ。」
救いの神が舞い降りた。
「そう言わないでよ、一ノ瀬くん。」
おいおい、高橋が下手に出てるよ。一ノ瀬というこいつがリーダーか?
高橋と同じくらいの身長で、同じくらい体格が良い。
見るからに喧嘩強そうと言った印象だ。
「おい、お前名前は?」
「藤城ですけど・・」
「藤城。高橋の言ったことは気にするな。」
お!こいつ、良い奴だな。
「一ノ瀬、お前良いやつだな。何かあったら俺に言えよ。助けるぞ。」
「あ”ーッ!?いじめられっ子に助けて貰う程落ちぶれてねぇーよ!」
うっ、辛辣!一ノ瀬辛辣!
ガラッ・・
教室のドアが開いて先生が入ってきた。
女性の40後半の先生のようだ。
「私が、あなた達の担任の恩田光代といいます。年齢は30代後半です。まだ独身です。宜しくね。」
え?先生プロフィールを偽ってませんか?
先生は細い目を誤魔化そうとしているのか赤い縁のメガネを掛けている。
しっかりバレてますよ先生。年齢もね。
「明日から授業が始まります。それと、クラブ活動も決めてくださいね。クラブ活動は必須です。帰宅部はありません。それでは、今日はお終いです。」
クラブ活動か。やっぱ、剣道部だな。幸い未だ午前中だし今日行ってみるか。
俺は以前通っていた剣道の道場に行ってみることにした。
行ってみてもう一度剣道をやるかどうか決めよう。
自宅の近所の道場へ立ち寄ると数名の人達が練習していた。
「こんにちは、お久しぶりです。」
以前お世話になった道場主で師範の先生がいたので声をかけた。
「お!久しぶりだな。やっと剣道を真面目にやる気になったか?」
「いえ、高校生になったのでクラブ活動で剣道をやるかどうか決める為にここへ来てみました。」
「お前は才能がある。だから剣道を続けたほうが良いと思うぞ。ところで、どこの高校に入ったんだ?」
「東高ですよ。」
「ほんとか?あそこで練習している奴らは東高の三年だぞ。そのうち一人は去年のインターハイのチャンプだ。」
「本当ですか?凄いですね。」
「地稽古やってみるか?」
「う~ん、久しぶりですし、どうせ負けるから遠慮します。」
「まぁそう言うな。やってみろ。どうせ負けると思ってたら気が楽だろ。」
「それじゃぁ、すこし。」
「おい、三島ぁ、ちょっと来い。藤城は着替えてこい。防具と剣道着と袴は予備が更衣室にあるぞ。」
「はい。着替えてきます。」
十数分後、着替えて道場へ戻る。
「何だよ、先生、おりゃ忙しいんだよ。何だぁ、コイツは。」
三年の先輩だという三島さんが待っていた。
「こんにちは、先輩。1年です。藤城といいます。よろしくおねがいします。」
自己紹介した。
「こいつと地稽古してみろ。なかなか才能があるぞ。とはいえ、ブランクが長いから手加減してやれよ。」
「その歳でブランクって、おい。でも、なんで、俺が素人の相手しなくちゃいけないんだ。くそぉっ。」
先輩は文句をタラタラだったが構えてくれて、先生の合図で試合が始まった。
「始めっ。」
開始と同時に強烈な小手に続き面を強烈に叩かれた。
「一本。止めっ。」先生の声で開始位置に戻り構える。
お互い中段に構えている。
「始めッ。」
合図で、先に面を狙って打ち下ろした。その刹那竹刀が払われ小手を打たれた。
「一本。止め。」
強い、と言うより俺のブランク長すぎ?
「はじめ。」
合図で前へ出た。そこを狙われた。突きが俺の喉へ入って後ろへ倒れた。
「一本。止め。相手は素人だぞ、突きは厳禁だ。それに少しは手加減してやれ。」
同じクラスの高橋と違いその言葉には嫌味がなく本当に心配している。
それから30分試合を続けたが一本も取れなかった。
「強かっただろ?こいつもインターハイにでたやつだからな。あそこに居る長身の田所が去年のインターハイのチャンピオンだ。」
「強そうですね。」
「どうだ、また剣道を始める気になったか?」
「はい、剣道部に入ってみようかな。」
「そうか。東高はあの田所がキャプテンだ。挨拶しとけ。でも、8月が最後のインターハイだからな。もう後4ヶ月位だな。」
「田所さんと試合できないでしょうか。今度は本気でやります。」
「本気じゃなかったのかよ。まぁ、良い。おーい、田所ぉ、ちょっと来い。」
「なんですか、先生。」
「こいつが剣道部に入りたいんだと。それでお前と一度試合がしたいと言ってるんだが、やってくれるか?」
「良いですよ。おい、名前は?」
「藤城です。宜しくお願いします。」
「あぁー、よろしくな。本気で来いよ。」
「はい。本気で行きます。」
開始位置で構えた。田所さんは上段で構えている。長身の田所さんが更に大きく見える。竹刀が遥か高いところにあるように感じる。
「始め。」
魔法で身体強化した。一瞬で相手に迫り面を打つ。
「一本!止め。何が起こったんだ。さっきとぜんぜん違うぞ。何だその踏み込みの速さは。」
ズルした気持ちはあるが、本気であることには違いない。本気でズルしている。
「始め。」
今度は様子を見た。上段から強烈な打ち下ろしが恐ろしいスピードで襲ってくる。しかし、所詮は人間レベルであり、高校生レベルに過ぎない。
竹刀を払い小手を打った。
「一本。なんで今のが避けられるんだ?前より強くなってるぞ。」
先生が喫驚している。
「そりゃ、前は小学校の低学年でしたからね。」
俺は面越しに答えた。
「いや、さっきの三島とやった時と比べてだ。三味線弾いてたのか?」
「三味線って。年がバレますよ。」
着替えて戻ってくると、田所先輩が待っていた。
「藤城、お前強いなぁ。剣道部に入るんだろ。絶対入れよ。待ってるぞ。」
「考えておきます。先程のはちょっとずるしたので、先輩には到底敵いません。努力しないといけませんね。」
「何をずるしたんだ?今度絶対教えろよ。分からなかったぞ。ところで藤城はずる休みか?」
「違いますよ。入学式は午前中だけで半ドンだったんですよ。」
「そうだったな。じゃぁ待ってるぞ。」
「はい、気が向いたら伺います。俺虐められて大変なんですよ。」
「何で虐められるんだ、そんなに強いのに。」
「いじめは暴力では解決しないんですよ。民主主義ですし。数には弱いですよね。まぁ、世の中自体が数の力に物を言わせて弱い者いじめしていると言っても過言ではないかもしれませんね。いじめは一生無くならないでしょうね。」
「そ、そうか?」
少したじろいだ田所さんを置いて俺は家への道程を辿り始めた。
腹減った・・・
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