高校で無双する転生賢者はクラスでイジメられる

諸行無常

第1話 元大賢者転生する。

「ファイアーブリット!」


 異世界から来た勇者の魔法が魔王を攻撃する。

 魔王はかなりのダメージを受けている。


「地獄の火炎!」


 俺の魔法が魔王を襲う。

 もう既に俺も勇者も魔力が尽きかけている。

 これが最後の攻撃だろう。


 魔王も生物だ。この魔法で、魔王は燃えて消滅するはずだ。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 俺が大賢者と呼ばれて久しい。

 しかし、寄る年波には勝てない。

 どんどん衰えていく。

 前回は魔王に敗北し、這々の体で逃げ帰った。

 これでは魔王に勝てないと皇帝ラインバッハ2世は異世界よりの勇者召喚に踏み切った。

 召喚士はラインバッハ2世の次女エカテリーナ殿下だ。

 召喚には多大な魔力が必要だがエカテリーナ殿下はその魔力を補って余りある程の魔力量を誇っていた。


 そして、召喚は行われた。


 エカテリーナ殿下は詠唱を紡ぎながら魔法陣に魔力を込めていく。

 次第に魔法陣から風が吹き始める。

 風はエカテリーナ殿下の金髪をはためかせながらその強さを増していく。

 大賢者と呼ばれていた俺の力も必要とせず単独で見事な召喚魔法を行使していく。


 眩い光が辺りを包み込む。


 そして遂にその巨大な魔法陣の上に5人の若者が現れた。

 男性が三人、女性が二人で皆二十歳前のようだ。


 しばしの静寂の後エカテリーナ殿下はゆっくりと話し始める。


「戸惑いはあるかと思いますが心を落ち着けて聞いてください。私はこの国の王女エカテリーナです。」


 エカテリーナ殿下は落ち着かせる魔法『アタラクティック』を無詠唱で行使し、透き通った綺麗な声で話し始めた。


「ここはあなた方がいた世界ではありません。ここはあなた方にとっては異世界。私供の役に立って頂きたくあなた方を召喚しました。」


 5人の若者は魔法によって意識が朦朧としているせいか黙って殿下の話を聞いている。

 夢を見ている感覚だろう。


「私供にあなた方を元の世界に帰す力はありません。ただ、あなた方異世界人はこの世界の上位世界の存在であり、この世界において強大な魔法を行使することが可能です。ですので、いつか、帰還魔法を実現することができるでしょう。」


「本当に異世界なのですか?ドッキリではなくて。」


 若者が初めて口を開いた。


「はい。魔王の侵略が始まり、このままでは我が国が、延いては人類は滅んでしまいます。そこで、あなた方に協力して頂きたく召喚した次第です。人類存続の暁にはあなた方の望みのものを報酬として与えましょう。」


「は、ハーレムも可能でしょうか?」


「この国は一夫多妻制です。財力に応じて何人でも可能です。」


「やる気が出てきました。魔法を使う能力を貰えるのでしょうか。」


「既にあなた方の中には強大な魔力とスキルが与えられています。後は努力次第です。」


「やる気が出てきました。」


 若い男性は、異世界に召喚させられたことに文句も言わず、ハーレムという報酬に釣られたのか、この状況に納得したようだ。


「私は元の世界に帰して欲しいです。」


 一人の女性は、この状況に納得していないのか帰還を要求してくる。


「先程も申し上げた通り、帰還は今の時点では不可能です。ご自分で見つけていただくしかありません。」


 女性は泣き出してしまった。

 もう一人の女性は若い男性に寄り添い恋人関係のようで、現在の状況を儚むこともせず逆に喜んでいるようだ。

 好きな男との旅行のような気分なのだろうか。




 こうして俺は、彼らの先生として彼らを鍛えた。

 彼らの能力は凄まじく直ぐに俺が使えない魔法でさえ使えるようになった。


 そうこうするうちに、魔王軍の攻撃が激しくなり、これ以上勇者達の上達を待つことが出来なくなり俺は勇者と共に魔王軍を迎え撃った。


 勇者はここでも凄まじい能力を発揮。

 魔王軍は壊滅。

 魔王の側近も撃破。

 残るは魔王だけになった。

 もう俺の魔力も残り少ない。

 勇者たちも魔力も体力もあまり残っていないようだ。

 しかし、魔王は未だ余裕を見せる。

 ここで魔王を倒しておかないともうこの国は終わりだ。


 一縷の望みを異世界の若い勇者達に託し俺は俺の最大魔法『地獄の火炎』を魔王に放つ。



 轟音とともに土煙が上がり、あたりを覆い尽くす。


 音は消え、辺りには土煙だけが残り静けさを取り戻した。


「やったかぁ?」


 勇者が叫ぶ。


「それ言っちゃ駄目なやつ!」


 女性の勇者が叫ぶ。


 魔王から何の反応もない。どうやら勝ったようだ。


 さぁ、家へ帰ろう。


 歓喜に噎せ、家に帰れる喜びを噛み締めながら帰途に就こうとした時には土煙が消え始めていた。

 魔法をぶつけた場所は丸く地面が抉られたように溶けていた。




 ただ魔王を除いて。




 生きていた。




 そう思った瞬間、魔王から光が放たれた。




 刹那、俺の身体は光りに包まれその熱によって燃え消滅し始めた。




「残念だったな。俺にはどんな魔法も効かない。俺のバリアーは次元を分かつ。全ての攻撃が俺には届かない。潔く死ね。そして、愚かでひ弱なお前ら自身を呪え。」




 クソ、俺はここで死ぬのか。


 勇者は大丈夫なのか?


 まだ少しだが魔力は残っている、もう、この魔法を使うしかない。


 この状態で使うべき唯一の魔法、転生魔法だ。


 悔しいがこのまま死んでしまう。その前に使う。


 そして、転生して今度こそ魔王を倒す。


 願わくば、この鍛え上げた能力が受け継がれんことを・・・




 そして、俺は死んだ。




 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~






「あら、大変。」女性は事も無げに言い放った。


 頭が痛い。頭を強打した。

 そうだ、思い出した。俺は魔王を倒すために転生魔法を使った。俺は既に2歳になっていた。今まで、すっかり忘れていた。

 思い出したのは、若い母親が俺を誤って床に落としてしまったからだ。

 そんなに慌てなくていいぞと言いたいが、言葉が少ししか分からない。

 それにあまり慌てた様子もない。しかし、何語だろうな。

 記憶を取り戻したから魔法の使い方も思い出した。だから、魔法を使ってみたが未だ子供だから能力が衰えているようであまり使えない。

 これから鍛え上げて身体が大きくなる頃には前世と同じ力を取り戻すだろう。

 これで、魔王とまた戦える。

 しかし、未だ二歳だ。

 身体はあまり動かないが、身体も魔法も鍛えよう。

 しかし、以前と言語が違うのは国が違うためだろうな。

 まずは言語を覚えることだ、そして、新たな魔法を教えてもらおう。

 しかし、子供の体はすぐ眠くなる。


 俺は眠ってしまった。



 気がつくと別の部屋に連れて来られていた。

 窓から景色が見える。

 細い塔が沢山立っている。

 何の塔だろうか。

 そんな事を考えていると、窓の景色が変わった。


 すごい!

 これは転移魔法か?

 この建物自体を転移させているのか?


 景色は砂漠へと変わり、その次には森の中へと転移したようだ、森の動物が直ぐそこに見える。


 次の瞬間、窓の外に、それは大きな顔の人間がこちらを覗いていた。


 何だと!巨人がいるのか?


 驚いたことに、巨人は次の瞬間普通の大きさへと変化した。


 これは、凄い!


 世界は俺が死んでいる間に、家自体を転移させる魔法や、人間の大きさを変える魔法を生み出したようだ。もしかすると勇者が編み出した魔法だろうか。

 早くその魔法を覚えて、自分の体を大きくしたり、小さくしたり、砂漠や森へと一瞬で移動してみたいものだ。


 感心してみていると窓の外で、料理人が料理を作り始めた。

 窓を開けて欲しいな。

 香りが窓のせいでここまで届かない。

 そう思っていたら料理人は別の場所へ移動した。

 早く料理が出てこないのだろうか。


 料理を待っていると、俺は家ごと空を飛んでいた。


 巨大な鳥と一緒に空を飛んでいる。

 なんと、世界は浮遊魔法を獲得したのか!

 家自体を浮かせることができるようになったようだ。


 到頭、俺の夢だった城を空に浮かべ、雲の上に住むことが出来るようになったのか。

 感慨深い。

 俺が城を造り、空の上に浮かべた暁には城に名前をつけたいものだ。

 前世で魔法をかなり極めた俺でも、浮遊魔法はできなかった。

 この世界には俺ができなかった魔法にあふれている。

 早く成長して魔法を覚えたい。

 俺は期待に胸を膨らませまた眠りについた。




 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 俺は5歳になった。


 俺は大きく落胆していた。


 この世には転移魔法も浮遊魔法もなかった。

 まして、巨大になれる魔法も小さくなれる魔法もなかった。

 と言うより、魔法自体がなかった。

 窓はテレビというものであり、いろんな映像を見ることができるだけだった。

 更に、何ということだろう、この世に魔王はいなかったのだ。

 いたことさえないらしい。


 いや、過去には第六天魔王というのがいたそうだが既に昔の話だ。


 その第六天魔王と戦ってみたかったな。

 しかし、魔王がいないのだとすれば、俺は何と戦えばよいのだろう。

 何を目標に生きていけばよいのだろう。


 落胆した。


 もう一度、転生魔法を使って転生しようと思ったが、未だその能力がない。


 仕方がない。

 その能力が芽生えるまで、魔力を鍛えつつ、この異世界でのんびり生きていこう。

 俺は5歳にしてこの人生を諦めた。




「ゆーとくん、いるぅ?」


 俺を呼んでいるのは隣の家に住む同じ年の女の子だ。流石に女好きの俺でも小さい子は娘としか思えない。

 しかし、いつも、俺に構ってくるのでつい遊んでしまう。

 やはり、身も心も子供になってしまったということだろう。

 そのうちこの前世の記憶も消えていくのかもしれない。

 そうなれば、魔法さえ使えなくなるのだろうか。

 魔法だけは忘れないようにしよう。


「いるよぉー、莉々菜ぁ、こっち来いよ。ジュースあるぞぉ。」


 窓から莉々菜をキッチンに呼んだ。

 莉々菜はいつものように玄関ではなくキッチン横の裏口から入ってキッチンのテーブルに着く。


「今日はママいないの?」

「うん、仕事。俺しっかりしてるだろ?だから幼稚園にも行ってないし。一人で留守番だよ。かっこ悪いよな。」

「ううん。かっこいいよ。ひとりで留守番できるなんて。約束通り大きくなったら結婚してね。」


 そう、以前約束してしまった。まぁ、子供の戯言だから問題ないだろ。あの頃は、魔王を倒したら結婚してもいいなと思っていた。


 だけど、魔王がいないことに気づいて、この世界が俺のいるべき世界ではないと思い、俺は落胆し、ただ、転生魔法ができるまでの腰掛けとしてこの世界にいるだけの人間になってしまった。

 だから、転生できるまでには、本でこの世界の有益な知識を一つ残らず覚えると決めた。

 まぁ、転生魔法でなくとも転移魔法のほうが確実だろう。

 異世界への転移は不可能とは思わない。更に難しいだろうが、今回のような失敗はないはずだ。

 そして、すべての有益な知識を覚える頃には転移魔法もできるるようになるだろう。だから、結婚はしたいけどできないんだよ。


 そして、次の、そのまた次の年がやってきた。

 小学校に入学し通わなければならない。

 ただ、魔法で頭脳を強化し、文字を覚え、高い記憶力で本を覚えまくって知識がある俺には、小学校に通うことはすごく無駄なことのように思えた。

 どうして今更下等な教育を受ける為に小学校へ行く必要があるのか、行きたくないと駄々をこねた。


「悠斗ぉ?どうして小学校行きたくないの?」


 そう俺の名前は藤代悠斗だ。そこ大事。テストには出ないけど・・


 ママは優しい笑顔を湛えたまま問い詰めてくる。


「だって、行っても無駄だよ。もう覚えたし。」

「でも行くのが義務なのよ。」

「ママぁ、それ間違ってるよ。義務教育は、憲法の定めた三大義務の一つである義務から決められたのだろうけど、それは未成年者に教育を受けさせる義務であって、俺が小学校へ行くのが義務というわけではないんだよ。」

「でも、私はあなたに教育を受けさせる義務があるのよ。」

「そうだね。でも、それはママの問題だね。」

「そう、行かないのね。」


 そう言うとママは電話を掛け、誰かと話し始めた。


「あ、莉々奈ちゃん?悠斗、学校行かないんだって。ごめんね一人で行って。」

「な、何言っちゃってんだよ、ママ。誰も行かないとは言ってないじゃないか。行くよ。行く。」

「莉々奈ちゃん、行くって。今から迎えに行かせるから。待っててね。」

「ママ、卑怯だよ。」


 俺は、卑怯なママに自論を論破された敗者の気分で莉々菜を迎えに隣の家に向かった。


「莉々菜ぁ、迎えに来たぞぉ。」

「今日もご苦労様。大変ね。毎日奥様を迎えに来るのは。」

「誰が奥様だよ!」


 俺は怒ったふりをして照れを隠していた。これはこれで悪くはないなと思わざるを得ない。


 学校へ着くと莉々菜と同じクラスに入り席に着くと直ぐに先生が来た。いつものようにお決まりの挨拶を済ませる。挨拶はどこの世界でも大事なようだ。


「みんな、今日はテストをするわよ。テストと言っても教えたことではなく、知能テストと言って、 知能の水準や知能的発達の程度を測定するためのテストなの。意味がわからなかったら、おうちに帰ってからおうちの人に聞いてね。問題は各自のタブレットに表示するから答えてね。はい、それでは始めて下さい。止めと言ったら終わりよ。」


 先生は未だ二十三歳の大学出たての若い女性だった。


 あれから俺は、この世には科学という元いた世界では辿り着けなかった物事の真理を探求している学問があることに気が付き、それが魔法をより極める為の手段になるであろうことを悟り、本を読み漁って新しい魔法を考えてはトライアルアンドエラーを繰り返し続けた。


 それに、スポーツもした。

 前世では剣も使えた。だから、剣をやってみたいと剣道を習った。だけど、剣と剣道はかなり違う。だから基本だけ習って止めてしまった。


 そして気がつけば莉々菜とは疎遠になり、学校ではいつも一人で本を読んで俺の小学生生活も中学生活も終わった。


 俺は莉々菜に未練があったのか中学ではずっとトップの成績だったにもかかわらず莉々菜と同じ高校へと進学した。 


 明日からは高校生だ。





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