第39話 俺と妹の恋愛について2

「で、そっからどうやって仲直りしたの?」

「え?」

「お兄さんと仲直りしたんじゃないの?」

「えー、あー、うーん……」

 俺の質問に、稲葉さんは宙を見上げて首を傾げる。


「あれから怒りながらモズク食べて……翌朝には普通に元どおりだったかなぁ」

「え? そんなにあっさり?」

「だって、別にお兄ちゃんも悪気が……あったかもしれないけど、翌日に持ち越すほどの事じゃないしね。阿佐ヶ谷君達も喧嘩した時はそんな感じじゃないの?」


 俺と霧子はそもそも滅多に喧嘩をしないのだが、それでも何度かは些細な喧嘩をした事がある。確かにその時は稲葉さんの言うように、どちらともなく謝るか、翌日には自然と仲直りをして普通に接していた。例外は二年前の事と、今回の喧嘩くらいであろうか。


「毎日顔合わせる家族なのに、ずっと喧嘩してたら気まずいでしょ? 特に阿佐ヶ谷君の家は二人暮らしなんだから、早く仲直りしちゃいなよ。何で喧嘩したのかは知らないけど、阿佐ヶ谷君から謝っちゃえば? お兄ちゃんなんだしさ」


 俺だってそうした方がいいのはわかっている。でも、今回の件は俺にも譲れない部分があるのだ。二年前と同じように。

 そういえば、二年前はどうやって仲直りしたんだっけ……


「まぁ、わかってはいるんだけどね……」


 せっかく霧子に邪魔されずに稲葉さんと登校できるというのに、俺はそれからの道中霧子の事ばかり考えてしまい、終始上の空であった。


 その日の俺は学校でもずっと霧子の事を考えていた気がする。

 昨日の喧嘩の事を知っている金田は、気落ちしている俺に気を使っていつも以上に明るく話しかけてきてくれたりしたが、それでも俺の気分が晴れる事はなかった。


 やがて放課後になり図書委員の仕事を終えた俺は、まっすぐ家には帰らずに商店街の方へと向かった。特に用事があるわけではなかったが、単純に家に帰り辛かったのだ。それはもちろん霧子と顔を合わせ辛いからというのが理由である。


 今朝の状況を見るからに、きっと霧子も今は俺の顔を見たくないだろう。今頃桜庭の家にでも遊びに行っているか、もしかしたら泊まってくるかもしれない。いや、それはそれで俺に連絡しなければならないし、あまりにあからさまで余計に気まずいと思うかもしれない。いや、逆に俺と仲直りをしようと今頃家でごちそうでも作っているだろうか……いや、しかし……


 そんな事をぐるぐると考えているうちに、俺はいつの間にか人で賑わう商店街のメインストリートまでやってきていた。

 行く当てのない俺が辺りを見渡すと、ゲームセンターの看板が目に入ったので、駐輪場に自転車を止めて店内に入る。別にゲームがやりたい気分ではなかったが、今はとにかく何かをして気を紛らわせたかったのだ。


 店内を見て回った俺は、何気なく中学時代にやり込んだ格闘ゲームの筐体に座った。そのゲームは、以前滝波さんも好きだと言っていたゲームで、放課後に補導員の目を避けながら一緒にプレイした事もある思い出のゲームだ。


 懐かしさを感じながらゲームを始めたはいいが、やはり悩みを抱えていては何事もうまくいかないのか、以前ならばワンコインでラスボスまで行けたのに、今日は大して強くもない敵にやられてしまった。


『家に帰るがいい。お前にも家族がいるだろう』


 画面の中で敵キャラがこちらの事を見透かしたようなセリフを吐く。

 すんなり帰れるならとっくに帰ってるわい。と、俺は心の中でツッコミを入れて、コンテニューをしようと財布を開く。

 すると、財布の中に一枚の御守りを見つけて俺は手を止めた。


 それは以前、霧子が俺にくれた必勝祈願の御守りである。

 御守りを見た俺は、二年前にどうやって霧子と仲直りしたのかを思い出した。

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