第35話 俺と金田と時々妹2

「えぇい! とにかく、お前もちょっとは兄離れして、彼氏の一人くらい作ってみせろ!」

「じゃあ、私と金田さんが付き合ってもいいの?」

「え? 俺?」

 突然名前を出された金田が産まれたてのゴリラのような間抜けな表情を浮かべる。


「死んでも許さん!!」

 誰と付き合おうが霧子の自由ではあるが、金田だけは許さん。


「前にお兄ちゃん言ってたじゃん。『ゲームと漫画の趣味が俺と合うやつと結婚しろ』って」

「言ったけども! 金田はダメだ!」

「どうして? まさかお兄ちゃん、金田さんの事が……」

「ふざけんな! 何で俺が金田を————」


 俺が金田を見ると、金田は僅かに頬を赤らめて『へへっ』と笑っていた。気色悪い。


 いや、待てよ。

 確かに金田とはゲームや漫画の趣味が合うし、一緒にいても疲れない気の知れた仲だ。前に何かの本で『オナラをしても笑い合える相手と付き合え』と書いてあったが、俺と金田はまさにその仲だ。もし金田が女だったら……


 ずっと、ただの友達だと思っていた。

 君への気持ちに気付いた時、俺の日常が恋のメリーゴーランドへと早変わり。

 グルグルグルグル想いは廻る。

 白馬に跨る君の顔、もう真っ直ぐには見られない。

 君は俺へと手を伸ばす。

 俺はその手をしっかりと————


「って、んなわけあるかい!」

 自分の脳内ポエムに思わず関西弁のツッコミが出てしまった。

 ふと霧子を見ると、霧子は無表情で金田を睨みつけていた。そして金田の頭上に異次元空間が口を開ける。


 ズズズズズズ……


「いやいや! アホか! あるわけないだろうか!」

「お兄ちゃんがBLの人だったなんて……」

「違う!」

「じゃあ、なんで私が金田さんと付き合ったらダメなの?」

「なんでって……」


 なんでと言われても嫌なものは嫌なのである。

 別に『なんだかんだ言っても、俺は霧子を愛しているからだ』とかそういうのではないのだが、ちょっと普通に考えてみて欲しい。まず、俺達は今こうやって三人で仲良くやっているが、霧子と金田が付き合い始めたら俺はお邪魔虫になってしまう。この二人の事だから付き合い始めても俺と仲良くしてくれるだろうが、俺はめちゃくちゃ気を使う事になるし、三人の関係に巨大な違和感が残る事となる。それは絶対に嫌だ。


 いや、待てよ……霧子に彼氏ができれば俺はフリーとなり、自由に恋愛ができるようになるぞ。そして彼女ができれば金田達とダブルデートなんかもありかもしれない。妹カップルとダブルデートというのも妙ではあるが、金田と遊ぶのは普通に楽しいし、俺の彼女次第では結構楽しそうではないか。

 そうだな……稲葉さんならどうだろう。

 稲葉さんは明るくて誰とも仲良くできそうだし、絶対楽しい。

 では桜庭ならどうか。

 桜庭は最初は見た目が怖い金田に警戒するだろうが、霧子との相性は抜群だ。これもありだな。

 さらに、指宿先輩ならどうか。

 なるほど、見えたぞ。指宿先輩が金田にちょっかいを出し、デレデレした金田は霧子に網走へと飛ばされる。まぁ、それはそれで仕方ない。

 うーむ、色々シミュレーションはしてみたが、そもそも俺に彼女ができるという保証もないし、そもそも金田と霧子がイチャイチャし始めたら気色悪くて吐くだろうし……


 俺がぶつぶつ言っていると、金田がこんな事を言い出した。


「あのさ、それ例え話として話してるけど、霧子ちゃんは俺みたいな男どうなの?」

「え? うーん、そうですねぇ、逞しくて優しくて面白くてとってもいい人だと思いますけどぉ、私にはちょっと勿体なさ過ぎて」

「またまたぁ! 霧子ちゃんたら嬉しい事言ってくれるねぇ! どれ、おじさんがお小遣いをあげちゃおう」

「いえいえ、それより、金田さんには稲葉さんみたいな素敵な女性が似合うと思います」

「あー、稲葉さんいいよな、スタイルもいいし。今度声かけちゃおうかなぁ」

 場末のキャバクラかよ。そして霧子よ、稲葉さんに童貞ゴリラを差し向けるな。


「ところで、阿佐ヶ谷はどんな女の子が好みなんだよ?」

 金田は俺が以前から『霧子の前ではそういう事を聞くな』と言っていた面倒くさい質問を振ってきやがった。

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