[三次創作]楽園の一日

えぬけー

楽園の一日

 ジャパリパークより続く人工島、パーク・ワーカーズ。


 フレンズとパークの為に働き、生活する者達が集うその島に、とある一人の青年が居た。


 その青年はかつてパークを危機から救い、「英雄」と呼ばれるようになった。


 今もパークを護り、また研究者としても働く彼の名は「シキ」。


 この話は、語られることの無かった彼の日常、その一日を見ていく、そんな話だ。



 ……………




 ………



「…はぁ〜。」


 つ、疲れた…。


『何疲れたような…いや、確かにこれは疲れますね…。』


 タイプツーも思わず同情するレベルか…。

 ははっ、やり切った…。


『えーと、昨日の夜にLBシステムの不具合修正、そのまま早朝まで修正が続いて、朝になったら大型セルリアン2体の出現報告、対処したら追加で出現、それも対処した後に研究所からセルリウムの変化アルゴリズムの報告、そのまま実験…。いやほんとにキツいじゃないですか。』


「繰り返さなくて良かったんだぞ、タイプツー…。」


 実際オーバーワークだ。

 家から出る時にはジェーンさんも起こしちゃうし、修正も地味だったし、ジェーンさんは残念そうにしてたし…。


「ジェーンさん…。」


『…はぁ、もうさっさと帰りますよ。セット、グレープ!』


 近くのラッキービーストがマフラーを形作る。

 …ん?


「えっ!?何して-」

『アンタジェーンさんジェーンさんうるさいんですよ!ずっと聞かされるこっちの身にもなってください!』


 タイプツーがそう言うと、俺の体は宙に浮き始める。


「ちょっ、勝手に飛ばないでぇぇぇぇ……」



 ………




 ……………




 ………



「はぁ…。ありがとう、タイプツー…。」


 タイプツー操縦のマフラージェットにより、俺は今自宅前に居た。

 タイプツーは腕時計になって、時間等の情報を表示している。


『ほら、もう3時ですよ。さっさとただいまって言いなさいよ。』


「ああ…。」


 ドアに鍵をさし、解錠する。

 ドアを開けて、いつも通り


「ただいま戻りま、し…た?」


 ただいま戻りました。そう言おうと思った。

 しかし、目の前に立っている彼女の姿に目を奪われ、思うように言えなかった。


「お帰りなさいませ、ご主人様!」


 彼女の服装。

 彼女…ジェーンさんは、メイド服を着ていた。


「えっと…ジェーンさん、どうしたんですか?」


「えへへ…。ご主人様が喜んでくれるかなって思って…。」


 少し顔を赤らめて彼女は言う。


 …かわいい。


「…ありがとうございます。」


「ふふっ、ご飯食べてないんでしょう?準備できてますよ。」


 ジェーンさんの料理…。

 正直食べられないと思っていたからとても嬉しい。


「そんな…ありがとうございます、ジェーンさん。嬉しいです。」


「ご主人様のお食事を用意するのは当然ですよ。さ、早く上がってください?」


 にっこり、眩しい笑顔で彼女は言う。

 かわいい。


「はい。」


「着替えて待ってて下さいね?」


「わかりました。」



 …



 言われた通り白衣から部屋着へと着替え、食卓について彼女を待つ。

 …それにしても、よく似合う。

 一体どうして急にこんな事を…?


「お待たせいたしました。」


 そんな事を考えていると、彼女が出てきた。

 その両手にはお盆が握られていて、そのお盆の上にはオムライスの乗った皿がある。

 …メイド喫茶かな?


「おぉ…。美味しそうですね。」


「ふふっ、ちょっと待って下さいね。」


 そう言うと彼女は、ケチャップを絞り何かを書き始めた。


「…はい、どうぞ!」


 彼女が書いていた物。

 それは、ハートとその中に書かれた『LOVE シキ』という文字だった。


「ジェーンさん…。」


「どうぞ、お召し上がりください。」


 そう言った彼女の顔は少し赤くなっていた。

 …俺も人のことは言えないかもしれないが。


「いただきます。」


 一口頬張る。


「ん…」


「ど、どうですか…?」


「…とても美味しいです。」


 最高、これしかないだろう。

 見た目も、味も、何もかも最高だ。

 …作った人がジェーンさんだから、というのもあるだろうが、それを抜きにしてもとてもいい出来だ。


「よかったぁ…。」


「ジェーンさん、料理上手になりましたね。」


「ありがとうございます。ご主人様のおかげですよ。」


 傍に立ったまま彼女は言う。

 この成長は彼女の努力の成果だと思う。



「遠慮しなくても、あなたが努力して成長したんですよ?毎日頑張って作ってるから、こうやって上手になるんですよ。」


「ご主人様…。」


 彼女は頬を一層赤くしながら俺を呼ぶ。

 …かわいい。


「…じゃあ、冷めないうちに食べちゃいますね。」


「ハイ…。」



 …



 食後。


「じゃあ、お風呂洗ってきますね。」


「ご主人様、お風呂入るなら私が洗います!」


 …風呂に入ろうと思って、風呂掃除しようと思ったら止められた。

 何だか少し申し訳ない感じだが…。


「いいんですか?」


「もう…。私はあなたのメイドさんですよ?ご主人様は家事なんてしちゃダメですっ。」


「…わかりました。じゃあ、お願いしますね?」


「はいっ、わかりました!」


 満面の笑みで言ってくれる。

 …ジェーンさんが楽しいなら、別にいいか。


 彼女は風呂場へ行った。

 待っている間、何をしようか?

 …ノートパソコンから研究データでも整理しておくか。



 …



「…。」

 カチッ カチカチッ カチッ タタタタタタタタタッ カチッ


「ご主人様、コーヒーをお持ちしました。」


「ふぇ?ああ、ありがとうございます。」


 データ整理をしていたら、ジェーンさんがコーヒーを淹れてくれた。

 …美味しい。


「…美味しいです。」


「ふふっ、それは良かったです。あまり無理しないでくださいね?」


「わかってます。」


「…いつもわかってないじゃないですか…。今お風呂沸かしてるので、もう少しお待ちくださいね。」


「はい、わかりました。」


 いつもわかってない、か。

 確かに、無理するなって言われても無理しないといけない状況が多くて無理しかしてない感じはあるな…。

 まぁ、それももう慣れてしまったが。


「…。」


 カチカチッ タタタタタタタタタタタタタタッ タタタッ タンッ カチッ カチッ カチカチッ…



 …



「…。」

 …カチッ カチカチッ タタタタタタッ タンッ カチカチッ カチッ


「ご主人様、お風呂が湧きました。」


 データ整理も進んできたところで、ジェーンさんから声が掛かった。


「ふぇ?ああ、わかりました。ありがとうございます。」


 今の時間を見てみると、17:34だった。

 もうこんな時間か…。


「じゃあ、お風呂入りますね。」


「はい、ごゆっくりどうぞ。」


 バスタオルや着替えを用意して、風呂場へ向かう。

 …ジェーンさんがやけにニコニコしているのは何故だろうか?

 メイドさんだから、とかか?



 …



「はぁ…。」


 風呂に入り、体を流して少しぼーっとする。

 昨日の夜から仕事続きで、今日は大分疲れている。


 …ジェーンさん、今日は楽しそうだ。

 彼女が楽しいなら、たまにはこうやって色々任せてみるのもいいかもしれない。

 健気なところがかわいいなぁ…


 ガチャッ


「し、失礼します…。」


「…えッ!?」


 ドアの開く音と聞き慣れた声。

 そちらを見てみると、そこには俺と同じく一糸まとわぬ姿のジェーンさんが…!


 いや、なんで!?


「じぇ、ジェーンさん?」


「お、お背中流しに来ました…。」


 すごく赤い。

 多分、俺も同じくらい赤いと思う。


「あ、ありがとうございます…?」


「…えっと、はい、失礼します…。」


 そう言うとジェーンさんは俺の体を洗い始めた。


 お互いに照れてしまっている。

 いつも通り話せない…って、当たり前だって。

 …急にどうしたんだ?


「えっと、ジェーンさん…今日、何かありました?」


「…シキく…ご主人様が忙しそうで、なにか出来ないかって思って…。奥都さんが居たから、相談したらこういうのもいいんじゃないかって…。」


 …タコ君の仕業か。


「それで…やってたら思ってたより…楽しくって…。」


「何だか私だけ楽しんでるみたいで…シキ君楽しいのかなって…楽しめてないんじゃないかって…。」


「ジェーンさん…。」


 彼女は泣いていた。

 自分だけしか楽しめていないんじゃないかと不安だったのだろう。


「それで…私…怖くって…。」


「ジェーンさん。」


「私…シキ君を…利用して…楽しんでるみた」

「ジェーンさん!」


 少し声を荒らげてしまう。

 しかし、こうでもしないと彼女は止まらないだろう。


「はい!?」


「…楽しいですよ。こうやって、色々してくれるのはこっちも楽ですし、あなたが笑顔で居てくれるのが一番楽しいんですよ。」


「ぁ…」


「だから…泣かないでください?あなたには、笑顔が似合います。」


 思っていることを伝える。

 彼女はこちらの心の中を知らない。

 だから不安になる。

 知らないなら、教えればいい。


「シキ君っ…大好きです!」


 そう言って彼女は抱き着いてくる。


「ええ、俺も大好きですよ。」


「私の方がもっと好きです!」


「俺も、あなたには負けないくらい好きですよ。」


「わたしですー!」


「俺もです!」


 わたし…

 俺…




 …



 結局あの後、どちらが好きか言い合いながらお互いの体を流して、一緒にお風呂に入った。


 …正直、言い合いが終わったあとの笑顔を見て理性を保っていられた自分を褒めたい。


「じゃあ、少し仮眠をとりますね。」


「はい、わかりました。おやすみなさい、ご主人様。」


 ジェーンさんはまたメイド服に着替えていた。

 やはり似合う。


「はい、おやすみなさい。」


 それだけ言って、寝室へ向かう。

 …これだけの家ではあるが、ちゃんとダブルベッドのある寝室。

 そこに一人で入り、一人では広すぎるベッドに寝転がり、ぼーっとする。


 …隣にジェーンさんが居ないのが少し寂しいなぁ…。

 彼女が隣にいてくれるだけでいい。

 ちょっと寝るにもこんな事を要求してしまう俺は大分疲れているようだ。


 コンコン ガチャッ


「し、失礼します。」


 ノックの音と、ドアの開く音。


「ジェーンさん。どうしたんですか?」


 入ってきたのはもちろん彼女だ。


「あの…一緒に寝たいなって思って…。」


 …なんといいタイミングだ。

 丁度思っていた事が現実になったようだ。


「丁度一人で寂しかったんですよ。一緒に寝ましょう。」


「はい、ありがとうございます!」


 彼女は笑顔でこちらに来た

 そして、その服のまま隣に寝転がった。


「…。」


 彼女を少し抱き寄せる。

 すると、彼女も抱き返してくる。


 この感じが心地よい。

 好きだ。


「…ジェーンさん、ありがとうございます。」


「こちらこそ、ありがとうございます。」


 しかし、こうやって抱き合っていると、お風呂での事が思い出される。

 …いや、ダメだ。

 ここでしてしまってはジェーンさんにも迷惑だろう。


「…シキ君。」


「…なんですか?」


「あの…私…すごく…こう…」


「…?」


「あの…」


 彼女の頬がどんどん赤くなる。

 …どうしたのだろうか?


「シキくんが…ほしいです…。」


 …なるほど。


 どうやら、同じ想いだったようだ。


「…俺も、ジェーンさんが欲しいです。」


 彼女は笑顔になる。


「…どうぞ、私を…お召し上がりください?」


 俺と彼女はお互いの衣服を1枚ずつ剥がしていく。

 お互いの唇を合わせたりもする。

 彼女が伝わる。


 そうして、お互いが一糸まとわぬ姿になるまで、時間は掛からなかった。


「じゃあ、いただきます…。」


 荒い息遣いの中、それだけ伝える。


「はい、どうぞ…。」


 彼女からも同意が返ってくる。


 それを確認すると、俺は理性を手放した。



 もちろんその夜は、大好きを伝え合う夜になった。






 だが次の日、夜にする予定だったデータ整理が終わらず、それに追われることになったのは別のお話…。

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