1章 愛の洞窟

 草木が青々と茂る初夏の河原を、一匹の白鷺が飛んでいた。小さな花を抱えるヒメジョオンがさわさわと風に戦ぐたびに、白鷺は姿勢を崩してしまう。

 よく見ると、大きな白い翼には羽が抜け落ちている部分があった。空の高いところに鎮座する太陽は、その完璧でない白鷺を嘲笑うかのように、今日も熱い日差しを送っている。

 上手く風に乗れず、苦しそうに天を仰ぐ白鷺。その様子は、幼いころの自分の姿と重なった。

 苦しいだろう。でも、何れは慣れるから。慣れてしまえば、どんなことも怖くは無くなるから。ほら、あともう少しだ。あともう少し飛べば、もう安心だから。

 しかし、期待とは裏腹に、白鷺は徐々に降下する。

 そしてついに、ヒメジョオンの中へ姿を消した。


 ……やっぱり、諦めてしまうよね。


 心の中で、そう呟いた。

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