リオナ


 一心不乱に走っていくティアナを、私はただ見つめることしかできなかった。

 〝追いかけたい〟という気持ちと、〝自分が口走ったことを考えると、今は追いかけない方がいいのではないか〟という気持ちがせめぎあっているからだ。

 そんなことを思いながら立ち尽くしていると、変態が駆け寄ってきた。


「ちょっと、なにしてるの! 早く追いかけなさいよ!」

「無理だよ……あんなこと口走った私に、ティアナを追いかける資格なんて……!?」



 ――パチンッ!!



 変態に思いっきり頬をビンタされた。


「い、いきなりなにして……!?」

「なんのためにあなたにティアナを預けたと思ってるの!?」

「!?」

「ティアナの安全のためでしょう!? 私が留守の間、ティアナの面倒を見る。それがあなたの役目でしょうが! ティアナに何かあったら、どう責任取ってくれるの!?」

「!? そ、それは……でも、ティアナに嫌われちゃった私にはその資格すら……」

「あのね! 資格とかそんなのどうでもいいの、それにあなたの気持ちもどうでもいい。ティアナの安全だけが第一なの。勇者の末裔たるあなたの力を見込んで、信頼してあなたに任せたの。なのに、私よりもティアナと一緒にいられるなんてそんな羨ましいことを我慢して仕事に来ている私を差し置いて、よく『追いかける資格は……』なんて贅沢なこと言えたわね? 私だって四六時中ティアナの傍にいて愛でて愛でて撫で回したいのに……! だから、つべこべ言ってないで追いかけなさい」


 あぁ、この変態は……アンナは、本当に相変わらず〝変態〟だけど、ちゃんと考えてる人なんだ。

 ティアナのことが大好きで堪らなく大好きで、頭の中はティアナと交わることしか考えていないようで、ちゃんと騎士としての役割を果たしてる。

 それに比べて、私はどうだろう。

 村がなくなってこの街に来て、敵討ちするという部分的な目的はあっても生きていくための目的はない。

 敵討ちがある意味、生きていくための目的と言えなくもないけど、今はティアナに出会って敵討ちはそのうちでいいかなと思えるようになった。

 だって、ティアナはものすごく可愛いから。

 私とティアナの出会いは最悪で、最初、私はティアナのことを悪い吸血鬼だと思って、殺そうとした。

 今思えば、なんで殺そうとしたのかわからない。

 だって、ティアナはあんなに可愛いのに。

 そんな私を、アンナがティアナのお世話係にしてくれた。

 ティアナも、自分を殺そうとした私と頑張って接してくれた。

 そうだ、そんなティアナのことを、

 だから、私がティアナにあんなことを言うなんて、あり得ない。

 あの時、あの言葉を口にする前、急に頭の中にあの言葉が出てきてそれがすぐに口から吐き出された。

 わかりやすく言えば、思考を誘導されたような感覚。

 まさか、誰かが私とティアナをわざと喧嘩させて離れるように仕向けた?

 なんのために?

 ……あっ!


「どうしたの? さっさと追いかけて……」

、聞いて! ティアナが危ない!」

「今、私の名前……いえ、そんなことよりティアナが危ないって、どういうこと?」

「これは、私の考えなんだけど……」


 そう前置きして、私は、アンナに私が導き出した結論を話した。


「ティアナが、あなたを襲おうとした吸血鬼に狙われてるかもしれない!?」

「あの吸血鬼は可愛いものに目がない吸血鬼で、私を狙ったのも可愛いからだった。そして、あの吸血鬼は、可愛いものを自分のものにするためには手段を選ばない。もしかしたら、吸血鬼にされた村の皆がティアナを誘拐するかもしれない」

「その為にわざとティアナとあなたを喧嘩させて離れさせたわけね。吸血鬼らしい狡猾で卑怯なやり方ね。もちろんティアナは除くけれど」


 アンナの意見に頷く。

 ティアナは純粋で可愛い無害な吸血鬼だから、他の吸血鬼とは格が違う。

 スキル【魅了】を使っているのではないかといったレベルで惹き付けられるから。

 現に女の子同士はどうかしてると思っていた私でさえ、ティアナのことを好きになってしまっている。

 ティアナは天性の女誑しだ。もちろん、良い意味で。

 だって、相手がティアナのことを好きになった方が、コミュニケーションを取りやすいと思うし。


「そうと決まれば、早くティアナを追いかけるわよ!」


 アンナに続いて走り出そうとしたその時……


「あら、そうはいかないわよ?」

「「!?」」


 私達の前に、コウモリの羽を背中に生やした幼女が舞い降りた。


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