私は姫なんかじゃない!

龍夏

第1話

「はぁ…。」


「どうしたの?花。」


花、こと壱宮 花は疲れきった顔のまま

隣の女性を見やりまた溜息をついた。


「ちょっと!なんなのよ!」


「いや、何でもない…。」


「はぁ?さては、彼氏と別れた?」


ギクッ。


静かな休憩室で鼓動の跳ねる音が

響いた…気がした。

ここは会社の休憩室。定時まで時間が

あったので同僚の休憩に付き合っている。


「図星か。これで何回目よ?」


「違うんだって!そんな目で見ないで!」


「いい人だったじゃん。何がいけなかったの?」


「優しすぎたの。」


「それのどこが駄目なのよ。」


「…優香には分かんないよ。」


ポツリ、口の中で聴こえないように呟く。

腑に落ちないといった表情の優香だったが

なんやかんやコーヒーを奢ってくれた。

花はその優しさに感謝を述べながら

僅かな嫌悪感を浮かべる。


「まぁ何かあったら言いなさいね?

話くらいは聞くから。」


「ん。ありがとう。」


優香は花の頭を優しく撫でると

ハイヒールを鳴らして颯爽と去っていった。


「はぁ。」


溜息が止まらない。

別に優しい事は良い事だ。

だが、花には嫌悪感を抱かせる。


「やな奴だ、私。」


彼はとても優しかった。

そんな彼が私も好きだった。

でも、日を増すごとに彼は

皆と同じになってしまった。


「はぁ。」


何度目かの溜息を放出すると

重い下半身をのそりと起き上がらせた。


帰るか。


スマホを起動させ時間を確認する。

温かいコーヒーを飲み干しトボトボと

休憩室を出た。



花のようになりなさい。

誰からも愛される花のように。


「お母さん。私は、」


普通で良かったんだよ。


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