初瀬川兄妹の仲は険悪だ

確門潜竜

第1話兄妹は仲が悪い

 教室に背の高いスマートだが、胸は大きく、ウエストは細い長い黒髪の美少女が颯爽と入ってきたから、男子生徒だけでなく、女子生徒の視線も彼女に集まった。彼女は窓側の席で話をしている4人ほどのグループの元に真っ直ぐ歩み寄った。そして開口一番、

「馬鹿兄貴!今日は遅れないでよ!母さんと父さんが久しぶりに家にいるんだからね!色々買って準備するんだからね!遅れるんじゃないわよ!それに、サボるなんて許さないからね!」

 教室の端まで聞こえる怒鳴り声をあげた。一番長身の、髪をやや長く伸ばした男子生徒が、振り返った。あとは、席に座っている男子生徒も含め、唖然としていた。

「礼儀知らずの腐れ妹が。その言葉、そのまま返してやるよ。大体、時間にルーズなのはお前の方だろう。遅れるな、ていうのは自分自身に言え!」

 これも負けないくらいの大声だった。

「何ですって、このカス兄が。」

 二人の間の言い争いが始まった。男子生徒の方も、整った容姿だが、双方顔に見合わない言葉が次々口元から飛び出した。そして、そろそろ授業開始と感じたのか、女子生徒は来た時と同様、颯爽と教室を後にした。

 教室中茫然としていた。その内、

「あれが初瀬川妹か?美人だな。」

「噂通り、仲がひどく悪るそうね。」

という小声が上がってきた。

「すまなかったな。がさつな妹で、不快な思いをさせてしまって。」

 周囲の耳に入るような声だった。

「別に気にしないさ。ところで、初瀬川のご両親は、今日はいるのか?。」 

 二人の両親は、不在がちというより、家にいないのが普通だった。父親は、国家公務員だが地方の事務所を転々としてずっと単身赴任、左遷というわけにはではないが。母親はというと、民間企業のサラリーマンだが、海外勤務がが続いている。二人は夫婦仲が悪いわけではなく、子供達に無関心なわけではなかった。出来るだけ休暇を取って帰ってはきていた。父親は、月一で帰ってくるし、海外の母親はそこまでは頻繁に帰っては来れないが、二、三ヶ月に1度は帰ってくる。その上、出来るだけ同時に帰るように調整している。

「帰って来てくれるのも、気にかけていてくれるのはうれしいんだけど、ラブラブぶりを見せつけれるのはな。」

 いかにも呆れているという表情を見せた。

「夫婦の、両親の仲は悪いのよりは良い方がいいだろう。でも、ご両親が心配するだろう?お前と妹さんの仲が険悪だと?」

「両親の前では、ケンカも罵詈雑言もしないことにしている。馬鹿妹との取り決めだ。」

「でも、ボロというものは出るものよ。」

「出さないために日夜努力している。だから、登下校は一緒、買い物も一緒にしてご近所にばれないようなやり取りを心がけ、練習している。」

「用意周到だな、お前らしいと言えば、お前らしいが。」

「俺なら、あんな美人の妹なら、罵られようが、大歓迎だけどな。」

「それは、妹のいない奴の妄想だよ。」

 これには、一人が大きく肯いた。

「お前。たしか姉さんもいたよな、美人の。」

「いるが、大学生で、東京に下宿していて、あまり帰って来ないがな。」

「姉さんとの仲は?」

「いたって普通。不仲ではない。これも言っておくが、姉へのあこがれは、いない奴の妄想だからな。」

 一人が大きく肯いた。もうそろそろ、この話題はやめてくれ、と思った時、授業開始の鐘が鳴った。

「初瀬川。今日、暇?」

 初瀬川妹の教室である。今日の授業が終わって、友人達が集まって来た。

「ダメよ。ハッセーは、今日もお兄ちゃんと仲良く下校よ。

「相変わらず仲がいいね!」

「よしてよ!あの馬鹿兄貴と仲がいいなんて!仕方なくやっているんだから。ごめんね、今日は両親が帰っているから。」

 両手をあわせて、御免ね、というポーズをとった。

 初瀬川兄妹は、県立香山高校の生徒である。兄の玉輝(たまき)は3年生、妹の鏡華(きょうか)は2年生、二人とも陶芸部に所属しているが、さほど熱心ではなく、歴史の体験だと言って弥生土器~中世あたりの陶磁器作りをして展覧会向けの作品を造ろうとしない。それでも、あまり文句が言われないのは、二人がいなくなると廃部になり、二人以外に幽霊部員でないのは一人だけなのだ。部長と顧問は内心では、大いに不満ではあるが。そのため、どちらかというと、二人は帰宅部に近い。二人暮らしで家事やら二人でやらないといけないというのが理由だった。あと古武道を習っているが、これも歴史を実体験するためだという。歴史オタク的だが、それ以外は、まっとうというより、優等生の美形兄妹だった、兄妹仲が険悪ということが異常だが。。二人とも恋人いない歴イコール年齢である。特に妹の鏡華は、男女とも人気は高く、ミス学園を争ってもおかしくはないが、そこまで評価されず、男子からの告白もないのは、兄に対する酷い罵詈雑言で皆ひいてしまったためである。さらに言えば、しっかり清潔にして、整えていて、健康的だが、あまり化粧とか、アクセサリーとか可愛く、魅力的に魅せるアイテムに関心がなく、素そのものであることで、他の美少女達との比較で損をしている面もある。兄、玉輝の方は、こちらは素材がいいことは女性たちから認めてもらっているが、なんとなく拒絶のオーラ漂っていることと運動部員のエースという高校生の学園生活上での重要なアイテムに欠けていることがマイナスになって、告白されたことがない。(ちなみに2人とも運動神経はいいほうではある。)妹が入学してからは、妹同様な理由でひかれてしまっている。二人とも一応不満だと口にしているが、実際はあまり気にしているとは見えない。ただ、二人とも男女の友人達には恵まれているが。

「それで、どうしてお供を連れている訳?ゴキブリ兄貴。」

「そのまま返してやるよ。変態妹!」

 下校時間が過ぎた校門の前で睨み合っている二人の間に入るように、

「まあまあ、鏡華ちゃん、僕らが無理を言ってついて来たんだから。」

 黒田亀石は二人の共通の幼馴染みなので、2人とも言葉につまった。

「久しぶりに、ご両親にもご挨拶したいし。あ、私達の食べる分は持参するから。」

 笑顔で言ったのは、白瓜三輪、小柄なメガネ美少女、彼女も二人の昔からの友人である。それだけに遠慮しなくてもいいという圧力がある。その他10人ほどいた、二人のそれぞれの同級生。友人達である。

「私達は、…、ハッセーの家を1度見てみたくて。」

 一人が言うと、それに合わせて皆が力強くうなずいた。初瀬川兄妹は、疑わしそうに見つめたが、しかたがないというように諦めた。兄妹、よく似ている、そんなところは。

「わかったよ。ただし、余計なことはするなよ、言うなよ。」

「いいこと、私達は普通の兄妹なんだからね。」

 二人は、絶妙のタイミングで友人達に釘を刺した。

「は~い。」

 誰ともなく、気のない返事が帰ってきた。

 

 

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