第10章 木枯らしが頬撫でる
第192の扉 月と太陽
「わぉ、本当にそっくり」
翌日、月のお披露目会として桜木邸に精霊付きが全員集合。彼らには月が封印されていた事情を説明し、今後は自由に交代できるようになったことを伝えた。
「違いは髪の色と目付きの悪さくらい? あ、あと口も悪いか」
「うるさい」
早速美羽と一葉が月をぺたぺた触りながら太陽との間違い探しを始めた。月はパシッと彼女たちの手を払って抵抗するのだが……
「他にも違うところあるはずだよ」
「調べよう!」
「は!? ちょ、なにを、わっ!?」
スイッチの入ってしまった二人により押し倒されてしまった。戸惑う月には構わずに、美羽と一葉は容赦なく月の身体を堪能し始める。
「この筋肉質な感じは一緒だね」
「いい筋肉してるわ~」
「ちょ、おま、触んな!」
「この前の水着の時も思ったけど、腹筋割れてるよね?」
「よし! 服を脱がそう!」
「は!? ふざけんなよ! やめろ!」
いつの間にか『間違い探し』から『筋肉を触る』に目的がすり替わっている。しかし、筋肉大好きな女子からしたら、彼の身体はたまらないらしい。月の着ていたパーカーが早速宙を舞った。
「ほら割れてる! いいねぇ」
「この身体好きだな~もっと触っていい?」
「いい訳ない!」
「減るもんじゃないしいいじゃん?」
「そうそう、触られないと筋肉も悲しがるよ?」
「あぁぁぁぁ!」
月が抵抗するも、彼女たちの手は止まらない。ぺたぺたと体中を触られていく。久しぶりに外の世界に出てきたのにこの展開では、流石に可哀想である。
「その辺にしといてやれよ、お前ら」
優一の声を合図に美羽と一葉の動きが止まった。その隙をついて、月が風花の元へ脱出。涙目になりながら彼女に抱きつくと、白い物がブワッと吹き出した。
「あぁ、怯えてしまったようですね」
美羽と一葉から逃れるため、月が太陽とチェンジ。太陽がそそくさと脱がされたパーカーを着ているが、月は彼の中で震えているようだ。
「可哀想に」
「月くん、大丈夫?」
翼と優一が太陽の頭を撫でながら慰め、風花が彼を抱く腕に力を込める。彼らのその行為を受けても恐怖はなかなか消えないので、月はしばらく表に出て来てくれないだろう。
月は長い間封印されていたので、対人接触に慣れていないのだ。それにも関わらず、体中をぺたぺたと触られて怖かったことだろう。
「ねぇ、太陽。月はどうしたの? どうして中に戻っちゃったの?」
「……」
風花は残念ながら月の行動の理由が分からない様子。彼女の目には月が美羽と一葉と仲良く遊んでいたように映っているのだろう。曇りなき眼で太陽に答えを求めている。
「ねぇ、美羽」
「うん、私も同じことを思っているかもしれない」
太陽が風花の質問に苦笑いを返す中、何やら黒い笑顔を浮かべている美羽と一葉。彼女たちは何も反省していないらしい。おもむろに太陽へと歩みを進める。
「月くんの後に太陽くんを見るとさ、きみ、めっちゃ可愛いな」
「くりくりの目がいいよね」
「ん? なんですか? うわっ!?」
二人は風花に抱きついていた太陽を引き寄せて、再び押し倒した。月から太陽に変わったギャップが刺さったらしい。
「頬っぺたプニプニじゃん」
「可愛い可愛い。髪の毛もサラサラ」
「え、ちょ、ちょっと。や、めて、くださ」
「よし、もう一回服を脱がそう」
「触らせておくれ~」
「何するんですか! いやです!」
折角着たパーカーが再び宙を舞った。太陽が恥ずかしそうに顔を赤らめるも、彼女たちは止まらない。
「筋肉は良いね~」
「いつまででも触ってられる~」
「やめ、て。やぁです、あぁぁぁ!」
モゾモゾと太陽が抵抗するのだが、美羽と一葉は止めてくれない。太陽は二人に怪我をさせないように本気で抵抗できないこともあり、されるがままである。
「んぅ、優一さん、たすけ、て……」
「南無」
「ちょっとぉ!!!」
優一に助けを求めるも、静かに合掌を捧げられてしまった。月の時は助けてくれたのに、太陽は助けてくれないらしい。
「結愛も行ってきていい?」
「やめてあげましょう。流石に可哀想ですわ」
美羽たちのカオスな空間に結愛までも乱入しそうとしていたが、うららが間一髪で食い止めた。あの空間にアホ毛モンスターが混じったら、太陽が死にそうである。うららに黒い微笑みで微笑まれて、結愛のアホ毛がシュンと下がった。
「ねぇねぇ、神崎さん」
そんなモンスターの隣では颯がもう一人のモンスターについて気になることがあったようだ。うららに話を振っている。
「彬人くんのあの表情ってさぁ」
颯の言葉にうららが彬人を見ると、何とも言えない表情をしている彼が。彬人は今一葉たちが楽しそうにしている光景を見ているのだが、その表情が何とも言えないのだ。ちなみにアホ毛はシュンと下がったり、ピンッと立ったりと忙しくしている。
「なるほど。一葉さんが今まで可哀想でしたから、本城さんはその分の感情を味わえばいいと思いますわ」
「……神崎さん、もしかして怒ってるぅ?」
「いえ、別に」
「……」
うららに黒い笑顔で微笑まれ、颯は口を噤むしかなかった。
漆黒の堕天使彬人と素直になった一葉。この二人の関係の結末は案外近い所にあるのかもしれない。
颯がそんなことを呑気に考えていると、早速彬人が動き出した。
「おい!」
楽しそうに太陽を弄んでいた彼女たちの所へずんずんと進んでいき、太陽から引きはがそうと手を伸ばす。これは彼らの関係が急展開するのだろうか。颯が胸を躍らせながら行動を見守っていると……
ムギュッ!
彬人が思いっきり
「んふふっ、最高すぎる、ふふっ。抱きしめるのは、そっちじゃないでしょ。バカなのぉ、ぐふふ」
後ろで笑い転げている颯の声が響く。確かに颯の言う通り、彬人が抱きしめる相手は太陽ではないだろう。バカである。
「何なのよ、もう! 折角の筋肉だったのに! 彬人邪魔しないで!」
しかし、本来抱き着かれるはずだった人物ですらそのことには気がついていない様子。強制的に筋肉を取り上げられたので、ご立腹である。
「うるさいのだ! 一葉、お前はもう太陽に触るな!」
「はぁ!? 何言ってるのよ。そもそも、何であんたにそんなこと言われないといけないわけ?」
「うるさい! とにかくダメなのだ! ダメなものはダメなのだ!」
「何で怒っているのよ! 意味わかんない!」
一葉がぶーぶーと文句を言うも、彬人は太陽を抱きしめて離そうとしない。ぷくぅと頬を膨らませて、一葉を睨みつけている。
「あのぉ、彬人さん。助けてもらってこんなことを言うのはアレなのですが、そろそろ離れていただいても……」
「太陽、うるさいのだ! お前ももう触られてはならぬ!」
抱きしめられた太陽が彬人に抗議するも、彼は離してくれない。ピシッとアホ毛を立てたまま太陽に抱き着いている。
「はぁ……」
「見てて飽きない二人よね~」
ため息を吐き出す太陽と、ニマニマが止まらない美羽。
彬人は一葉が太陽の身体をぺたぺた触ることにやきもちを焼いたのだろう(本人無自覚)だから彼は一葉がもう太陽に触れないように、
しかし、一葉はただ単純に筋肉を楽しみたかったので、彬人の行動にご立腹。頭に血が上っているため、彼の行動の意味には気がつけない。
二人の進展はどうやらまだ先らしい。
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