第111の扉  アホ毛モンスター

 この国は大きな港町。たくさんの船から荷物が降ろされ、行商人たちが賑やかにしていた。


「「わぁぁぁ!」」


 その光景を見て、混ぜるな危険コンビの目が輝きを増す。もう逃亡しないように、二人の手はしっかりと太陽が握っていた。太陽を真ん中に据えて、両側にはアホ毛モンスター。まるで小さな子供を連れた母親のような構図になっている。


「結愛はあっちに行きたい!」

「では俺はあちらに行こう!」


 早速二人は逆方向を目指し、進んでいこうとしている。太陽は二人の行動を阻止しようと腕に力を込めていた。世の中のお母さんたちは大変である。

 そんな攻防が繰り広げられている後ろには、翼と風花が。


「いろんなお店があるね」

「そうだね」


 風花も結愛や彬人ほどではないが、目がキラキラと輝いている。そんな彼女を見ていると、翼は自然と口元が緩む。彼女も普通の女の子。最初は無表情の無感情だったが、今はこんなにいろんな表情を見せてくれている。今後も風花はいろんな表情を見せてくれることだろう。それを考えた翼の心がざわざわと騒ぎ出した。


「およよー!」


 そんな中、結愛の元気な声が響き渡る。何かあったのだろうか。翼たちが彼らの元に駈けつけると、そこには一つのお店が。


『占いの館』


「かわいい子だね。良ければ、無料で占ってあげるよ」

「およ! えへへ、結愛可愛いのぉ?」


 店員が結愛に話しかけてきた。彼はローブを身につけており、フードを深く被っているため顔がよく見えない。何だか怪しい雰囲気を感じなくもないが、結愛は褒められて上機嫌になっている。


「佐々木さん、チョロ過ぎない?」

「サービスだよ。ささ、こちらにお掛けください」


 翼が止める中、男性は結愛に椅子を進める。風花と彬人も興味津々のようで、占いを始める男性をキラキラと見ている。チョロい人が多すぎないだろうか。翼はちょっと心配になる。太陽は先ほどのアホ毛モンスターたちの影響で、腕が痛いらしい。自分でもみもみと、マッサージしていた。


「俺の目を見ていてね」


 翼の心配をよそに占いが始まった。結愛は大人しく男性の言う通りにしている。


「あなたの名前は佐々木結愛さん、地面の魔法を使うんだね」


 男性が名前を言い当てた瞬間、結愛はめまいに襲われる。これも占いの一環なのだろうか。男性から目を離そうとしても、見つめたまま全く動けない。しかし、誰も彼女の異変には気がつかないようだ。次々と的中させていく男性の話に、全員夢中である。


「すごいね」

「ふ、全てを見透かす邪眼」

 訳)全部正解ですね


 風花と彬人は男性をじっと見つめている。その瞳は、大好きなおもちゃを前にした子供が如く輝いていた。その後、何の問題なく占いは進んでいくのだが……


「おい、佐々木! 大丈夫か?」


 占いも終盤に差し掛かると、突然結愛が椅子から崩れ落ちた。倒れた結愛を彬人が抱きかかえる。結愛は意識を失っているようだ。彬人が呼びかけるも反応がない。


「奥へどうぞ。少し休ませてあげた方がいいね」


 店の奥は彼の住居になっているようで、布団の上に結愛を寝かせてくれる。


「ありがとうございます」

「気にしないで。ゆっくりしていくといいよ」


 風花がお礼を伝えると、男性はニコリと微笑んだ。その間に太陽は眼鏡をかけて回復魔法を展開していく。頭の上から足の先まで丁寧に診察した。


「特に問題はないようですね」


 診断の結果は異常なし。その言葉に風花たちはホッと胸を撫で下ろした。結愛の息遣いは落ち着いており、顔色も特に問題はないように見える。


「疲れか、迷走神経反射の一種でしょう」


 迷走神経反射とは、緊張や痛みなどが原因となり血圧が急激に低下。意識を失ってしまう症状である。健康な人でも起こる症状で、少し休めば意識は戻ってくる。


「ゆっくりしてってね」


 翼たちが太陽の説明に納得していると、男が優しく話しかけてくれる。ぺこりと頭を下げる翼たちに、男は自己紹介をしてくれた。

 男の名前はやなぎたける。年は20代。一人で占いの館を営んでいるそうだ。


「柳……どこかで聞いたことがあるような」


 太陽はたけるの名前に違和感を覚える。考えてみるも、正体はつかめない。太陽はたけるを見つめていたが、その視線から逃げるように彼は部屋から出ていった。


「結愛ちゃん……」


 風花は布団に横になっている結愛の髪を撫でた。特に異常はないということだが、やはり心配なのだろう。


「眠り姫には、むぐほぐぼ」


 『眠り姫には王子の口づけを』と言おうとしていた彬人の口を、太陽の手が遮る。彬人がもごもごしながら、文句を言っていたがその様子を見た風花に笑顔が戻った。






「異常はないのですが……」


 太陽が難しい顔をしながら呟く。あれから数時間が経過しているも、結愛は全く目覚める気配がない。太陽が再度診断するも結果は異常なし。彼女の体に一体何が起こっているのだろう。重い空気が漂う中……


「今日は泊まっていきなよ」


 たけるが声をかけてくれる。すでに日が暮れて辺りは真っ暗。結愛が目覚めない理由が魔法関連のものなら、このままここに滞在する方がいいだろう。


「ありがとうございます」


 翼たちはたけるの言葉に甘えて泊まることになった。

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