第16話 鈍感系主人公は初恋少女の顔を見ない 最終章
第16話 鈍感系主人公は初恋少女の顔を見ない
ここは最終局面の少し前くらいだと思う。比率的には1対100ぐらいの圧倒的に不利なのにも関わらず、第4班だと思う人達が敵をなぎ倒している。吹っ飛んでいく姿を見るのは楽しいが、今はそれを見て笑っていられる状況じゃない。
「まさか護衛がこんなにいるとは。西園寺家にはどんだけ後ろめたいことがあるんだ。」
新海はそう言って、ガスマスクをつける。そう。第4班は勝つためにはなんでもする最狂の部隊なので、毒ガスとか人類史上の中でも結構極悪非道な武器も平気で使う。細菌兵器とかですらも普通に持っていたと思う。
もちろん、俺に毒は効かない。多分、定期検診とか言われて明らかに手術道具しかない部屋に1週間ぐらい泊めさせられた時からだ。麻酔をかけられていて全く記憶がないが、あの後から急に毒とか薬とかが効かなくなった。きっとすごい定期検診だったのだろう。目が覚めた時に明らかに手術服を真っ赤に染めた医者たちからすごく褒められた。なんで君が死んでいないか不思議だとか、君はこれで人類を超えた存在になったとか。俺はずっと定期検診と言われていたのに、なんでそんなことになったか不思議だったが、怖いからもうそう信じることにした。
とはいえ、毒ガスの発射が始まってからは相手の勢いが急に揺らいだような気がする。さっきまでは火がかかっていたのを慌てて消し止めていたぐらいなのに、今はもう中庭に立っている敵はいない。毒ガスが強いのは敵を殺さないところだ。死んでしまったら、相手はもっと怒りを増幅させてやってくるが、瀕死になった仲間がいたらその仲間の救助を目指すから進軍が遅くなる。
状況がまずまずになったのを見て、俺は新海に尋ねた。
「ちなみに相手の親玉みたいなのはどこにいる?」
「それはわからないが、もしお前が敵の親玉を捕まえろとか言われたなら早くいった方が良い。」
「なんでだ?」
「焼華さんが今さっき隊長から許可が降りて、相手の幹部たちを焼きに行った。」
「おい、やべえじゃねえか。っていうか、麗華が殺すなって言ってたよな。」
「まあ、焼香さんだから。」
背筋が思わず、凍ってしまうほどに焦る。焦るのは当然で、焼華さんはやばい人だからだ。
焼華さんとはパッと見は、身長が高めなただの綺麗な女の人だ。第4班の人たちの中で、ハリスより顔に傷がない人ランキングだと上位に来るくらい。ただ、頭のおかしさは群を抜いている。
「私がこの世界で一番美しいと思うのは焼死体だと思う。」と言っていたのは、俺でも知っているぐらい有名で、いつも戦闘になる度に嬉しそうに火炎放射器を担いで走っていく姿は少し怖い。よく話す人で、俺や新海は話し相手にされることが多い。炎に目覚めたのは大学一年生の時に彼氏に振られ、自殺しようと家に炎をかけた時らしい。13時間も炎とそばにいる事で、炎の鼓動を感じれるようになったらしい。よくわかんなかったが、こちらに向けてくる火炎放射器と炎の中に13時間もいて、なんで傷一つ付いていないのかが怖かったので、その時はめっちゃわかると答えた気がする。
急いで、相手の中を駆け巡る。早くしないと焼華さんは間違いなく、西園寺家の人たちを焼いてしまう。戦闘がなくて燃やせる死体がないときは、人形を焼いて楽しんでいるような人だから。
新海と話していた場所から、そこそこ離れたところでやばい女の人の声が聞こえた。そこら辺だけ煙の上がっている量が多いことから走る速度を速める。
「ねえ、あなたは私の彼氏になってくれる?あー。ダメね。私の炎に耐えれるようじゃないと、私とはやって行けないわ。」
そこには怯えきって、足腰が抜けて全く動けていない人たちの前で、原型をとどめていない死体に話しかける焼華さんがいた。
「何をやってるんですか!」
「あれ、ツバサじゃないの?そういえば、あんた4班に入るらしいわね。」
「いやそれはそうなんですが、これはなんなんですか!」
「そこの男は私の告白を断ったから燃やしたけど何か?」
「頭おかしいだろ。もう、降伏したんだったら許してやれよ。てか、俺それ聞いたぞ。あんた返事させる気なかっただろ。」
「こんなに可愛い私の告白をされたのよ?燃やされている場合じゃないでしょ。泣いてお願いしますっていうのが筋でしょ。」
「告白する前に、肩に担いでる火炎放射器見てから言えよ!」
まあこんなにふざけた感じなのは、本来だったら敵の幹部とかを殺す暗殺専門の4班の人が来てないからで、それはもう戦いはこちらの勝ちということが判明してるということだ。
「ドラマチックな感じで助けようと考えてたのにな!」
「ちなみに誰を助けようとしてたのよ。」
可哀想に涙で顔がぐしゃぐしゃになっている女の子を指差す。そんな顔でもアリスやお嬢様に並ぶくらい可愛いのがすごいと思う。
「可愛い子ね。何、好きなの?」
「いや、別に。そういう訳じゃないんですが。」
「決めたわ。」
焼華さんはこの表現が正しいのかは知らないが、まるで最高のキャンパスを得た画家の様な顔で言った。
「私、この子で作品を作るわ。題目は灰になった美少女。どう?美しいでしょ。」
「焼く気満々じゃねーか。ふざけんなぼけ。」
俺は泣いている西園寺さんを抱えあげる。涙を拭くものは持っていないから、自らの手でそれを拭う。
「ど、どうして山田くんが?」
驚くのは無理もないが、その前にこの火炎放射女から逃げなければいけない。
「しっかり掴まって。」
西園寺さんはぎゅっと俺を掴むが、女の子ということもあってその力は弱い。よく、この人銃が撃てたな。あまり釈然としないので、仕方なく西園寺さんの肩に手を回して、思いっきり抱きしめる。
「ちょ、ちょっと山田くん。そ、その近いんだけど。」
こんなやばい状況で慌てるのは凄いと思うが、追いかけてきている女がやばい。
「てめえ、彼氏ができない私になんてもんを見せてやがる。ぶっ殺してやるよ。間違えた。ぶっ燃やしてやるよ!」
折角、京都まで来たのにこんな終わり方というのは釈然としないが、問題は起きない方が良いのだ。とにかく、今回はハッピーエンドで終わったことを喜ぼうと俺は焼華さんから逃げながら思っていた。
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