シエンタ

 新型のシエンタが発売になった。


 カミサンがいつも買い物で通る道には何軒ものディーラーがあり、あそこは人が入っていたとか、こんなデモカーや展示車両が置いてあったとか、スタッフが暇そうだとか、いつまでもお客さんを見送っているのはどうして、だとか、いろいろと教えてくれたり、話をしたりする。


 一時期我が家も、愛車のカルディナを買い換えようかという話をしていた。その際に候補に挙がったのがシエンタだった。


 カミサンは買い物をするのに、スライドドアがいいと言う。親を乗せたりする時にも、やはりスライドドアは便利だろう。そんな事から漠然とシエンタを検討まではいかずとも、見ていた。


 今回新車が発表、発売になり、私達も一応興味を持って見ていた。そのシエンタの展示車がカミサンのいつも通るディーラーにも来たようで、昨日教えてくれた。


「シエンタ324万円だって。びっくり。あんな値段で誰が買うんだろう?」


 近頃の新車は高いとは思っていた。軽自動車の箱タイプも200万円以上するものが出てきている。シエンタは1500ccなので、私の感覚で言うならカローラである。カローラが300万円以上とは、世も末だ。私の古くさい感覚で更に言うなら、300万円というのはソアラの3ナンバーが買える価格帯である。


 私の現役時代は昭和の終わりから平成にかけてだから、もう既に35年近くが経過しているのだけれど、それにしても1500ccの車が324万円とは驚きである。


 まあこれは最上級のクラスで、あれもこれもが付いているモデルなのだろうけれども、こんな価格で、この不況と言われる時代に、このクラスの車がこの価格で売れるのかと疑問に思ってしまう。


 今は残価設定ローンとか、リースとか、高い販売価格の車をたやすく手に入れる方法があるようだから、このような方法を使って手に入れるのが前提なのかもしれないけれど、それにしたって、オーナーになるのなら、万が一の際にはそれなりの支払いをする必要が出てくる事を考えるなら、私ならなかなか手を出せるものではない。


 あれもこれもが値上げになり、車も例外ではないのかもしれない。何ともまあ、大変な世の中になってしまったものだと、新型車が出たのは喜ばしいことだけれど、落胆をせずにはいられないのである。


 60歳が目の前に迫ってきて、最近ではこの先どの位働けるのか、漠然とした将来の不安に襲われる事が多くなってきた。多くはないものの、それなりに収入がある今のうちはまだいいものの、この先働けなくなったり、仕事がなくなったりして収入が途絶えてしまう事は充分に考えられる。


 あの時、ストレスを抱えながらも、安定した会社にとどまっていた方がよかったのかと思い返す時がよくあるが、私は自分の思った通りの道を歩んできたので、その点では時代背景がこうなってしまった今でも後悔はしていない。


 こんな状況だけれど、シエンタは到底買えないけれど、何とか前を向いて、これからも生きていかねばと思っている。



 

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