エアコンの効かないトラック

 今週から私が乗っているトラックのエアコンは壊れている。


 スイッチを入れてもコンプレッサーが回らない。配管からガスが漏れているとかのレベルではなく、エアコンの心臓部であるコンプレッサー自体が壊れており、この「コア」を取り換えなければなおらない、重大な故障である。


 昨日も湿度が高かったし、今日は30度を超える予想である。私は車にエアコンがなくても大丈夫なように出来ているが、さすがにちょっとだけきつい。


 これには理由がある。


 いつもこのトラックに乗っている人は、昨日から東京へ行っている。今日は八戸に向かうらしい。この泊まりの仕事なのにエアコンが壊れていてはキツいだろうということで、会社側としてはエアコンの壊れていない私のトラックと取り換えて運行してもらいましょう、ということになり、私がこのエアコン効かずのトラックに乗り、相棒は私のエアコン修理したてのトラックで、泊まりの仕事に出かけたという按配なのだ。


 私は社員じゃないからいいけれど、昨日も今日もいろいろな人が「どうした?」「何でそれに乗っているんだ?」と話しかけてくる。理由を話すと、日頃から溜まっている会社への不満が噴き出す。


 昨日、地元のテレビ番組で、地元に根付いている、とある優良運送会社が紹介されていた。そこは私も20年以上前に応募した事があり、見事に「経験がないから」ということで不採用となった会社である。


 地元でテレビコマーシャルを打っていたり、海外にも拠点があったりと、幅広く事業を展開しており、ちょっとテレビに映っただけでも数十人のスタッフが事務所で仕事をしている。


 一方で我が社は社長の下が配車係で、その周辺にこの道数十年のおばちゃん達がいるという、昔ながらの構成で成り立っている。規模が違うなと思うと同時に、これではきめ細かい指示や運行ができないよな、と思うが、中小の運送会社なんかはこんな所が殆どなのだろうからという思いもあり、特に意見をするでもなく、私は雇ってもらっている事に感謝し、仕事量の多くて可哀想な配車係にできるだけストレスを与えないように気遣いながら、それなり位置で会社の中を立ち回っている。


 そんな事もあって、エアコンの効かない車に乗ることを提案された際にも、文句を言うことなく、我が社は遠くに行く人、より高い運賃を稼ぎ出す人が優先だという雰囲気もわかっているので、快諾した。


 巷の情報では、同じ型式で、故障して車検を取っていない、デフの壊れている車から部品を取り外し、この車に移植するとの事だった。それがいつになるのかは、誰もわかっていない。


 きちんとした会社はもちろんいいのだろうけれど、ぎちぎちのコンプライアンス遵守ということになれば、なかなかしんどい面も否めない。


 一方で、私の今いる会社は、ある意味適当な部分が多いのだけれど、それは会社の人員の構成上、歴史上、風土というか何というか仕方がないもので、それを理解しているからこそ、もう10年近くもこうして働いている。


 今回もちょっとだけしんどいけれど、私が我慢すれば何とかなるような状況である。今現在はそれ程気温も上がっていないけれど、これから昼にかけては少し暑くなる予報だ。


 こうして長い間お世話になっているのだから、あと数日、エアコンの壊れたトラックで頑張ってみよう。ちょっと飲み物を多く持って行けば大丈夫だ。



 

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