接ぎ木

 家庭菜園をしているが、今年は毎年買い求めている「接ぎ木の苗」というものを自分で栽培し、実際に接ぎ木を作ってみようと思っていた。


 接ぎ木苗はそれなりに価格がするので、どうしてこんなに高いのか、それなら自分で作ることはできないのかと思ったのがきっかけである。


 接ぎ木の台木の種を買い、育てるナスとトマトの種を買い、専用の発芽用プランターに植えて栽培を開始した。発芽して少し大きくなったら、台木に苗を接合すればいいと思っていたし、YouTubeやネット上での説明もそうだった。


 ネットでやり方と必要な物を調べ、接ぎ木クリップをはじめとする、ちょっと普通のガーデニングをする人ではお目にかかれないようなレアなものを全て揃え、今年の苗はこれで行こうと、意気揚々だった。


 しかし、種がなかなか発芽しない。発芽率80パーセント以上で、一週間程度で発芽する予定が、一ヶ月以上経過しても発芽しない。


 暗いところに入れてみたり、毎日欠かさず水をあげたりしていたが、なかなか発芽しないのである。ようやく小さな芽が出てきたころには、苗を畑に植える時期が終わってしまっていた。


 もうやめようと思っていたのだが、7月になって見てみると、かろうじてトマト4本、ナス2本の台木とメイン作物の苗が、小さいながらも発芽し、かろうじて育っていた。ホームセンターで販売されているものとは程遠い、ほんとうに小さな苗だった。


 この前の日曜日、ようやくあれこれが落ち着き三連休だったので、おくればせながらとは思ったが、これらの苗で接ぎ木の作業をしてみた。メルカリで買ったカミソリの刃で苗をすぱっと切り、成長する部分のメインとなる苗を接ぎ、大量ロットでしか買えずに結局は高くついてしまった、接ぎ木クリップで押さえる。


 このようにして完成した接ぎ木苗は、これまた買い求めておいた発砲スチロールの箱に入れ、霧吹きで水を充分に与えて、蓋をして冷暗所に入れた。


 合計6本の自家製接ぎ木苗。おそらく何本かは失敗して、翌日になったら枯れてしまうだろうと思っていた。しかし翌日見てみると、これが全て元気に育っている。再び霧吹きで水を充分に与え、発泡スチロールの蓋を閉めて、もう少ししたら畑に植えてみようと思っている。


 私の家の裏にはセミプロ農家の畑が広がっている。見てみるとトマトやナスは今が収穫真っ盛りという感じで旺盛に育っており、沢山の実を付けている。今から植えてどうなるのかはわからないけれど、何とかこうして形になった自家製の接ぎ木苗を、遅ればせながらに植えてみる予定である。


 接ぎ木苗が高価な理由が理解できたと同時に、野菜にまで、私の曲がった根性が乗り移らねばいいなと思っている。


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