技能実習生

 現場に入るにはまだ数十分あるという所で、現場監督から電話がかかってきた。


 仕事の段取りを付ける上で、私達が運ぶ荷物が何時頃到着するのかを確認するのは重要なのだろう。


 受け入れ担当者と思われるその人の言葉遣いはとても丁寧で、私達を威圧するでもなく、簡単な到着予定時刻の確認だけで用事は済んだ。


 現場に到着すると、日曜日にもかかわらず、作業員の人が沢山いる。多くの現場がそうなっているようだが、私達運転手は指定された位置にトラックを停車させるだけでよく、その後、荷物を固定しているワイヤーを解いたり、荷下ろしをしたり、といった作業全ては、現場の人が行ってくれる。私達はその後、その道具を片付けるだけでいい。


 荷物といってもさまざまな物があるが、今回の荷物は20トン近く重量のある箱である。クレーンで吊り上げるだけで、荷下ろしは完了する。


「お疲れ様です」


 途中、作業員の人に声をかけてみるが、反応がない。何人もいる若手の作業員さんは、皆同じような感じだった。おかしいなと思いながらよくよく顔を見てみると、ベトナム、あるいはインドネシア辺りの海外の方だった。


 とても若いので、技能実習生か留学生かといった感じだったが、今はコロナで留学は難しくなっているので、おそらく技能実習生なのだろう。


 彼らは監督の指示の元、とても真面目に作業をこなしている。現場にありがちな、怒号にも似た指示にも忠実に、作業をこなしている。一生懸命な姿勢が、身体全体から滲み出ている。


 その中の一人の子が、取り外した固定具を私の所に持ってきてくれた。私は彼の目を見ながら、「どうもありがとうね、ありがとう。休みなのに大変だね」と、ねぎらいの言葉をかけると、やはり人間同士、言いたいことはわかってくれたようで、彼は仕事での顔つきから一瞬だけ切り替わり、日本人の作業員の人では見ることのできない、心からの満面の笑顔を私に見せてくれた。


 私には丁寧な言葉で電話をかけてきてくれた監督も、やはり仕事となればそうせざるを得ないのだろう。彼らを強い言葉で指示しながら、私の持ってきた荷物は無事に荷下ろし完了となった。


 日本は今、圧倒的な労働力不足である。このような海外からの労働者に支えられているのが現実なのだろう。


 彼らも東京なら面白いかもしれないけれど、ここはかなりの田舎で、休みになっても面白いところがなくて可愛そうだな、などと思ったけれど、どこへ配属となるのかは運命で、これも仕方ないのだろう。


 彼らの母国を想う気持ちを考えると、人ごとではあるものの、何だかいたたまれない気持ちになってしまった。身体には気を付けて、頑張ってほしいものである。





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