売れると大変

 少し前、世界に名だたる音楽グループである韓国のBTSが、グループでの活動を休止すると発表した。


 BTSはアメリカの大統領に呼ばれたり、何度も名誉ある賞を受賞したりと、誰もが認める世界最高峰の音楽グループである。カミサンの影響で、少々アンチの入ってしまっている私でも、この人たちは凄いな、どうしてこんなに売れるんだろうな、と思っていた。


 その後、お酒を飲みながらのフリートークが公開され、やはり自分達が何をしたいのかを見失っていた、というような事を、お酒が回った頃に飲みながら話していた。


 世の中にプロを目指している音楽グループや自称音楽家達は山ほど存在する。音楽が好きで、音大を出て、いくら伯をつけた所で、プロとして生活できる人はごく僅かな世界である。


 かく言う私だって、高校時代、進路を決めるにあたって音楽の専門学校に行こうとしたら、音楽では食えないと、普段は殆ど生活に干渉されなかった父親に止められた経緯がある。だから、音楽をしている人たちの気持ちはよくわかっているつもりだ。


 それなのに、売れたら売れたで、このように悩みが出てきてしまい、ついには大好きだったはずの音楽ができなくなってしまうという事実。


 ソロとしての活動は続けるとは言っているものの、やはり今のメンバーあってのBTSなのだと思う。


 YouTubeでも同じような現象が見られた。


 私はとある物づくり系のYouTuberが好きで、チャンネル登録をさせていただき、よく動画を見ていた。コンテンツはとても面白く、編集や喋り、一番重要なコンテンツ自体もとても興味深いものだった。新しい動画が公開されると、GoogleのAIの仕業で必ずおすすめに出てくるので、見逃すことはなかった。


 しかしあるとき突然ふっと、そのYouTuberがどうなったのかな、という思いに駆られた。しばらく動画を見ていないし、おすすめには出てこないしで、何かあったのかなと心配になった。


 チャンネルの動画一覧を見てみると、かつてはかなりの頻度で更新されていた動画が、ほとんど製作されていないような状況である。コンテンツ内容も、ちょっとずれている感じがして、何かあるのかなと思っていた。


 こちらの方は、チャンネル登録者数は100万人弱、動画をリリースすれば、その殆どが50万回以上は再生され、面白い物だと100万回以上再生されるというような、その筋では売れっ子のYouTuberだった。


 コンテンツには本人の他に、何人かの人が登場していた。身内の人や友人が何人かいて、彼の製作するコンテンツをサポートしたり、アドバイスをしたりしていた。


 彼が最近リリースした動画を見てみると、どうやらYouTubeでの収益の配分か何かで内輪でトラブルになっているようで、かつてのメンバーでの動画製作ができなくなっていると話をしていた。


 あれだけ一生懸命動画を製作して、そして順調に売れたかのように見えたものの、いざ売れて、その(莫大なる)報酬が入ってきてしまうと、人間はこんな風になってしまうのだろうかと、見ていて複雑な思いに駆られた。


 現在彼は精神的に参ってしまっていて、かつてのような、気合いの入った物づくり動画を製作する事ができなくなってしまっているらしい。これはとても悲しいことである。でも、この事を動画でかろうじて発信できているので、人間としてはかなり強い方なのではないかとも思っている。


 しかし、人間という生き物は難しい一面を持っているなと、つくづく思う。


 好きなことをして、収入を得ることができるようになって、さあこれからも頑張ろうと思っていた矢先、お金にまつわるトラブルが発生して、今まで上手く行っていた人間関係が音を立てて崩れ、今まで通りの活動ができなくなってしまう。


 少し質は違うのかもしれないが、BTSだって同じような感情になっているのだと思う。


 私も本を出したり、インターネットでの稼ぎを模索したりと、お金が欲しい、と思っていた時期があったけれど、今は改心して、生活できるギリギリのレベルを何とかキープできないか、という感じで考えるようにしている。


 ちなみに売れていないYouTubeも、売れていない物販も、そしてこちらの文章も、誰から指示をうけるでもなく、誰を使うでもなく、完全一人で行っているので、私には心配無用かもしれない。


 だけど、とにかく突然の環境の変化には注意しなければと、一応おこがましいとは思いながらも考えた次第なのである。


 今の私のように、あれもこれもで売れない方が、これから先も作品を作り続けていくことができるだろうし、いいものができるだろうな、などと結びたい所ではあるが、これは建前であって本音ではない。


 創作する者は、本能的に売れたいのだ。



 

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