中止

 先日からダンプカーの仕事をしている。


 私は今の会社に、ダンプカーの運転手という括りで採用されており、そのまま今現在に至っている。


 今日は雪が降り、現場の足場が悪いということで、中止の知らせがあった。


 替わりの仕事があるわけでもなく、こうなるとダンプカーの運転手は休みになる。


 日給月給という仕組みだ。


 屋久島にいた頃のとびうお漁師の仕事もそうだったが、天気が悪いと平気で一週間くらい休みになってしまい、その分、稼ぎは悪くなる。


 かといって、一日あたりの稼ぎがいいのかといえば、決してそんなことはない。


 私は今まで、契約はダンプ、仕事は比較的安定しているトレーラーの仕事をしていたのだが、ここへ来てコロナの影響もありトレーラーの仕事が薄くなってしまったため、急遽ダンプに戻ってきた、という感じなのである。


 平日の休みは久しぶりだ。


 朝から銀行の窓口へ行き、事業用口座のインターネットバンキングを申し込もうと思ったのだが、契約に5千円、月々の運用にも数千円の費用がかかると言われたので帰ってきた。


 家に帰れば、私の家の前に見慣れぬ車が停まっている。カミサンが「10時半から訪問看護来るって」と言っていたのは覚えているのだが、時間が変わったのだろうか。


 車をカミサンの駐車場に停めて歩いて帰ってくると、ヤクルトの車だった。重度の糖尿病なのに、毎日ヤクルトを飲んで、いろいろな食料品をヤクルトさんからも買い込んでいる義父。ご担当の方は、はじめは自転車だったが、少しすると電気自動車になり、今ではぴかぴかの軽自動車になってしまった。義父の年金がヤクルトレディーの職場環境と生活の向上に一役買っているならいいんじゃないかと、最近では前向きに考えることができるようになってきた。


 ヤクルトといえば、昨日妻が大きな病院に行った際、数メーター離れた所にいたヤクルト販売の台車から考えられないような「破裂音」がして、妻は耳鳴りが酷くなってしまったのだという。リチウムイオン電池か何かが破裂、爆発したような、凄まじい破裂系の爆発音がフロアに響いたというのだが、これは何だったのだろう。妻はがんばって病院に行ってきたのに、耳の調子が悪くなってしまったと嘆いており、可哀想になってしまった。


 台所で、久しぶりに平日朝のコーヒーをネルドリップで淹れていたところ、義父が朝食の洗い物を持ってやってきて、午前中に訪問看護が来るのでストーブを貸してくれと言う。妻はこういうことを言われると激怒するのだが、私は怒っても仕方ないので、はいはいわかりましたと返事をし、ストーブを彼のベッドのある部屋まで運んであげた。


 さて、パソコンの仕事でもしようと部屋に戻り、パソコンが立ち上がるまでの時間にインスタグラムを見ていると、オンラインの方が何人かいらっしゃった。こんな時間に優雅にインスタグラムができるのはうらやましい限りだが、卑屈になることなく、私もがんばって平日の午前中の朝早い時間から自由な時間を楽しめるように頑張りましょうと、今日は前向きになることができた。


 天気の悪い午前中、部屋に篭もってこうしてパソコンを見ていると、屋久島にいた頃を思い出す。漁が中止になった朝、港から帰ってキャンピングカーの中でノートパソコンを開き、見よう見まねでホームページを作ったり、高い通信料と接続料金にもめげず、その可能性を信じて、いろいろなことに取り組んでいたあの頃。


 結果として結婚もできて、昨日も病気を克服した妻からチョコレートをもらって平和に暮らすことが出来ている。


 きっと今日の中止も、何かいいことをもたらしてくれる伏線であるのだろうと信じたい。


 さあ、仕事をしよう。



 

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