2021 冬

 家では毎朝、石油ストーブを焚くようになった。


 今朝会社に行くと、構内に我が社の荷物を積んでいるとおぼしき10トントラックが卸し待ちで待機していた。後ろに4トントラックも一緒にいた。


 ああ、来てしまった。今年もいよいよタイヤの季節だ。


 屋久島からこちらの宮城県に来て、右も左もわからず、運送会社に就職した。突然雪が降って、私はタイヤチェーンを巻くものだと思っていたが、こちらでは酷く降った翌日朝の凍結時などを除いて、殆どタイヤチェーンを巻くことはない、なんて事がわかるようになるまでに、少し時間がかかった。


 その会社は8ヶ月程で退職し、荷下ろしが楽だからと、タンクローリーの仕事をはじめたのだが、これがまた、いい意味でも悪い意味でも面白かった。


 はじめは重油の配送で、毎日毎日、お隣山形県へと重油を積んで走った。宮城県は殆ど雪が降らないが、山形県は全くの別世界で、11月の終わりくらいになると雪が降ってくる。


 米沢、尾花沢、新庄などの豪雪地帯も配送地域になっていて、この仕事を通して大型トラックと雪の関係を、それこそ身体で勉強した。


 この会社では、入社当初は運転手達がスタッドレスタイヤへの組換えと取り付けをしていたが、数年すると外注化が実現し、運転手は殆どタイヤ交換作業に携わることがなくなった。予約を取って、契約先のタイヤショップへ行くと、コーヒーをごちそうになっている間に、タイヤ交換が完了するようになった。この会社は山形が本社の大きな会社だった。


 今いる会社は、冬タイヤへの履き替えを、全て運転手が行う。外して、剥いて、組んで、空気を入れて、取り付けて、と、この作業をタイヤの本数分行う。


 重量物を扱っているトラックなので、本数が多い。


 私の担当車はヘッドだけだと6本だが、これは少ない方で、殆どのトラック、ヘッドは、10本ある。単車の四軸だと12本もある。あわせて引っ張っている台車と呼ばれる部分には12本ある。


 これを全て履き替えるのが、年末の恒例作業となっているが、かなり大変なのだ。


 作業は、会社が段取りしてくれる訳でもない。


 仕事の合間、ピットが開いていたら突入し、作業にかかる。


 何時までかかったって、残業手当などは出ない。


 これが中小運送会社の現実なのだ。



 私が出勤するのと同じくらいに、社長と配車係がやってきて、タイヤを倉庫へおろしはじめた。そこそこの規模の倉庫や設備はあるので、それだけは救いかもしれない。


 私は50代半ばだが、来年70になろうかというような方も、この作業を黙々とこなしている。世の中には一日在籍しただけで100万円貰える人がいる一方で、大型のタイヤ10本を一人で交換しても、作業手当が貰えない人たちもいる。


 何があろうとも冬はやってくる。私達はこの会社の運転手である以上は、大型車のタイヤ交換をしなければならない。私はある程度のわがままを聞いてもらっているので、それで相殺している。文句を言ったところで、何もはじまらないのだ。


 今年もがんばろう。



 

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