父
「電話したか?」
実家の父が電話をかけてきた。用事が無いのに息子に電話をするのが憚られるのか、着信があったことを装ってかけてくるようだ。
用事が無ければすぐにあっさりと電話を切る父だが、珍しく一人で喋りはじめた。
聞けば、母の調子があまり良くないらしい。
最近は買い物にも行けず、父が近くのスーパーでパンを買ってきて、食べさせているという。食べると元気になるが、また少しすると調子が悪くなってしまう。
ここ20年位の様子では、どう見ても父の方が調子が悪く、母はそれを介護するような感じだった。よくよく観察してみると、父は症状がそれ程でもないのに、かなりそれを気にして医者にかかり、何種類もの薬を服用している感じがする。例えば、寝汗が酷いと医者にかかり、何でもないですよ、様子を見ましょう、と言われて帰ってくると言うような。
一方母は気が強く、滅多なことでは弱みを見せない。しかし、80も半ばになり、自分勝手な父の長年の世話疲れもあってか、ここ最近では怒りっぽくなったり、膝の痛みが酷くなったりしていたようだ。私達と会うのをいつも楽しみにしてくれていたが、それもコロナで叶わなくなり、症状の悪化に追い打ちをかけてしまったのかもしれない。
「アタシは貯金がこれだけあって、これこれだから…」
などと、父曰く、今までは決して口にしなかったような「おかしな事」も言い出しているという。
「何とかがんばるからよ。俺がやるしかねぇからな。」
私達を育てていた時は毎晩大酒を飲み、尖っていた父も、さすがに昔の元気はない。
「大変だけどな。仕方ねぇんだ…」
こんな事、父は一度も口にしたことはない。
コロナでなければ、今日にでも車を飛ばして話を聞きに行ってあげたい。カミサンのこともあるので、万が一を考えてしまうと、それもできない。
昭和9年生まれの父と、昭和10年生まれの母。自然の摂理で、戦争を知っている世代はだんだんと減ってきている。
頑張って長生きして欲しい。
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