誕生日

 昨日はカミサンの誕生日だった。


 病気をしてしまったので、何もしなくていいと言われていた。



 しかしである。



 「明日誕生日だからね。忘れてると思うけど」


 人間みな、本音と建前の生き物のようだ。



 一昨日の夜言われ、何も準備していないのがバレバレだった。こんな状況だから、何か元気の出る事をしてあげねばならない。


 いつもの寝袋に入り、「近くのケーキ屋さん」と、スマホに話しかけてみた。かつて美味しいケーキ屋さんが近くにあったのだが廃業してしまったので、美味しいケーキ屋さんにはそれ以来縁がない。時間がないので、ケーキでお祝いしましょう、ということを企んだ。


 通勤で通る道の近くに、美味しそうなケーキ屋さんがあった。口コミが40あり、星は満点だ。これにしようじゃないか。


 あれこれ考えていたら少しの間眠れなかったが、知らぬ間に眠っていたようで、気が付くと目覚ましが鳴っていた。


 起き抜けに画面をもう一度出し、電話番号をメモして、出勤した。


 

 仕事が珍しく忙しかったので、電話をするタイミングが取りずらかったが、開店直後の10時20分位に電話することができた。


「ケーキ屋さんでしょうか?」

「カミサンが誕生日で、小さな丸いケーキを贈りたいんですけど」

「夏に病気をしてしまって、励ましたい、ってのもあって」

「いつもありがとう、がんばろうね、ってお願いします」

「それと、シュークリームとモンブランとショートケーキと、もう一つ、かわいくて綺麗なやつも入れて下さい」


 トラックを運転しながら、こんな事をお願いしてみた。

 お店の人は誠実そうな落ち着いた感じの女性で、こちらの話を聞いてくれ、きちんと対応してくれた。


 一人で一方的に話してしまったが、何だかとても小っ恥ずかしかった。


 

 仕事は予定通りに終わり、ケーキ屋さんにケーキを取りに行った。

 お店の方はカミサンの病気を心配してくれ、有り難かった。


 カミサンはとても喜んでくれた。一時は体力が劇的に低下し、本当に死んでしまうんじゃないかと隣で見ていて思ったが、今はおかげさまで、順調に回復している。


 まだ、ひどい耳鳴りがしたり、目がよく見えなかったりするのかもしれないが、何とか普通に生活し、仕事に行けるまでに回復することができている。本当によかった。来週に子宮頸がんの手術が控えているが、何とか頑張って欲しい。



 今はネットで何でも買える時代だけれど、電話をしたり、実際にお店に行って、話をしながら商品を受け取ったり、店の中で仕事をしている人から笑顔をもらったりというのは、今までは何も感じなかったけれど、こうなってみると、実は何にも代えがたい、人間として生きている事が実感できる素晴らしいひとときなのだな、ということを、改めて思い知らされた。



 ケーキは甘さ控えめで、スポンジもクリームもとても美味しかった。


 これからもこのお店を利用して行こうと思う。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る