こわいもの

 午前中の早い時間、携帯に着信があった。トラックとスマホはあまり相性が良くないのか、振動でスマホが何度か壊れたので、今は振動対策で厳重に梱包し、スマホはカバンの中に入れたままだ。大体、決まった時間に決まった部所からの電話しかないので、誰からかを確認しないまま電話に出ることが殆どだ。今日もそうだった。


 「あの、モノタロウの荷物配達の、〇〇運送のドライバーなんですが…」

 そういえば、先日注文した車整備の工具類を、昨日出荷したとメールが来ていた。ヤマトさんや佐川さん、日本郵便さんがいつもいらっしゃるのだが、今回はいつもと違う会社だった。我が家はカミサンの実家に私が入ってきた、いわゆるマスオさん状態なので、初めての配達の人にはわかりずらいのかもしれない。いつかカミサンがどこかの軽自動車でやってきた配達の人に「表札がないからわからない」と言われたので、今は二つの性をパネルで表示している。


 モノタロウの荷物には、屋号が印刷されてくる。これだって、Google map には表示されているし、ポストには屋号の入った名刺を貼り付けてあるから大丈夫だろう。引っ越してきた当初や、個人事業主で開業してすぐの頃は、いろいろと気を遣ったが、今は大抵の方はきちんと持ってきてくれる。


 今日は留守になるのがわかっていたので、荷物は玄関の扉の下に置いて下さいとメモをし、ハンコを吊しておいた。大丈夫だと思ったのだが、何だろう?


 「お届け先は大丈夫なんですが、ハチがたくさん…」


 電話越しの声は若い青年だったが、藤の花に飛んできているハチが怖くて、門扉から中に入れないらしい。


 「あー、それね、大丈夫だよ。その蜂は刺さないから、玄関入って、置いといて。ドアの横にメモ書いといたから」


 私はもう慣れてしまっているし、写真や動画を撮ったりして毎日こいつらと遊んでいるので、何とも感じないが、やはり新規ゲストさんには怖いのかもしれない。クマバチ、地方によってはクマンバチという蜂で、慣れなければ怖いんだろうな、と思った。


 大きい個体は指の関節一つ分くらいの大きさがあるし、飛んでいるときは独特の音がするし、縄張り意識が強いのか、ホバリングをしながら、威嚇してくるし、まあ、普通に考えれば怖いだろう。多いときには、こいつらが10匹以上、我が家の庭を飛び回っている。


 ちなみに威嚇してくるのはオスで、オスは針をもっていないので、人を刺すことはない。メスは針を持っているが、よっぽどの事がない限り刺さないし、仮に刺されたとしても、スズメバチのような強い毒ではないので、重症化することはない。


 電話では、あんなことを言ってしまったけれど、配達の彼は大丈夫かな?と、電話を切ってからしばらくの間心配だった。スマホには電話番号が表示されていたが、折り返し連絡をするのも何だしな…。門扉を開けて庭に入るのが怖かったのだから、門扉の外の駐車場において下さいと頼めばよかったかな…。あれこれと心配してしまったが、結局、配達で忙しいだろうから、電話はしなかった。


 仕事を終え家に着くと、相変わらず、コロコロのクマンバチが、藤棚に沢山いる。私が門扉を開けて庭に入ると、すかさず、ホバリングで威嚇してきた。黒い物が好きなようで、私の髪の毛をかすめるように飛び、音はもちろん、羽根を羽ばたかせている風も、顔に感じた。


 荷物は玄関の中の靴箱の上にあった。


 パートから帰ったカミサンが中に入れてくれたのだろう。


 こりゃ、大丈夫じゃない。誰だって怖いわな。申し訳なかった。


 「配達してくれて、どうもありがとう」


 心の中で感謝の言葉を述べると共に、怖さへの配慮が足りなかったことを謝った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る