藤の花

 我が家の庭にはいろいろな庭木があり、その中に藤の木がある。親戚の器用なおじさんが、後から藤棚を作ってくれたようだ。昭和53年、東日本大震災のもっと前、宮城県沖地震の年にこの家は作られたと聞く。余談もはなはだしいが、私の愛車、トヨタランドクルーザーのヨンマル君も、同じ年に製造されている。


 毎年春になると、この藤が綺麗に咲く。どこからともなく丸っこい大きな可愛い蜂達、ぶんぶん丸(カミサン命名)がやってきて、独特の飛行音を轟かせながら蜜を吸ったり、庭をホバリングしたりしている。スズメバチとかだとちょっと怖いけれど、こいつらはずんぐりむっくりで、コロコロしていて、私たちには危害を加えないので、毎年話しかけたり、撮影をさせてもらったりして遊んでいる。私はこちらには人間の友達が殆どいないけれど、この蜂達はカミサンの次くらいに位置する関係、家族の一員だ。


 毎年相変わらずの「インチキ剪定」を施しているので、咲き具合が微妙に違う。また、藤の特性として、庭全体に根を張り巡らせるので、あっちこっちから蔓が生えてきて、手入れがかなり、いや、とんでもなく大変だ。去年は少し寂しい気がしたが、今年はかなり立派に花を咲かせている。私も文明の利器スマホを手にし、カメラの使い方を覚えたので、蜂が飛んでいる所の動画や写真を撮ったりして楽しんでいる。小遣い稼ぎにと、性懲りもなく外国人向け動画なども配信してみたが、成果はご愛敬の域を脱しない。


 毎年庭をきれいにしたり、家庭菜園をしたりしているが、今年はまだスタートを切れていない。車の調子が悪く、この整備に休日の時間が取られてしまっている。藤の花が咲いたので、そろそろ始めなければなと思っている。


 義父は週に三日デイサービスを利用しており、施設の職員さんが玄関口まで送迎してくれる。職員さんは女性が二人と、運転手兼介護士のおじさんが一人。おじさんは運転なのでいつもいらっしゃり、女性は入れ替わりでお一人がいらっしゃる。女性の一人は背が高く、いろいろと話しかけてくれる方、カフカさんと、もう一人は、背がカフカさんに比べれば低く、比較的穏やかな方だ。カフカさんはシシドカフカに似ているとかで、カミサンがまた、こんな名前をつけてしまった。もちろん私とカミサンの間でしか通じない。これまた申し訳ない。


 先日は、カフカさんじゃない方の方が、義父を自宅の玄関まで送り届けてくれた。普段は口数少ないその方が、何とうちの藤の花に反応してくれた。


「藤の花綺麗ですね。写真撮っていいですか?」


 そうカミサンに聞くと、義父は機嫌が良くなり、場が和んだ。カフカさんじゃない方のその方は、義父を送り届け、仕事を全うした後、自分のスマホでうちの藤の花を三枚ほど撮影して、送迎車に戻って行った。


 介護の仕事も大変だろう。


 少しでもうちの花が役に立てたのなら嬉しい限りである。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る