強い風

 朝起きると体中が痛い。


 そういえば昨日、トラックのオイル交換をしたのを思い出した。


 今のトラックには、排気ガスを自らで処理する装置がついている。その装置が作動する間隔が短くなってきたので、とりあえずオイルとエレメントを取り換えてみたのだった。


 私がお世話になっている会社には、オイル交換専用のピットがあり、廃オイルの処理などはしなくて済む。かつてのタンクローリーの会社では、廃油を廃油用のドラム缶に移すだけで体中がオイルだらけになり、慣れるまで苦労した。

 

 オイル交換やタイヤ交換は、運転手への負担を考え、完全外注化している会社も多い。併設の工場で行ってくれる会社もある。我が社は工場こそあれど運転手が行う。屋根付きのピットがあり、そのための設備は充実している。


 下回りのネジがなかなか緩まずに苦労した。渾身の力を込めてメガネレンチを回すが、全く動く気配がない。30代なら緩むまで頑張っただろうが、筋肉も衰えかけてきた私は工場長に相談に行った。


 工場長が貸してくれた道具を使うと、簡単にネジが回った。


 というわけで、それ程力んだわけでもないのだが、身体が痛い。次の日に出るってことは、まだいいのかと、自分を慰める。


 まだ夜も明けぬ中新聞を取りに行くと、強い風が吹いている。身体にまとわりつくような湿度の中、虫の鳴き声はかき消され、庭の木々が音を立てて揺れている。


 そういえば、台風が来ていたんだ。珍しく東側から回り込んでくる進路で、その影響だなと思った。


 筋肉痛の身体に、台風の風がしみる。


 屋久島にいた頃はとびうおの漁師をしており、毎日網やロープを引っ張っていた。身体にはそれなりのダメージがあったが、屋久島の強い雨に打たれたり、風に吹かれたり、雄大な景色を見ながら漁をしていると、とても気持ちが良かった。



 20年なんてあっという間だ。


 今日もしっかりと生きねばなと、風に吹かれながら思った。


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