「秋山が立たされた理由」欄のある学級日誌 25冊目📴

如月 仁成

予告編 アザミのせい


 ~ 九月二十四日(火) 桎梏 ~


  アザミの花言葉 安心



「ほっちゃん、週末の準備できたの? …………呆れた。一時間前とまったく同じ姿勢のまま何をボケっとしてるのよ」


「えっとね? 考えてたの」


「右手に持ったBTB溶液は絶対にいらないって教えてあげたじゃない」


「そうじゃなくてね? 何かを約束したはずなの。それを思い出そうとしてたの」


「……誰と?」


「それも忘れちったの」


「あんた、道久君に頼れば安心だからって、何も覚える気無いんじゃない?」


「安心は危険?」


「頭は使わないとどんどん劣化するわよ?」


「ふーん。……それより、何を約束したの?」


「道久君に聞きなさい。ママは知らないわよ」


「でも、なんか忘れたの」


「後になさいな。あんた、忙しいでしょうに」


「…………なんで忙しいんだっけ」


「ちょっとあんた」


「なんでカバン広げてるんだっけ?」


「重症だわ」


「あれ? もうこんな時間なの。あたし、なにやってた?」


「……まさか、『今まで何かを忘れてた』ことも忘れたの?」


「なにそれ。哲学?」


「医学だと思うわ」


「じゃあ、何かを忘れてたことを忘れたのを忘れる前に、忘れないように教えて欲しいの」



 すっ


 こくり


 とことことこ


 かちゃ


 とことことこ


 ぴんぽーん



「どうしました?」


「おかしな質問なの。何しに来たのか道久君が知らないのにあたしが知ってるわけないの」


「…………帰れ」



 こうしていつものように。


 穂咲介護の一ヶ月が幕を開けるのでした。



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