竜神様とネネ

沖田

ネネは人身御供

 ある辺境の集落では、雨が降らずに作物が実らず人々は毎日を暮らすのに精一杯の暮らしをしていた。


 このままでは、飢えで死んでしまうと考えた人々は小さな少女を湖に住まう竜神様に貢ぎ物として差し出し、対価として雨を降らしてもらうことにした。


 少女は、孤児であった。

 濡れ羽色ぬればいろの髪と瞳をもつその少女は、集落での‘‘イラナイモノ’’として扱われていた。


「おい、おまえさん竜神様の嫁さんになってくれるだろう?」

 集落の中央に位置する、高床式の家集落一大きな家に呼ばれたネネはよわい七十にもなろうという骨と皮しかない老婆にそう声を掛けられた。

「嫁さん……とはっ?」

 唐突にかけられた言葉にネネは、狼狽し手のひらがじっとりと湿っていくのを感じた。

深山みやまにある湖に身を投げて、竜神様のご加護をうけたまわってきて欲しい。今まで、孤児であるおまえを育ててきた私等に恩を仇で返す真似はしないように」

 ジロリと老婆は、刺すような鋭い視線を向けた。


 ネネは、もとより逃げる気など微塵もなかった。集落でイラナイモノとして生きてきたネネには、役に立つことが己にもあったことを誇らしく感じ、満面の笑みを浮かべた。


「オババ様っ、慎んでつとめさせていただきたく存じます」

 ネネは、深く深く頭を下げた。

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