〈マッスル22〉 もはや何の小説なのか?

 何だか胸騒ぎがする。ハッキリと聞こえた「首」と言うワード。首ポロ様の伝説が頭を過る。


 まさかね……?


 亜房先生が……。


 この屋敷の入口の正面に階段があった筈。そこから2階へ行こう。


 私と夏井さんは、廊下を走った。


 走った跡がひび割れていく。脆い。まるで、亜房先生の上を走っているかの様な感覚……。きっと、亜房先生の足を踏みつけたら骨折する。それと同じだ。


 変な妄想を繰り広げている内に、私達は階段まで辿り着いた。


「萌ちゃん、階段は気をつけてね……!」


「うん……!」


 気をつけたつもりだったんだけど、体が自然と力んでしまっていたらしい。私が足を踏み下ろした所から、階段が崩壊を始める。


 いけない……! 止まったら、落ちてしまう。


「か、階段が……! 萌ちゃん……頑張って……!」


 夏井さんは、一階へポツンと取り残されてしまった。私が階段を壊してしまったばかりに……。


 私は、落下しないように全力で駆け上った。


 あと一段……!


 しかし、やっと上まで辿り着くと思ったのに、これまでにないレベルで階段が崩れ落ちた。


「萌ちゃん……!」


 夏井さんが、ここまでで一番大きな声で私の名を呼ぶ。私は、なんとか二階の廊下の淵へとしがみついた。宙ぶらりんの状態だ。


 頑張れ私……!


 落ちたらダメだ。上腕二頭筋から広背筋まで、必要な筋肉をしっかり意識する。さっき少し食べたブロッコリーの栄養も味方につけ、私は最後の力を振り絞った。


「筋肉は……正義ッ!」


 そして、なんとか2階へとよじ登る。


「萌ちゃん、凄い……!」


「ハァ……ハァ……亜房先生の所へ行ってきます……!」


 私は、一人で行動する事になってしまった。しかし、恐怖はない。可愛い亜房先生を一人にする事の方が、私にとっては恐怖だった。彼を一人になんて出来ない。


 2階にある部屋を片っ端から確認していく。


 亜房先生がいる部屋はどこなんだろ? 広くて迷いそうだ。


 だけどそんな中、とうとう中から鍵がしまってある部屋を見つけた。ここに違いない。ここに亜房先生が……。

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