第2話「白夜行」
翌日、俺は事務処理に追われていた。見積書を作っていたのだが追加工事が入り、その追加分を作っていた。
今日は珍しく仕事があるなぁ。。。
普段は信じられないほど仕事がない。やる事といえば、見積書の作成、職人達がとってきた写真を俺が編集し報告書にしてPDFにし、取引先にメールするという作業だ。無論、誰が取ってきた写真なのかフォルダわけもするという作業もある。
これが意外にもしんどかった。写真といっても十数枚のものを報告書にするから簡単だと思いがちだが、必要な写真は50枚とったら、40枚前後をコマ割りし横に説明書きをすること。
少なくてこれぐらいだ。多いときは、三桁である。
このコマ割りと文章を作るのが一貫して話が続けて4コマのような流れで理解できるようにしなきゃいけないのと同時に、同業者にバカにされないような文章校正をしなくてはならないのが条件で出てくる。
異業種転職というのもあって、最初はよくわからない単語が出てくるけれど、写真付きで覚えられるから勤め初めだけ苦労した。今となっては簡単な作業になってきている。
見積書に関しては、修繕箇所に必要な部材を見つけて、型番と工事方法を記載していくというものだ。内装復旧工事やらなにやらを記載する作業でもある。
そんな事務所に“引きこもり事務所警備員”も兼ねている俺も現場に出て写真を撮ることがある。
その際には同じように写真をたくさん撮るようにした。結果的に余分がある方が編集する際に不自由にならないということがわかった。だから、写真は多く撮ってくる。
無論、社長と俺と幾人かの職人がいるごくありふれた工務店だ。町の工務店にも高齢化が進んでいる。これは実はすごく深刻なのだ。例えば、町の商店街が廃れていく一つの要因はたしかに大型複合スーパーの乱立により、価格帯の低下による価格競争に小売店は負けてしまうのだ。その問題をクリアしたとしても、次に跡継ぎ問題にもなってきているのが、今の現状である。
ウチの会社も他人事ではない。しかし俺は現場での作業方法知らんし、事務職での採用だからという理由で現場にはあまり出ない。これがいいか悪いかの議論はまた別次元の話になるので、またどこかの機会に話すとしよう。
さて、そうこうしているうちに、報告書と見積書を合わせて完成した。
これをメールして、コピーを取って社長BOXに入れておく。基本、社長はパソコンが使えない。
報告書も俺が清書している部分もあるが、大半は俺が構成し作成している。
各取引先に見積書や発注を送った用紙を電子データ化をしたあと、原本となる用紙を社長BOXにいれるのだ。
戸締りをしたのち、俺は帰路についた。
VCはやんややんやとうちのギルドでは今日も盛況だ。
いうのを忘れていたが、我がギルド名は“オケアノス”海オーシャンの由来である名前をつけた。命名した理由は戒めでもある。
“井の中の蛙大海を知らず”
狭い世界に囚われていると物事がよく見えない。より大きな視点で物事を見渡すことが良い
これが本来の意味するものである。
どのゲームでもそうだが、ある程度強くなると現実世界でもそうだが、天狗になるヤツがいる。特にゲームの世界ではその出現が顕著である。それを見て、上を見れば限りがないのに一時の感情と欲望で相手のマウントを取ることの快楽に溺れ、その後、時がたった時に自分にその火の粉が掛った時、当人は何も言えないのだ。そんな惨めな思いをし無理やり己を正当化したときの滑稽さはどのブラックジョークよりも笑えてそして、哀れだと思えてしまう。
俺はそう感じているので、戒めとしてまだまだ世の中には強いプレイヤーがいる。己を磨く努力は怠ってはいけないと思い、この中にある大海(オーシャン)をテーマにつけた。
無論、大きいのは宇宙なのだが、それだとスペースとか、ギャラクシーとかせっかく響きがカッコイイ言葉が安く感じ取れてしまうので、この際、中世背景を壊さない神話のオケアノスとさせてもらった。
常々、セイメイなのに?東洋なのに?という言葉を聞くが、ギルドメンバーの大半が中世時代の設定キャラデザインなので、そこは自分のテイストは置いとくようにしている。
補足として、この故事には付け足された続きがつけられている。
されど空の深さ(青さ)を知る
これもまた考えさせられる言葉でもある。そして、この故事の付け文句は汎用性があり、相反する言葉が散見され議論されている。『こっちにはこっちの価値観で捉えているんだ。さも知った風なことをいうな!』とか、個を主張する者もいる。果たしてそれが正しいのか?湾曲した・穿った考え方ではないのか?現代の価値観では考えさせられる部分ではあるが、さきほど述べたニュートラルな状態で受け止めた通りに、己を律して純粋に強さを求めて良識をもっていけるようにありたいし、共感できる仲間が増えると喜べるようにしたいと思う。
オチとして、最終的に一番知恵のあるものは誰になるんだという考え方が出てくる。
それは「自分が無知である事を知っている者である」byソクラテス
そして、知をつけ、結果をだし、人から愛される人間になるには、
実るほど頭を垂れる稲穂かな
実れるほどの人物でありたいものです。腐りつつある自分に言い聞かせてはいるものの、伴わないのがなんとももどかしい。
ゲームにログインし、チャットとVCで挨拶を終えた瞬間飛び込んできたのは、ユーグだった。
「マスター!昨日レベル上がったし、レアドロ引いたよ!」
「おお!まじか!何拾ったの??」
「ユニコーンの角!」
「おお!!俺もこれ加工して指輪にして装備してるけど、ユーグの段階で手に入ったなら、攻撃力のパラメータ+15くらいあがったんじゃないか?」
「手に入れた後、速攻で加工して装備した!www」
ソロモンが笑いながら割ってはいってきた。
「いやぁまさか手に入れるとはねwランダムPOPでユニコーンが出現したフィールドアナウンスが入ったからねぇ。急いで探してさ、みつけるやいなや、角めがけて突進するんだもんwww」
「ユーグの攻撃力じゃきつかったんじゃないのか?」と俺は少し焦ったが、その動揺は次の言葉で片づけられた。
「俺が慌てて、コンセントレーション(攻撃力上昇魔法)とクイックタイム(攻撃速度UP魔法)をユーグに即座にかけてやったわ!」
「あれはありがたかっす!」とユーグは嬉しそうにいった。
「あのあとにディアナさんがいってた対モンスター攻撃力UPのエリクサーとクリティカルの実を喉に流し込んで、コンボのあとにオーラアタック入れたんすよ!」
「お?わかってきたじゃん。オーラ使いこなせてきたか!」
※オーラとは、毎秒0.2ずつ蓄積されるもので超必殺技ゲージで使える。誰でも使える魔法である。
「やっぱ、フィニッシュはオーラアタックのアルカ・スラッシュですよね!!」
「そうだな。クラスUPすれば、騎士になれるから騎士クラスは“オムニ・スラッシュ”出せるしな!同じコマンドで名前と威力とエフェクトが変わるだけだからたのしめるよね!」
そう俺がいうと、ユーグは誇らしげに踊り嬉しさを表現をした。
さて、今日は、オーガ討伐+ゴブリン討伐のギルドクエストだ。
さきほどのユニコーンが出た時のようにオーガが出る。ゴブリンを討伐しつつ、オーガがでればオーガを狙うというものだ。今回のレアアイテムはギルドで活動するクエスト上での品物扱いになり、ギルドマスターの採決で販売し、資金はギルド帳簿に記載されギルド資金になる。
ただ、ユニコーンとは違い、オーガは狂暴でなおかつ攻撃力が高く半端な…失敬!成長中冒険者は即死レベルだ。無論、防御力も高いため、武器の劣化も半端なくえぐられる。
ディアナも帰ってきた。
「ユーグやったじゃんか!!今日は活躍してくれよな!」
「ディアナさん、今までの自分じゃないっすよ!?見ててください!俺の剣が火を噴くぜ!」
ユーグは得意げに鼻息を荒くいった。
「おまえ、火属性ないぞw」とソロモンが揶揄う
「あ、ディアナ。マリアとその一味はこないらしいぞ?」と俺はディアナに現状を伝える。
「マリア教の皆様は正直期待してないよ。まぁ通知はしてあるからな。効率を上げるには多い方がいいんだがな。」
「まぁそうだな。マリア教wとは上手い事言うなぁw」
「聖マリア様ですから、我々は異教徒扱いでしょうよ?我々エルフ族と異国人のマスターは自然に神がいるというユグドラシル教ですからねぇ~」
「ま、まぁそう不満を漏らすなw」俺はディアナを宥めた。
「フン…。配信者は“拝信者”を生むってわけか?」
今日のディアナのお口は“舌頂”だ。
「さて、今いるメンバーで準備をしとこう!」
「マスター…俺はいつでもいけるぜ!」流れがいいユーグ
「同じくだ。馬の手配もしてある。」ソロモンがいう。
「昨日の段階で準備は終えている。マスターは終わってないのか?」ディアナはちくりという。
「くくくっ…!俺は準備なんかしなくても生活コンテンツの労働者がいつでも作成して倉庫にはいってるんだぜ?いつでも臨戦態勢だ!」
「心配は無用だったな。いくぞ!」とディアナがMAPに目的地への道筋をポインターする。
「おっさき~~!!」と飛び出たのはユーグだった。
「ユーグに先を越されるな!いくぞ!!」
俺らは給料未払いを防ぐため、ギルドクエストの目的地へ馬脚を急がせた。
~ケブネカイゼの氷美林~
ケブネカイゼは極寒の地の設定である。
我々がいた街は、首都アーモロトである。そこより馬を走らせてゲーム時間で2日、往復4日かかる場所にある。ドラゴンを飼いならせれば、一日もかからずいけるのだが、うちはそんな“高級車”はない!!!
北側に位置する土地で山あり谷あり雪国の渓谷であり、ゲームのフィールドによくある地形である。
また、ケブネカイゼの地は海に面している場所はフィヨルド現象が発生したりランダムで海氷が発生や、谷には雲海が発生したりと、プレイヤーを飽きさせない天候設定がなされている。夜になれば、オーロラがかかったり、流星群、白夜だったり、極夜だったりと北欧の自然のイメージがぴったりなエリアだ。これだけを見ていてもちょっとした旅行している気分になれる。至る所が絶景であるのもイーリアスの描写が世界一を謳っているだけの事はある。
ちなみに途中で定期船の船に乗り換えなくてはならない。対岸の港はNPC一人がポツンと立っているだけだ。陸路でいけるのだが、そんな呑気な旅でもないので港町に行くことになっている。
そこの近くの町で宿をとり、作戦会議をすることになっている。
港町は比較的数多くの冒険者や俺たちと同じようにクエストを受けているギルドが数多くいる。
また、海岸沿いの町なので、首都とは違いここを拠点にする冒険者・ギルドも存在する。
ここの港町“ゲフェイオン”は北欧ヨーロッパの良いところ取りした街並みをイメージしているとユーザー同士ではもっぱらの噂だ。俺はヨーロッパの旅行はしたことがないが、一度は行ってみたい。にしても、本当に美しい景観だ。あとで実際の写真をワールドビュアーでみてみよう。
さて道中も後半に差し掛かり、日は陰りを見せていた。森を抜けかけて少し隆起した丘からは港町が遠くに見えている。この山道を抜ければ街につく。
ここらで休憩でもして馬にエサを与えたら、もう一踏ん張りだ。
しかし、旅というのはアクシデントという女性に恋焦がれているのか、そういうイベントを誘発する。
「!!」
ユーグが馬から勢いよく飛び降りて剣を抜いた。
「マスター警戒してください!!プレイヤーが倒れている!!」
ふと、ユーグの乗っていた馬の片隅に人が横たわっていた。
俺は慌てて馬上で弓を出した。
「ディアナ、ソロモン!警戒態勢!!ソロモンは範囲魔法の詠唱!ディアナはタカの目でサーチしてくれ!」
その人を囲むように馬を止める。
「もうやってる!見つからねー!!」ディアナはエルフ専用の長弓を引いて目を凝らしている
「敵対冒険者の可能性は??」
「わからねーけど、可能性はある!こんなとこでPvP(対人戦)なんてやってる暇ねーんだけどなぁ!」
「ソロモン!範囲魔法の発動は即時可能か?」
「おいおいおいワシの詠唱速度はお主が一番よく知っているだろ?」
クソッ!こんなとこで対人狂と遊んでる暇は本当にない!!
ユーグは盾を前に出して防御スキルを発動させ、カウンターを出せる様にしている。
俺の弓はエルフほどの威力はないが、足止めぐらいはできる。
ふと、俺の後ろに氷のような冷気を感じた。
振り向きざまに馬上で刀を抜くと木の上から赤く光る二つ物体をみた。
そして目を凝らし薄っすらと腕に見える刺青。
あの刺青は…!アポカリプスの紋章!
そう、このイーリアスはどこでもPKができ、その分ペナルティも負うがアポカリプスギルドは、そんなペナルティなどものともせず、ただの殺人狂の巣窟だと噂で聞いている。また、対人に特化した職が多く、忍者くノ一はもちろん、上位職のアサシンやバウンサー・魔女に悪魔神官などのデメリットを受けつつも、瞬殺に特化している職業を多く有する上位ギルド。拠点戦や地方の占領戦などでは、大手ギルドと共闘を契約し闇の請負業者と名高いギルドでもある。
俺らが狩場争いでPvPやるとかそういうチャチなもんじゃない。狙われたら最後、プレイヤーがこのゲームをログアウト・最悪の場合、引退まで追い込む。サーバーチャットで煽ったり、地の果てまで探し当ててPKをし続けるというなんとも俺には理解できない行動だ。それと同時に思ったのは、噂を鵜呑みにするユーザー達もそうだが、今はその事実を自分の目の前で、目の当たりにしたような感覚に陥った。
赤い光が瞬きながら俺に語りかける。
「オケアノスのギルマスよ、最近勢いがあるなぁ。俺らのおもちゃリストに入れてやろうか?」と赤い光はにやりと笑いそうに言い放った。
「これはこれはアポカリプスさん、名高いギルドに弱小ギルドのオケアノスを潰して得はあるのかい?」
「得??カッカッカッ!!」赤い光は細めて声高に笑った。
「我々は損得よりも己の衝動がすべて。気に入らなければただ弄び、壊れるまで潰すだけよ!」
「ほう。ではここでの停戦に応じてくれはしないのか?道中急ぎの用事で今回はどうしても外せないのだよ。気分が良いのであれば、気分を壊す気はない。」
「くっくっくっ…!中々頭が回るギルマスだなぁ。俺がお前らギルマス以外すべて瞬殺できると讀んで言っているのか?」
俺はこめかみに汗をかいていた
「情けないがそうだ。今、我々は成長過程のギルドでもある。うちはあなた方に今潰されても潰されなくても経営難なのだ。資金作りにギルドクエストを受けている。これに失敗すれば給料未払いで赤字経営そして、システムの仕様上、潰れていくことも可能性としてある。」
「フハハハハハ!これは面白いギルマスだ!!恥ずかしげもなく、己の恥辱を語るのか!」
赤い光は腹を抱えて笑うような声を上げた。ふとソロモンを見ると片手で別の“何か”をしていた。
「おまえは高い所から見下ろすのが好きなようだ!!バカは高い所を好むというが本当のようだな!!」ディアナは歯を食いしばっていたようだが、我慢しきれず言い返した。赤い光は笑うことをやめ、戦闘態勢をとった。
「おい、エルフ。キサマが俺に勝てると思うのか?雑魚は雑魚らしくヘコヘコしていればいいんだよ!」
と言い放ち、右下から白銀に輝く光を放つ。俺はすかさず、ディアナの前に出る。
「あーすまんな。コイツは少し口が悪い。君のプライドを傷つけるつもりはギルドとしてはない!すまなかった!」
赤い光は輝く光を消した。
「なかなか話のわかるギルマスだな。今回は賢明な判断に免じて許してやる!だが次であったときは、談笑なぞ無しでいくぞ!」
そう言い残すと赤い光はパッと消え、少し離れてある木陰に息を潜めていた数名を連れて黒馬に跨り、走り去っていった。
「マスター、流石っすね!」ユーグは緊張の糸が切れたように息を上げていった。
「よくわかったね?木陰に数名隠れていると!流石、マスター」とソロモンは少し笑っていった。
「ソロモンは知っていたんだろ?だから、グラビティヘイズ(重力魔法)の詠唱を控えに入れてただろ?」と俺は察したことを伝えた。
「ワシのアイコンタクト伝わったんか!さすが、我がマスターよw」と満面の笑みでこっちをみていた。
「今は戦ってる暇はないのに、ディアナが熱くなっちゃうんだもんw」と俺はディアナにつっこんでいう。
「だけど、あそこまでいわなくてもよくないか??あいつ」ディアナはしかめっ面でこちらを睨みつけてきた!
「まぁ…俺らは資金稼ぎが先だ、ディアナ。こういうとき感情に飲まれちゃいかんことくらい、君ほどの人間ならわかるだろう?まぁうちのギルドを思っての反抗だったのはわかるけどなwそれより、倒れたプレイヤーを救おう。」そういうとユーグが慌てて近づき状態の確認をした。
みんな近づき、見てみるとどこにも所属していないプレイヤーのようだ。
どうやら見た目は職業がヴァルキリーのようだ。ヴァルキリーは聖職者である洗礼を受けている設定である。個人のクエストでも♀ヒューマン限定でのヴァルキリークエストをちょこちょことこなしておけば、ヴァルキリーになれる。他職と違い、王国公認の聖メシアにおける熾天使セラフィムの加護を受けているため、街に戻らずともその場で復活できる。ただ、その場合はプレイヤーが聖水を所持しシステム上で使えばいいわけだが、聖水は街のどこにでもある聖堂にいけば貰える。持ち合わせはなかったのか?どうしたものだろう。俺は自分用に用意していた“大いなる聖水”という上位の聖水を飲ませた。
上位聖水は錬金術で聖水と妖精の粉を混ぜて生成するものだ。
初心者はこれが基本であり、最初のマニュアルを終えてすぐに教えてくれる最初のちょっとしたクエストである。無論、大量生産も出来て公正取引委員会の公認の取引所でアイテムの売買などで簡単に手に入れることも可能である。
そうすると彼女は息を吹き返し目を開け、周りを見たあと急に頭を下げはじめた。
「すいません!急に数名に囲われ攻撃を受けて、正義の啓示[ジャスティスエンスラー]を打ったのですが神聖力がレベル的にも装備的にもまだ駆け出しなのでほぼ無効化にされてしまい、このザマです。しかも、聖水使って逃げようとしても囲まれていたので逃げきれず、ダウン状態でぼーっとしてました。」
と、半べそをかきながら話した。
ユーグは照れ笑いしながら言う。
「俺も君と同じ途上のプレイヤーだけど、一人じゃ心細くない?一緒に強くなろうよ!」と勧誘まがいの言葉を入れて話かけた。
「マスターさえ許可をくれれば、この先の道中一人でも多い方が効率いいから一緒にいかないか?」
しかし、彼女は首を横にふった。
「わたしダメなんです。」
「前のギルドが初めてだったんですが、VCでもチャットでもイーリアスの話以外はダメだとか、漫画やアニメ、趣味の話などの雑談もダメだとかルールがあって守れなかったんです。」
ポカーン
…そんなにギルドルールって厳しくするものなのか???急に俺は寒気がした。
落ち着け…落ち着け。VCとかってワイワイやってゲームの話をしながら脱線した話して笑ったり、ディベートに突入したり結果、オチで笑って無意味な会話したりそういうのがゲームのVCじゃなかったのか?もちろん、ゲームの真剣なディスカッションはすべきだと思うが…。それだけしか話せないって窮屈だよな?
俺が色々考えているとディアナがいった。
「そうか。じゃあ仕方ないな。それにうちは今、人を入れられる状況ではないんだよ。」
「そうなの?俺、知らなかった!」とユーグはびっくりしていた。
「ワシらはギルド資金を集めるための旅だっていうのは察していたよ」とソロモンはユーグの肩を叩いた。
彼女はうつむいてじっと話を聞いていた。
そう、ディアナのいっていることはもっともだ。ここで立ち止まっている暇なんてどこにもない。ここから離れて港町に入ってオーガ討伐作戦を立てたい。
でも、楽しめないプレイヤーをみていると一緒に遊んで楽しんでほしい。と純粋に思ってしまう。
俺はお節介なのかもしれない。昔からそうだった。公園でも知らない子がいると話しかけて輪に入れてドロだけで遊んでいたのを古い記憶から呼び起こして童心を思い出していた。
どうやら俺の心は決まっていたようだ。
「君、名前は?俺はセイメイ。オケアノスのギルドマスターだ。」
「わたしの名前はクリス、クリスティーナの方が正式なプレイヤー名です。」
お、おう。聖職者に相応しいというか、在り来たりだけど腹落ちする名前だった。
「やることがないのであれば、一緒にオーガ討伐にいかないか?こいつが倒せれば、君を雇い入れる資金はできるはずだ。ただ、君さえよければの話だがね。」
「…あ、はい。丁度ゴブリン狩りをしに行く予定でしたので、PT(パーティー)狩りなら一緒に行きたいです。」
「じゃあ決まりだ。クエストが終わるまでにギルドに入るかは決めてくれ。」
俺は馬に跨り、手を差し伸べて彼女を後ろに乗せて走った。
夜時間なのに一向に太陽が沈まない薄明状態。今回の天候は概ね晴れているようだ。
宿を取り、一息入れることとしよう。
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