後輩は二塁へ走り去る

古谷茶色

芝岡と鹿島

福岡スパイダース 対 北海道ホエールズ。



一回表。ホエールズの攻撃から始まります。


一番ショート、鹿島。


ピッチャー、上田、第一球投げた!

鹿島。初球から打っていった!

これはショートへのゴロ。

しかし、俊足の鹿島、間に合うか。


判定はセーフ!

鹿島、内野安打。

ホエールズ、先制のランナーが出塁!










「鹿島、さすがだな。」


そう鹿島に声をかけるのは

福岡スパイダース、四番、ファースト芝岡。

高卒四年目。

若手ながら前シーズンから

スパイダースの四番を任されているスラッガーだ。

日本人離れした体格から放たれる

力のあるバッティングでスパイダースを支えている。



「どうもっす。」


芝岡の言葉に素っ気なく返す男は、

たった今、内野安打を決めた鹿島。

高卒三年目。

球界屈指の俊足と

正確なバットコントロールの持ち主。

ホエールズの一番を打っている。

ショートの守備にも定評があり

セカンドの矢部との二遊間は鉄壁と表現される。



芝岡と鹿島は高校の先輩後輩の関係である。

そして

スパイダースとホエールズは近年リーグの首位を争うライバル同士だ。





「あのショートゴロで間に合うなんて信じられん。」

「まあ、芝さんなら無理っすよね。」

「うるせえ。普通は無理だろ。」



プライベートでも仲のいい二人。

チームは違えど

試合中でも会えば多少の会話をする仲だ。



「どうせ盗塁するんだろ。」

芝岡はピッチャーの方向にグラブを構える。


「どうですかね。わかんないっす。」

そう言いつつも、鹿島は大きくリードをとる。



鹿島の盗塁成功率は九割越え。

もちろんピッチャーの上田もファーストの芝岡も警戒する。


ピッチャー上田。一球牽制。



「おっと。」

そう言いつつも鹿島は余裕で一塁に戻ってくる。


「何がおっと、だよ。」

悪態をつきながら芝岡はピッチャーへボールを返す。


ピッチャー上田は相当警戒している。

しかし鹿島はまた大きくリードを取ろうとしている。



「あ、芝さん。」

「なんだよ。」

「知ってますか、芝さん。」

「何がだよ。」

「あ、知らないなら別に…。」


そう言いながら一塁ベースから離れ、リードを取る。


「おい、鹿島。何の話だよ。」


気になっている芝岡を無視するように大きくリードしている。



上田。もう一球牽制。

鹿島、滑り込んで一塁へ。

芝岡も懸命にタッチするが間に合わない。




「おい、鹿島。さっき言いかけたやつなんだよ。」

「あ、いや。うちの母校の…。」

「うん。」

「うちの母校が…。」


ぶつぶつ呟きながらまた大きくリードを取る。


「おい、鹿島。いいから教えろって。」

「あ、えーと…。」




ピッチャー上田。

クイックモーションでバッターに投球。

その瞬間、鹿島は全力で二塁へ。


「あ、おい!鹿島!」


ボールを受けたキャッチャー藤田は二塁へ送球。

しかし、投げようとした頃には鹿島は二塁へ到着。

上田、藤田は唇をかみしめている。


それほどまでに鹿島の足は速いのだ。










「鹿島ぁ。うちの高校がなんだってんだよ。」


芝岡は別の意味で唇をかみしめていた。

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