第46話 綺麗な花には毒がある
「おぉ!」「すごい。」「勝てるんじゃないか!?」
8人の連携による大規模魔法に騎士団が色めき立ち、そこかしこで喜びの声が囁かれた。
だが、レグルスの表情は険しいままだ。
ざわめいていた騎士たちの背筋を悪寒が走る。
「グガァァァアアアアア!!」
土煙の向こうから大気を揺らす咆哮が響き、強烈な暴風が吹いた。
土煙がまるで幕が開くように視界から消える。
そこから現れたのはもちろん、憤怒に瞳を赤く染めたドラゴンと魔物たちである。
騎士たちはこの瞬間、ドラゴンたちに獲物としてロックオンされたのだ。
そして、どちらかの命尽きるまで終わることの許されない戦いが始まった。
「怯(ひる)むなっ!反撃だ!!」
「放てっ!!」
レグルスの頼もしい声が騎士団を鼓舞する。
それに続き、リゲルの攻撃サインが飛んだ。
伊達に国境の警護をする騎士団ではない、動揺していようと実践経験はガラヴァ皇信国随一、一糸乱れぬ動きで魔法を放つ。
特にアダラの魔法は鮮やかだった。
「い・く・わ・よゴルァァアアアア!!」
キュピーーーーン♡
アダラはそのたくましい筋肉を盛り上がらせ、その身を砲台のようにして右手に凝縮した魔法を、魔物たちの頭上へと投げた。
豪速球は魔物たちまで到達すると、花火のように弾けて色とりどりの槍となり降り注ぐ。
そして槍に貫かれた魔物は変色し絶命していった……毒槍だ。
アダラは得意気に上腕二頭筋をモリッとさせて、魔物たちへウインクを投げた。
「んふっ♡綺麗な花には毒があるのよ。」
「続きます!!」
シュンッ!シュンッ!シュシュシュンッ!
アダラの前へリゲルが躍り出る。
姿勢を低くしたリゲルが体を回転させながら得意な風魔法のカマイタチを飛ばしていく。
しかしそのカマイタチは真っ直ぐ飛ぶのではなく、まるで騎士団の庭で戦った時に見た、ベラトリックスの魔法……あの奪われた剣の軌道のように放物線を描き何度も魔物を切り刻んだ。
リゲルは得意気に、仲間へ目線だけで振り向いて微笑を浮かべる。
「早くしないと、私が全て倒してしまいますよ!」
「ぼ、僕だって、魔法ならラーヴァ騎士団 一(イチ)ですから!」
その様子を見ていたルナーが奮起する。
両手を集中するために合わせて、祈るようなポーズをとると、目を開きその両手を離していく。
するとその間に青い炎が生まれ、みるみるうちに輝度を増していく。
ルナーはその炎を、両手でカメハメ波のように撃ち出した。
ゴォォォオオオオ!!
超高温の炎が、魔物を溶かし硝子(ガラス)化させていく。
炎のあとには、魔物の形をした像がいくつも立っていた。
「ふぅー、よしっ!逃げるぞ!!」
自身の魔法にガッツポーズをとったルナーは、騎士にあるまじき台詞をにこやかに言いきった。
ドラゴンと騎士団、互いの姿が見えて数分もたっていないが、たてつづけに放たれた騎士団からの激しい攻撃は確実に魔物を減らしていった。
しかし、魔物たちもやられてばかりでは無い。
足の速い魔物はその突進力を生かして、隊列に突っ込んできた。
何人もの騎士たちが負傷する。
刺のあるもの、角のあるもの、蔓をムチのようにしならせる植物型まで居た。
全く統一性の無い攻撃が雨のように降ってくる。
しかし魔物は、凶暴化により敵味方関係なく魔物同士でも争い攻撃をしあっているのだ。
凶暴化は驚異だが、魔物たちだけなら死力を尽くせば倒せない相手ではないだろう。
そう、魔物たちだけなら。
忘れてはならない存在があった。
個で軍を圧倒する存在、他の魔物たちとは一線を画するもの……ドラゴンである。
「グガァァァアアアアア!!」
シュゥゥゥッ……ギュルルルルルゴォォォオオオオ!!!
ドラゴンがその長い首をグッと前に突きだしてブレス攻撃を放った。
大きく開いた口に光が収束し、その光が轟音と共に放たれ、回転しながらシャワーのように細くわかれていく。
まるでレーザービームのような攻撃が騎士団を襲った。
とっさに騎士団の前に飛び出たレグルスが、大剣をかかげ渾身の力で地面へと振り下ろす。
「っらぁぁあああああ!!!」
ドゴォォォオオオオン!!!
土魔法を融合させた攻撃で、衝撃により割れて隆起した地面が剣山のように固められ、ドラゴンのブレスから騎士団を守る。
「素晴らしいわ、レグルス団長!」
「……どうも。」
シャウラからお誉めの言葉がかかるが、レグルスは視線をドラゴンから外さずに素っ気なく返す。
ドラゴンにとってはこんな攻撃、挨拶みたいなものだろう。
しかも、一撃防いだだけで土壁は崩れてしまったのだ。
「団長、2撃目来ます!」
リゲルの鋭い声に、全員ドラゴンに注目する。
ドラゴンは力を溜めるように肩を怒らせて大きく息を吸い込んでいた。
その光景に、レグルスは冷や汗を流し、シャウラも危機を感じて、騎士たちに叫ぶ。
「総員、防御を固めろ!!私が仕留める!!」
攻撃は最大の防御とは誰が言った言葉か、シャウラは防御を他に任せ、自身最高の一撃を放とうと、腰に差したレイピアを構えた。
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