第32話 本格始動


ラーヴァの街に来て1ヶ月ほど経つ。


俺はシリウスの指導で、無事に2級調査官になった!

驚いた事に、ベラトリックスはさっさと一人で2級になっていた。単独行動が多いなぁとは思っていたが……まさか、先を越されていたなんて!


アルタイルとスピカは、RENSAのために宇宙の研究を始めたようだった。


ちょうど良いので、スピカに宇宙食の研究をお願いした。フリーズドライの話などをすると、その日のおやつから、かき氷にフルーツが乗るようになった。練習しているようだ。


アルタイルには無重力の話や、宇宙には空気がないと言う話をした。特に『真空』という状態について興味津々のようだった。


そうやって、ラーヴァで楽しく過ごしながらも。

ちゃーんと、科学者探しもやっている。


先日協力を取り付けた騎士団へ、さっそく手配書を見せて貰いにいったのだ。

聖信教から、各街の騎士団へ来た科学者の手配書は3枚。

うち2枚は俺とアルタイルだった。追っ手を気にしていた俺たちからすれば、この情報はとてもありがたかった。


(新しく手配書が届くと言うことは、ベラトリックスの失敗は聖信教までちゃんと伝わってた訳だ。)


予測通りの早さで情報が伝わっていたようだ。電話も無い時代に、かなり優秀な速度ではなかろうか。

基本的に科学者の処刑は、聖信教直属の聖騎士の仕事のようだ。だが、聖騎士だけで国全域をカバーは出来ない。なので騎士団を使うのだ。


レグルス団長が言うには、手配書が届く時はだいたい決まって……手配初期・噂話の確認・逃亡時や所在不明者の捜索……が主だそうだ。

今回は『逃亡』つまり、追っ手の聖騎士は捜索を諦め、騎士団を使った人海戦術に切り替えたという事だ。

ひとまずは、落ち着いて眠れるだろう。


アルタイルと俺の手配書の内容も念のため読んだ。


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『飛行を研究する科学者(異教徒)。

黒髪の男性で、年齢不明。

爆音を響かせ、空飛ぶ乗り物に乗っていたところを目撃される。

モーリ川近郊に隠れ住んでいたが、聖騎士を殺害して逃亡。後述の科学者との二人組。危険度:SS』

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『飛行を研究する科学者(異教徒)。

茶髪の男性、年齢不明。

爆音を響かせ、空飛ぶ乗り物に乗っていたところを目撃される。

モーリ川近郊に隠れ住んでいたが、聖騎士を殺害して逃亡。前述の科学者との二人組。危険度:SS』

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と、言う感じであった、意外にザックリしている。こんな文章で殺されるなんてたまったものじゃない。

むしろ、これだけでベラトリックスはよく俺たちを見つけられたと思う。


そして、この手配書が騎士団に届いた時に、ひと悶着あったのを追記しておこう……。


俺とアルタイル、そしてベラトリックスが手配書が届いたという知らせで騎士団を訪れていた。

団長室に入るとレグルスとリゲルが迎えてくれる。二人は明らかに動揺している様子で手配書を差し出した。


俺たちは不審に思いながら、目を通した手配書に書かれていたのが……『聖騎士を殺害』である。


聖霊が人間を殺した。どうやら以前のルナが言った「聖霊が人間の味方だと無条件に信じている愚かな人間どもよ。」という言葉がなかなか効いているようである。恐怖がレグルスとリゲルから伝わってきた。

これには、アルタイルも苦笑を浮かべている。


「お~い、ベラトリックス……ベラトリックス死んだってよ。」

「へぇ、ベラ死んだ事になったんだぁ!」


その手配書を見たベラトリックスは大興奮である。心なしか嬉しそうだ。


「聖騎士辞めたかったからラッキー♡」


ベラトリックスは喜びで、跳ねている。だっちゅーのポーズまでサービスする喜びようだ。

まさかのご本人登場に、騎士団は戸惑いが隠せないようである。


「はぁ……もう何言われても驚かないと思ってたんだが。」


レグルス団長が机につっぷした。リゲルは脱力で口をポカーンと開けている。


「と、言うわけなので、その聖騎士は生きてるよ。ココにいる。」


俺は半目で隣のベラトリックスを指差す。


「ちょっとぉ!そーゆー事は早く言っといてよね!ヒヤヒヤしたじゃない!!」


アダラは肩を怒らせて詰め寄ってくる。体感温度が5度ほど上がった気がした。

この話を夜にスピカに話したら……。

「私の手配書が無いなんて!」と、暑さで結んでいたポニーテールを振り乱していた。

「え、そこ……?」

スピカの引っ掛かるポイントがおかしい……俺の疑問は間違っていないはずだ。


「決めた!私もっと研究に専念するね。一流の科学者になって指名手配されるの。」


良い子は自分の手配書なんて欲しがらないと思う。なんせ命を狙われるんだぞ?

スピカは、着実に不良への道を進んでいるようだ。

RENSAは段々、闇の組織になりつつあった。これは……コードネームでもつけるべきかな?


話が脱線したので戻そう……そう、3人目の手配書の話だ。

どうやらこちらは噂話系の手配書のようだった。

狩人が森で狩ってきたポーク(豚のような魔物)の腹が縫われていたそうだ。

誰かがポークの腹を縫った。これは、医療行為なのではないか?という訳で、『事実確認&もし科学者なら処刑すべし。』という手配書だ。

こちらは今、我らがRENSAの採用担当……シリウスが調査官として近くの依頼を受けつつ捜査をしている。


「オレは採用担当(・・・・)だからな。行ってくる。」

「気を付けていってらーしゃいっ。」


シリウスは、採用担当というポジションが気に入ったのか、異様に『採用担当』を強調していた。


「あ、そうだシリウス……これ持っていって。」

「ん?ブレスレット、か?」


俺は俺で開発していたものがある。それは通信機だ。


覚えているだろうか、闇の神殿にあった黒い岩!あれは闇の聖霊が作り出せる鉱石で、エネルギーの凝縮体だ。

俺とルナはあの岩を通じて亜空間からこの世界へと来た。

あの闇の鉱石はいわばどこでもドアならぬ、亜空間ドアだ。


俺はそれを使って、電波などを飛ばすのではなく亜空間で距離をショートカットした会話が出来ないか?と言う研究をしていた。そして、出来てしまったのである。

しかも些細ながら人間も亜空間に干渉できるので、小さな物なら亜空間を介して送る事が出来る。


そしてルナと実験をして、魔力の視認が可能な俺とルナしか出来ないが、特定の魔力のみを震わせてテレパシー的な事も可能になった。

音は振動、特定の魔力のみを震わせる事で、その人にだけ音を届ける事ができる。いわば一方通行な暗号通信だ。


これをアクセサリーとして身に付けやすくしてみた。見た目はオシャレな黒い石のアクセサリーである。俺のエネルギーで出来ているので、GPSとまではいかないが……どっち方向にあるかくらいは分かるようになっていた。

後は使いたいときに魔力を流して亜空間に繋げればいい。誰かが魔力をそそげば、亜空間を通して相手のアクセサリーへも魔力が届き通話ができる。


シリウスに使い方をレクチャーし、俺の指輪と通信する。

順応力がディズニープリンセス級のシリウスは、即座に使えるようになり出立した。


この通信機は、RENSAメンバーと騎士団へ1つの、計7つ作ってみた。

今まで手紙か伝令が主だったこの世界に、いきなり無線通信を誕生させてしまったが……闇の聖霊しか生み出せない鉱石を使っているし……文明の進歩にはあまり影響ないだろうと思っている。


スピカへは、ヘアピン。

ベラトリックスへは、ピアスだ。

ルナはイヤリング型で、ウサギ姿になっても大丈夫になっている。

騎士団へは、黒電話をイメージした置き型を渡した。

ペンダント型を渡したアルタイルは、通信機に関心しっぱなしだった。


「零史のいた世界は、恐ろしい程に科学が発展していたのですなぁ。これほどまでの技術と発想……さぞ奪い合いの争いが起きたでしょう。」


そう言って、俺のあげたペンダントを見ながら唸っていた。

俺が、自分がいた国では『ケータイ』というもっと便利なものを一人一台持っていたと教えると、アルタイルは目眩を起こしそうなほど興奮していた。


「それは羨ましい、わしは生まれる世界を間違えたかも知れませんのぉ……!」


ウッキウキでケータイの機能に何があるのか、どうやって使うのか、原理は何かなど……根掘り葉掘り聞かれてしまった。


「ほぉーー!素晴らしい、カメラとは一瞬で絵画が出来るのですな!しかも他人に送れるとは!!ほぉーー!!」


さすが科学者、アルタイルの質問攻めがやんだのは、それから三時間ほど経ってからだった。

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