第11話 突然の訪問者
赤いショートヘアーに黒いマントを着ていた。
俺たちに気づいたのだろう。
赤く透けるような髪を風になびかせ。前髪の隙間から猫のようなワインレッドの目をこちらに向けた。
小柄だとは、思っていたが、どうやら女の子らしい、スピカよりやや高いくらいの身長だ。
体にフィットするタイプの皮の防具を着ている。
マントの隙間から見える腰には、たくさんの小さなシースナイフを吊るしたベルト。
そのナイフは全て赤い素材で出来ているのか、赤く輝いていた。
「あれぇ?どれが科学者だろ?」
(────まずいっ!科学者だとバレてる!)
「もしや、聖騎士か……!!」
アルタイルの叫びに、赤髪の少女がニヤリと笑った。
「んふふ、せぇいかーーい。」
聖騎士とは、科学者を処罰するために派遣される、聖信教の直属の兵士だ。
と言うことは、こいつは俺たちを殺しに来たってことか!?
スピカがとっさに魔法を使おうと構えた所に、もの凄いスピードで赤いシースナイフが飛んでくる。
「ルナッ!!」
「まかせてください。」
「きゃっ!」
間一髪、ルナの防御が間に合う。
引力と量子分解を掛け合わせた、ルナオリジナルのバリアだ。
「その喋る魔物なぁに~?ベラも欲しいぃ。」
薄笑いを張り付かせた聖騎士はナイフが効かないと分かるやいなや、両手に持った大きなファインディングナイフを構えて。
次の瞬間には、俺の真後ろに居た。
背中に鋭い刃が当てられているのが分かる。
まるでお天気の話をしているかのような、軽い調子で俺に話しかけてくる。
「ねぇねぇ、ベラは科学者を殺しに来たんだけどぉ。お兄さんは科学者ですか?」
俺の肩に顔を寄せて、まるですり寄る猫のようなしぐさで問いかける。
スピカとアルタイルは、頭が追い付かないのか驚きに固まっていた。
俺は首だけで後ろを向く。こんな状況じゃなければキスしそうなほど近くに、彼女の顔があった。
ニッコリと三日月のようなカーブを描く目には金の光が浮かんでいる。
「はぁん、お兄さんの魔力とぉっても良い匂いぃ。殺すの勿体ないなぁ。」
「ざんねん、俺、科学者なんだ。」
「ふふっ、あはっ、あははははっ!」
殺気に浮かぶ汗を隠して、強気に言い放つ俺の言葉に。
心底、楽しそうな笑いがかえってくる。
振りかぶる刃が視界の端に見えたと同時に、俺は自分の背後に小さなエネルギー爆発を起こす。
彼女の体が後方へ吹き飛んだ。
空気砲 程度の威力なので、これで倒せるとは思っていない。
「極小之闇(サテライトダーク)」
すかさず、自分の回りに極小のブラックホールを生み出した。
スピカを助けた時に使った技だ。名前をつけた方がイメージをしやすかった。
言わなくても出せるけど、テンションあげるにはちょうどいいのだ。
厨二病だと笑いたきゃ笑えー!
「ルナ、二人をよろしく。」
「もちろんです。」
見た目はウサギだが、この世で一番頼りになる相棒である。
「零史、あの者は……。」
「ああ、悪魔の子みたいだね。」
「零史お兄ちゃん……気を付けてね!」
心配そうなアルタイルと、スピカちゃんの声援に応えねばね!
俺は彼女が吹き飛んだ方向を見る。
「爆発が起きた瞬間に風魔法で相殺し、後方に自分で飛んだようです。」
ルナちゃんの実況に、驚く。
(どんな反射神経してんだよ!)
彼女は傷1つなくにこやかにそこにいた。
「さすが、科学者の使う魔法はフシギだねぇ。
その黒い球(たま)、もしかして1年前の脱走のぉ?あの報告ホントーだったんだぁ♡」
1年前の脱走……もしかしてスピカの事か?
(あの時逃がした兵士たちが報告したってことか。)
自然な動きで投げられたナイフが2本、ブラックホールに拒まれる。
しかもこのナイフ、ブラックホールに触れた瞬間に燃え上がるんだけど、どーゆー魔法がかかってるんだ??
「脱走?さぁ、何の事でしょう、サッパリ。」
笑顔ですっとぼけておいた。これぞ大人の対応。
「ベラねぇ、アナタの事探してたんだぁ~♡」
「なんででしょう。」
話している間も、突き刺さったナイフが地面を凍らせたり、ナイフの軌道が曲がったり、多種多様な攻撃が飛んでくる。
これは、俺の弱点を探ってる?
「だってベラより強そうダカラ……んふふふっゾクゾクしちゃう♡」
絡み付くような視線で、俺を上から下までジーーットリと見てくる。
(変態だーーー!変態がいるぞーー!お巡りさんこいつです!!)
ちょっとサムイボたった!
「殺してイイ?」
「近づかないでください!」
変態!ストーカー!こっちこないで!
まだ出会って数分だけど、もう分かるわ!この子はヤバイ!何がって頭が!?
変態が俺を見てにっこり笑う。
「可愛い♡」
だめだ……こいつには何を言っても通じないんや……きっと宇宙人なんや……じゃなきゃサイコパス。
降り注ぐナイフ攻撃が終わり、彼女は両手のファインディングナイフを握り直して真っ直ぐ突っ込んで来た。
(これをブラックホールで受けて……いやダメだろ、彼女が死んじゃう!いや、殺らなきゃヤられる!!!でも!)
「くっそぉ!!なるよーになれ!!」
俺は地面に向けて右手の人差し指を銃のように構えた。
このポーズが1番イメージしやすい形だ。
そう、彼女が突っ込んでくる地面を中性子のビームで爆破させる!
「中性子弾(ミーティア)!!」
スピカを助けた時より小さな、米粒ほどの中性子ビームでも、威力は爆弾の比ではない。
「なっ!?!?」
彼女は俺の動きに警戒をしめし、すぐさま猫のように体を丸め、衝撃に備えた。
風魔法の相殺では防ぎきれず体が宙に放り投げられる。
「キャァアーーーーー!!」
彼女は天高く打ち上げられた。
俺は追いかけるように地面を蹴って、空中彼女を受け止める。
どうやってかって?
アトムを知っているだろうか?両足からジェット噴射を出して空を飛ぶロボット。
いまの俺は、まさしくアトムだ。
飛行機のエンジン係りでさんざん練習したジェット噴射の技が、俺の単独飛行を可能にさせた。
そして俺の腕の中、いわゆるお姫さま抱っこをしている彼女を覗き込んだ。
「よっと、死んで……ないよね?」
「……んっ、んぅ?」
吹っ飛んだ拍子に気絶しただけのようだ、ゆっくりと目蓋が開く。
「あ!暴れないでね!?今降ろしてあげるからさ!」
暴れて落っこちたら、今度こそ死んじゃうかもしれないと思っての忠告だったが……どうやら変態には必要なかったみたいだ。
何を思ったのか彼女は、スルリと俺の首に腕を巻き付け……
……俺の頬に、キスをした。
「……は??」(なんで?)
「奪われちゃった♡」
(んんんんんんん!!
明らかに奪われたのは俺なんですけど!?!?)
吹き飛ばされておかしくなってしまったのか!?
いや、おかしいのは元々か?
ゆっくりと高度を下げていく。
地面に降り立った瞬間、背筋に悪寒が走った。
ゆっくりと振り返る俺。
「……あ、スピカちゃん。ケガは無い?」
「ねぇ、零史お兄ちゃん……いつまでその人を抱っこしてるのかな?」
スピカの笑顔に恐怖をおぼえる日が来るなんて……思っても見なかった。
因みに、この聖騎士(へんたい)……は、何故か俺の首にぶら下がって離れない。
両手を離してみても、何故か器用に俺に抱きついている。
(わぁ、見たことないくらいスピカが怒ってる。)
「私の零史お兄ちゃんからはーなーれーてー!」
「零史っていうのね♡アナタの魔法……ゾクゾクしちゃった♡」
「ちょっと聞いてるの!?」
「ベラトリックスっていうのぉ♡」
「ちょっと!!!」
「んふふっ、あんまり邪魔すると殺しちゃうわよぉ?ペチャパイちゃん♡」
「なっ!/////うっ、うっぐ。わぁぁん、お兄ちゃぁ~ん!」
「ほら、泣かないでスピカ。
スピカはこれから、大きくなるんだもんなー?」
「ひっく!……お兄ちゃんもやっぱり大きいのが好きなんだぁぁぁ~。」
(じゃぁ何て答えれば良いんだよ!!)
乙女心は理解不能だ。
大丈夫だスピカ、お前はペチャパイではない、ちゃんとある。
巨乳じゃ無いだけだ、強く生きろ。
まだ成長期だし、たくさん牛乳飲も?
くっつき虫と泣き虫に囲まれた俺は、魂の抜けた顔をしているに違いない。
そんな俺の肩にピョーンとルナが乗ってきた。
「零史、アルタイル殿とスピカは私がしっかりと守りました。」
「ルナく~ん!俺の癒し!君は最高の相棒だよぉ。」
ふっかふかのルナに頬擦りをする。
(ルナは俺のオアシスだなぁ。)
零史の見えない所で、ルナは……スピカとベラトリックスの二人に勝ち誇った顔を向けていたのだが、零史はルナの毛並みに夢中だった。
「とりあえず、お前たち。
家に入ってお昼でもいかがかな?」
アルタイルの鶴の一声により、零史は無事ランチにありつけたのである。
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