第9話 RENSA異世界航空宇宙局ここに結成!

そして改めて、3人と1匹は神殿の中にいる。

屋根は無いけど、道の真ん中よりは落ち着いて話が出来るだろう。

ルナは俺の肩に戻ってきている。癒される~。


アルタイルはまた壁だったものに座り、その向かいに俺と少女が並んで座っている。

思い違いじゃなければ……少女の緊張が緩み、少しは俺に心を開いてくれたような気がする。

自ら隣に座ってくれたしね!


「あ、えと。魔力量の話……だっけ?」


まだ少し、女の子を抱き締めた時の照れが残ってるのは許して欲しい。

一生懸命、さっきまでの会話を思い出した俺の問いかけに、ルナが「任せろ!」とばかりに説明してくれる。


「前にも言いましたが、聖信教は人間が作ったものです。

『魔法は聖霊に祈り頼む』というのは真実(しんじつ)ではありません。

魔法は『聖霊の力を再現する能力』です。そのために支払われる対価が、人間の生命力。

つまり『魔力』は、その人間の『生命力』です。体力と同じように、瞬間的に使える量に個人差はありますが。」


その説明にアルタイルが絶句している。


「な、なんと……魔法の対価は命であったのか……。」

「そうです。普通に暮らしていれば、だいたい5、60年で尽きてしまいます。

しかし、過度に魔法を行使したり、急激に使いきれば……それだけ尽きる年齢は早くなります。そして魔力……生命力が尽きると人は死ぬ。」


ルナの言葉を聞き、少女が淡々と言葉をつむぐ。


「死にそうになったら、眠って。回復したらまた魔力を使う。その繰り返し。そして、回復しなくなったら、死ぬ。それだけ……。」

「そんな!!」


アルタイルは、ルナと目の前の少女の言葉に動揺を隠せないようだ。


「つまり、魔力って……使いすぎると、早く命が尽きるってことか。」


俺はアルタイルと違って、魔法への実感がまだ少ないのか、冷静だ。

激しく燃えるロウソクは、早く燃え尽きる。

火の小さなロウソクは、ゆっくり燃え尽きる。

そして悪魔の子のロウソクは長い……と。


「ねぇ、ルナ。俺はどうなの?」

「零史は聖霊です。寿命や生命力という概念はありません。

特に零史はエネルギーを作り出す能力を備えています。尽きる、という事がまずあり得ません。」


「なるほど、俺はブラックホールという永久機関を持っているわけだ。」


中学の頃ハマっていたRPGにこんな魔法があった。

『仲間のMP(マジックポイント)を回復する魔法。』

名前は忘れてしまったが、自分のMPを仲間に与えるというものだ。


「ねぇ、ルナ。俺のエネルギーを生命力として、この子に分けてあげることって出来るかな?」


少女が目を見開いて俺を見る。

初戦闘を白星で飾った俺の頭脳は今、さえわたっているに違いない!

ブラックホール(わたし)の辞書に不可能は無い!


「……魔力を人に分け与えるなんぞ、誰も考えた事がありません。ですが、零史ならきっと出来てしまうのでしょうな。」


アルタイルさんからの信頼を感じる。半分飽きれも?

まだ出会って1日だが、この世界に来て1番最初に出会ったのがこの人だったのは嬉しい奇跡だろう。

そして、この少女に出会ったのも。


「やってみましょう。」


ルナからのGOサインも頂いた俺は、少女を見る。

そして、ゆっくりと両手を差し出した。


「俺さ、実は人間じゃなくて聖霊ってのをやってんだけど、君の事……助けさせてくんない?」


少女が顔をくしゃっと歪めた。


「私……まだ死ななくていいの?」

「もちろん。もうやりたくないことは、しなくていいんだよ。」


両手を差し出したまま、にっこりと笑いかける。


「私……名前が無いの。」

「そっかー、じゃあお兄ちゃんの好きな星で『スピカ』っていうお星さまがあるんだけど、その名前はどお?」


少女がじっと俺を見る。その瞳に俺が写る。


「スピカ……スピカ……。綺麗な名前。」

「気に入った?」

「うん、ありがとう。」


少女はぎこちなく、笑った。

そして少女……スピカは俺の両手に、その小さな両手を乗せた。


瞬間。


ふわりと二人を包む、暖かい光の粒子が……踊った。

まるで星空が落ちてきたような眩しさだ。

俺の手から、螺旋を描いてスピカの中へ。

ふわっとスピカの髪が舞い上がる、くすんでいた水色が、鮮やかに……枯れていた川が、水の流れをとりもどしたかのように。

そして、スピカの目が金色に輝いていた。


スピカはいま、何を思っているんだろう?

これからの人生を?

いままでの人生を?

きっと、両方だ。

俺は……俺のこれからの人生は………。

空を見る。


(うん、俺は大丈夫だ。黒野零史はここに居る。)


やがて光がおさまっていく。

俺は、そわそわとルナに目線を送る。


「……枯渇していた魔力が満たされています。むしろ以前より元気になったかと。」

「そっかー良かったー。」


スピカが安堵からか、涙を流して俺の腹へ突進よろしく抱きついてくる。


「おー元気になったなー、ぐふっ。」


ちょっと力強すぎるくらいスピカは元気になったようだ。


「素晴らしい!素晴らしい!!今日この瞬間に立ち会えたことを、私は誇りに思います。歴史に残る日に違いない!!」


スピカの頭を撫でていた俺をアルタイルさんが拍手で称えてくれる。

こんなに手放しで褒められるのは、悪い気はしない。

そんなに褒めても何も出ないよ~?君ぃ~!


「じゃあ、アルタイルさんも魔力補充しときます?」


俺はにこやかに、アルタイルさんへ両手を差し出した。


この後、アルタイルへ魔力を贈ると、驚きの変化が現れてビックリすることになる。

なんと、アルタイルさんの白い髪と白い髭が……若々しい茶色へと染まっていったのである。

高校生デビューならぬ、お爺ちゃんデビューしてしまった。


髪(かみ)と髭(ひげ)が染まった事で、見た目年齢70歳だったのが、50歳くらいへ若返ってビックリ!


「50歳くらいに見えるよ!」


そしたら、実年齢が53歳って事を知りさらにビックリ……。


(70歳くらいって思っててごめんなさい。)


ガラヴァ皇信国は50歳くらいが平均寿命らしい。

さっきの魔力量の話しもあるし、そのくらいで尽きてしまうのだろう。魔力が。

アルタイルさんは魔力の減りで、髪や髭の色素が抜けてしまったようだ。

白髪染めすると若返った感じと似てる。


そして減った分の俺のエネルギーは、そこらへんの雑草を抜いて取り込んでみた。

事実上、ブラックホールは何でも取り込んでエネルギーに変換することが出来る。

まあ、まだまだ無尽蔵にエネルギーはあるので必要ないが……気分だ。

あと能力の練習も兼ねて。

そのうち、人の感情をとりこむってのも挑戦してみたい。


「あ、思いついた。」

「どうしたんですか?」


とりあえず、森で独り暮らしをしているアルタイルさんの家へお邪魔する事になった。

夕焼けをバックに石畳の道を3人と1匹で歩いていた時である。


「俺たち科学者組織の名前。」

「ほお!是非お聞かせください。」


アルタイルさんが茶色くつやつやになった髭を撫でながら振り向く。

俺と手をつないで歩いていたスピカも、さっき加入したばかりだ。


「やっぱ宇宙目指すならさ、俺がいた世界の航空宇宙局にあやかって、名前をつけたいなーって思ってさ?NASAって言うんだ。

俺の名前が零史(れいじ)だから、レサ!……だと語呂が悪いから……RENSA(レンサ)!

RENSA(レンサ)異世界航空宇宙局ってどーかな!?」


「RENSA(レンサ)ですか。呼びやすくて良いのではないですか?」

「スピカも、れんさ気に入ったの。」


「零史が気に入ったのなら、私も気に入りました。」

「ルナく~ん。」


ほっぺたを押し付けるようにルナを可愛がる。


「よし!RENSA(レンサ)異世界航空宇宙局!始動!!まずは飛行機から!」


俺は空いている方の拳を空につきだし、うっすらと空に見えてきた月にかかげた。


(こっちの世界にも月ってあるんだ。)


ちょっぴり涙が出そうになったのは内緒だ。


「いい?俺が『えいえい』って言ったら、皆で『おー!』って言うんだ。これから、この皆で頑張るぞって意味なんだよ?……いくぞ??えいえい!」

「「「「おーー!」」」」


俺たちは拳を天高くかかげた。

そろそろ宵の明星(いちばんぼし)が見えるだろう。


(それにしても、月が3つ見えるんだけど、どれから行こうかな?)


……この惑星(ほし)には、衛星が3つあるらしい。

未来への楽しみが増えた瞬間だった。



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