第25話

時は飛び、雪菜の家でお泊まりした日から一週間ほどが過ぎた。


今日は長かった春休みが終わる日だ。


そして同時に、新しい生活が始まる日でもある。


僕は久しぶりに大輝と待ち合わせ、一緒に学校に行く事にしていた。


「おお、大輝。おはよう」


「おう、おはよう」


挨拶もそこそこにして、僕達はさっさと学校に行く事にした。



電車に乗り、30分ほど揺られていると、高校に近い駅に止まるにつれて、同じ制服を着た人が増えていった。


「意外と多いな、俺たちの高校の生徒。」


「そうだなぁ………げっ」


げっ?


僕は大輝が見ている方向を見てみる。

すると、そこには合格者説明会で見かけたあの女の子がいた。


大輝は何故か後ろを向く。


「おい、何で後ろを向く?」


「いや……気づかれたら色々と面倒だから」


「へぇ……」


僕はすぐさま一歩後ろに下がり、一瞬で大輝に気づき、間合いを詰めてきた彼女のために空間を開けた。


まだ大輝は話し続けている。


「この前だって、急に呼び出されたかと思えば、買い物に付き合わされたし。」


「嬉しくなかったのか?」


「いや…別に、嬉しくないわけじゃないけど…」


「へぇ?」


…そろそろ大輝がかわいそうなので、教えてあげる事にする。


女の子もじっと大輝を見てるし。


「……なぁ大輝、誰に話してるんだ?」


「誰って、そりゃ拓海--------」


振り返った大輝は、ポカンと口を開けて固まってしまった。


そんな大輝を見て、彼女は太陽のような笑顔を浮かべて挨拶する。


「おはよう!大輝くん!」


「あ………え?」


大輝はまだ固まっている。


「大輝くん?朝の挨拶は"おはよう"だよ?」


「あ、はい……おはよう天沢さん」


お、動き出した。


「全く……それに、"春菜"って呼んでって言ったでしょ!」


「そうだっけ?」


「そう!」


「ま、また今度な。」


「えぇ………………ヘタレ」


何か最後に不穏な言葉が発せられた様な気もするが…………まあ、僕には関係ない。


取り敢えず、彼女に挨拶をする事にした。


「あの……」


「はい?誰ですか?」


「大輝の友達の結城だけど……」


「ああ、よく大輝くんが話している人ね?」


「そうなのか?取り敢えず挨拶しておこうと思って。」


「了解。……大輝くんの友達の、天沢春菜です。これからよろしく。」


何故か大輝と話す時とのテンションに差がある様な気がする。別に良いけど。


「こちらこそよろしく。」


彼女はニカっと明るく笑うと、また大輝の方に向き直り、弄りを再開しだした。


……頑張れ、大輝。


僕は心の中でそう思い、空気に徹する事にした。



しばらく2人のやり取りを聞いていて、分かってきたことがある。


……恐らく、天沢さんは大輝に好意を抱いているのだと思う。

でなければ、あんなに話しかけに行っていないだろうし、ずっと笑顔でいられるはずもない。


もちろん僕は2人を応援している。

だがな……


イラッとするんだよ!


世の男性諸君ならわかると思うが、男女が目の前でイチャイチャしていると感じる、イラァッ!とする気持ちだ。


イラッ、みたいな可愛いもんじゃない。


イラァッ!だ!


………まあ、それは置いておいて………


僕は大輝にそんな相手が出来たことは素直に嬉しいと思う。中学時代は、僕のせいでそんな相手は居なかったのだから。


僕は心の中で2人を応援すると、再び周囲のモブと一体化した。


* * *


学校の元寄り駅に着き、僕達は電車を降りて学校へと歩き出した。


通学路を歩いている途中で、天沢さんが話しかけてきた。


「ねぇ、結城くん。」


「ん?」


「女神の噂、知ってる?」


「女神?」


「うん。なんでも、新一年生に物凄いハイレベルの美少女がいるらしいの。どこかの人が、敬意を込めてそう呼んでるらしいけど…」


何だろう、凄く嫌な予感がする……


「へ、へぇ。一度見てみたいなぁ」


「そうよねぇ…………ん?」


「どうした?天沢さん。」


大輝が天沢さんに返事をする。


「あ、大輝くん。あそこに人が群がってて…」


「……おお、本当だ。」


僕もその方向を向いてみると、確かにドーナッツ状に人が群がっている。


行ってみよう…………


……いや待て、あの状況、前にも見なかったか?


もう一度見てみる。


……男子率が高い。


となれば、これは恐らく、雪菜が引き起こしている事態だろう。


僕はそう思い、集団の中に割り込む事にした。



集団の中には、案の定雪菜がいた。


しかし、前回見たような殺戮は起こっていなかった。


みんな遠目から雪菜を眺めている、そんな感じだ。


男子たちの中には、声をかけようと2、3人の中で話し合っている奴も居たが、どれも冗談めいていた。


僕は雪菜に気付いてもらう様に、小さく手をヒラヒラと振った。


すると………


「!!」


あっ、とした表情を浮かべた雪菜は、周りの目を気にしたのか、軽いジェスチャーで伝えてきた。


……"向こう"、"こっそり"ね。


僕は了解のサインを送ると、大輝と天沢さんをつれて歩き、近くの自動販売機の裏側に来た。


少し遅れて、雪菜も到着した。


「おはよう、雪菜。朝から災難だな。」


「おはよう…本当に疲れる……」


「おつかれ。」


疲れている雪菜には悪いが、かなりの数の人を振り払って来た。


疲れている雪菜には悪いが、ここはさっさと移動しなければならないと思った僕は、後ろにいる2人に声をかけた。


「2人とも-----」


「結城くん!」


「は、はい?」


「もしかして、この子が女神様!?」


「え?それは知らないけど………多分そう、かな?」


「知り合いだったんだ………」


「ああ、まあ色々あって。」


急にグイグイ質問してくる天沢さん。

それから逃れるために、僕は提案した。


「また機会があれば話すから。今は学校に行こう。」


「えぇ………」


渋る天沢さんを説得するのに、大輝も加勢してくれた。


「天沢さん、今は我慢。後でたっぷり聞き出せばいいから。」


すると、天沢さんはニマッ、と意地悪く笑い、頷いた。


大輝の言うことはちゃんと聞くんですね……


「そうね……後でたっぷり絞り出せば……」


……あまりいい結果とは言えないが、取り敢えず説得する事に成功したので、4人で学校に行こうとした。


したのだが……


「拓海。」


凍える様な声がした。

ゆっくり、振り返る。


……そこには、絶対零度の微笑みを浮かべた雪菜がいた。


凄絶な美貌に氷のオーラを纏わせている雪菜は、まるで何処かの説話に出てきそうな雪女のようだった。


物凄い圧力に、ヒクヒクと頬が引きつる。


「な、何かな?」


僕が震えながらそう言うと、雪菜はさらに微笑みを深くして、言った。


「…向こうに着いたら、この子を紹介しなさい。」


何故怒らせてしまったのか分からないのだが、とにかく雪菜が怖かったので、ブンブンと頭を縦に振った。


雪菜は一度頷くと、颯爽と歩き出した。


さっさと行く雪菜について行こうとして、僕はブルブルと震えている2人を連れて、雪菜の元へ急いだ。




<作者より>


読んでくださってありがとうございました!


フォロー、応援して下さった方も!

ありがとうございます!


さて、急ぎ足でしたが、遂に学校生活編に入りました!

(作者としても、そろそろネタが尽きていたので、早く入りたかったのです。)


それと、脇役ポジションの大輝ですが、余裕があれば大輝と春菜のエピソードも追加するつもりです。


これからも頑張りますので、応援よろしくお願いします!



……余談なのですが、読者の皆さんはポケモンGOをインストールしていますか?


最近、ギラティナ のレイドが終わったと思えば、何とダークライのレイドが始まったので、僕は放課後ゲットしに行きました!


ダークライは……良いですよね。

(映画では)































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