第25話
時は飛び、雪菜の家でお泊まりした日から一週間ほどが過ぎた。
今日は長かった春休みが終わる日だ。
そして同時に、新しい生活が始まる日でもある。
僕は久しぶりに大輝と待ち合わせ、一緒に学校に行く事にしていた。
「おお、大輝。おはよう」
「おう、おはよう」
挨拶もそこそこにして、僕達はさっさと学校に行く事にした。
*
電車に乗り、30分ほど揺られていると、高校に近い駅に止まるにつれて、同じ制服を着た人が増えていった。
「意外と多いな、俺たちの高校の生徒。」
「そうだなぁ………げっ」
げっ?
僕は大輝が見ている方向を見てみる。
すると、そこには合格者説明会で見かけたあの女の子がいた。
大輝は何故か後ろを向く。
「おい、何で後ろを向く?」
「いや……気づかれたら色々と面倒だから」
「へぇ……」
僕はすぐさま一歩後ろに下がり、一瞬で大輝に気づき、間合いを詰めてきた彼女のために空間を開けた。
まだ大輝は話し続けている。
「この前だって、急に呼び出されたかと思えば、買い物に付き合わされたし。」
「嬉しくなかったのか?」
「いや…別に、嬉しくないわけじゃないけど…」
「へぇ?」
…そろそろ大輝がかわいそうなので、教えてあげる事にする。
女の子もじっと大輝を見てるし。
「……なぁ大輝、誰に話してるんだ?」
「誰って、そりゃ拓海--------」
振り返った大輝は、ポカンと口を開けて固まってしまった。
そんな大輝を見て、彼女は太陽のような笑顔を浮かべて挨拶する。
「おはよう!大輝くん!」
「あ………え?」
大輝はまだ固まっている。
「大輝くん?朝の挨拶は"おはよう"だよ?」
「あ、はい……おはよう天沢さん」
お、動き出した。
「全く……それに、"春菜"って呼んでって言ったでしょ!」
「そうだっけ?」
「そう!」
「ま、また今度な。」
「えぇ………………ヘタレ」
何か最後に不穏な言葉が発せられた様な気もするが…………まあ、僕には関係ない。
取り敢えず、彼女に挨拶をする事にした。
「あの……」
「はい?誰ですか?」
「大輝の友達の結城だけど……」
「ああ、よく大輝くんが話している人ね?」
「そうなのか?取り敢えず挨拶しておこうと思って。」
「了解。……大輝くんの友達の、天沢春菜です。これからよろしく。」
何故か大輝と話す時とのテンションに差がある様な気がする。別に良いけど。
「こちらこそよろしく。」
彼女はニカっと明るく笑うと、また大輝の方に向き直り、弄りを再開しだした。
……頑張れ、大輝。
僕は心の中でそう思い、空気に徹する事にした。
*
しばらく2人のやり取りを聞いていて、分かってきたことがある。
……恐らく、天沢さんは大輝に好意を抱いているのだと思う。
でなければ、あんなに話しかけに行っていないだろうし、ずっと笑顔でいられるはずもない。
もちろん僕は2人を応援している。
だがな……
イラッとするんだよ!
世の男性諸君ならわかると思うが、男女が目の前でイチャイチャしていると感じる、イラァッ!とする気持ちだ。
イラッ、みたいな可愛いもんじゃない。
イラァッ!だ!
………まあ、それは置いておいて………
僕は大輝にそんな相手が出来たことは素直に嬉しいと思う。中学時代は、僕のせいでそんな相手は居なかったのだから。
僕は心の中で2人を応援すると、再び周囲のモブと一体化した。
* * *
学校の元寄り駅に着き、僕達は電車を降りて学校へと歩き出した。
通学路を歩いている途中で、天沢さんが話しかけてきた。
「ねぇ、結城くん。」
「ん?」
「女神の噂、知ってる?」
「女神?」
「うん。なんでも、新一年生に物凄いハイレベルの美少女がいるらしいの。どこかの人が、敬意を込めてそう呼んでるらしいけど…」
何だろう、凄く嫌な予感がする……
「へ、へぇ。一度見てみたいなぁ」
「そうよねぇ…………ん?」
「どうした?天沢さん。」
大輝が天沢さんに返事をする。
「あ、大輝くん。あそこに人が群がってて…」
「……おお、本当だ。」
僕もその方向を向いてみると、確かにドーナッツ状に人が群がっている。
行ってみよう…………
……いや待て、あの状況、前にも見なかったか?
もう一度見てみる。
……男子率が高い。
となれば、これは恐らく、雪菜が引き起こしている事態だろう。
僕はそう思い、集団の中に割り込む事にした。
*
集団の中には、案の定雪菜がいた。
しかし、前回見たような殺戮は起こっていなかった。
みんな遠目から雪菜を眺めている、そんな感じだ。
男子たちの中には、声をかけようと2、3人の中で話し合っている奴も居たが、どれも冗談めいていた。
僕は雪菜に気付いてもらう様に、小さく手をヒラヒラと振った。
すると………
「!!」
あっ、とした表情を浮かべた雪菜は、周りの目を気にしたのか、軽いジェスチャーで伝えてきた。
……"向こう"、"こっそり"ね。
僕は了解のサインを送ると、大輝と天沢さんをつれて歩き、近くの自動販売機の裏側に来た。
少し遅れて、雪菜も到着した。
「おはよう、雪菜。朝から災難だな。」
「おはよう…本当に疲れる……」
「おつかれ。」
疲れている雪菜には悪いが、かなりの数の人を振り払って来た。
疲れている雪菜には悪いが、ここはさっさと移動しなければならないと思った僕は、後ろにいる2人に声をかけた。
「2人とも-----」
「結城くん!」
「は、はい?」
「もしかして、この子が女神様!?」
「え?それは知らないけど………多分そう、かな?」
「知り合いだったんだ………」
「ああ、まあ色々あって。」
急にグイグイ質問してくる天沢さん。
それから逃れるために、僕は提案した。
「また機会があれば話すから。今は学校に行こう。」
「えぇ………」
渋る天沢さんを説得するのに、大輝も加勢してくれた。
「天沢さん、今は我慢。後でたっぷり聞き出せばいいから。」
すると、天沢さんはニマッ、と意地悪く笑い、頷いた。
大輝の言うことはちゃんと聞くんですね……
「そうね……後でたっぷり絞り出せば……」
……あまりいい結果とは言えないが、取り敢えず説得する事に成功したので、4人で学校に行こうとした。
したのだが……
「拓海。」
凍える様な声がした。
ゆっくり、振り返る。
……そこには、絶対零度の微笑みを浮かべた雪菜がいた。
凄絶な美貌に氷のオーラを纏わせている雪菜は、まるで何処かの説話に出てきそうな雪女のようだった。
物凄い圧力に、ヒクヒクと頬が引きつる。
「な、何かな?」
僕が震えながらそう言うと、雪菜はさらに微笑みを深くして、言った。
「…向こうに着いたら、この子を紹介しなさい。」
何故怒らせてしまったのか分からないのだが、とにかく雪菜が怖かったので、ブンブンと頭を縦に振った。
雪菜は一度頷くと、颯爽と歩き出した。
さっさと行く雪菜について行こうとして、僕はブルブルと震えている2人を連れて、雪菜の元へ急いだ。
<作者より>
読んでくださってありがとうございました!
フォロー、応援して下さった方も!
ありがとうございます!
さて、急ぎ足でしたが、遂に学校生活編に入りました!
(作者としても、そろそろネタが尽きていたので、早く入りたかったのです。)
それと、脇役ポジションの大輝ですが、余裕があれば大輝と春菜のエピソードも追加するつもりです。
これからも頑張りますので、応援よろしくお願いします!
……余談なのですが、読者の皆さんはポケモンGOをインストールしていますか?
最近、ギラティナ のレイドが終わったと思えば、何とダークライのレイドが始まったので、僕は放課後ゲットしに行きました!
ダークライは……良いですよね。
(映画では)
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